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新・フラメンコのあした vol.41

  • 4 日前
  • 読了時間: 4分

(miércoles, 1 de julio 2026)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。

今月は、今年4月にマドリードで上演されたラファエラ・カラスコの劇場公演についてのリポートです。

 

ラファエラ・カラスコ

『ウモ』

セントロ・ダンサ・マタデーロ(ナベ11)、マドリード、スペイン

2026年4月19日

 

Rafaela Carrasco

"Humo"

Centro Danza Matadero (Nave11), Madrid.

19 abril 2026.

 

文/東 敬子

Texto por Keiko Higashi

画像/宣伝素材、東 敬子

Fotos por promoción, Keiko Higashi


2607_rafaela carrasco - humo

 

ラファエラ・カラスコ(Rafaela Carrasco) は、日本では割と隠れた存在かも知れません。1972年セビージャ生まれの現在54歳。サラ・バラスやエバ・ジェルバブエナの1、2歳年下なので、ほぼ同期。それもあってか、この2大スターの影に隠れてしまった印象は否めませんが、2023年には文化庁から贈られるダンス賞も受賞した実力派であり、間違いなく現代バイレを牽引してきた一人です。

 

この世代の特徴は、男女を問わず、バイレフラメンコの現代的アプローチを積極的に押し進めたところにあります。ラファエラは、伝統的なフラメンコを極めたからこそ出来る、現代的で斬新な振り付けや舞台作りに定評があり、そのシャープでクールな足捌きと、それに相反したふとした時に溢れ落ちるセビージャの優雅さで観客を魅了します。

 

今回、世界初演となる新作『ウモ(けむり)』でラファエラは、6人のバイラオーラ(クリスティーナ・ソレール、マグダレナ・マニオン、カルメン・コイ、ナサレ・オリーバ、アレハンドラ・グディー、クリスティーナ・サン・グレゴリオ)と共に、「ラス・シガレーラス」の物語を綴って行きます。

 

19世紀から20世紀半ばにかけて、王立タバコ工場は主にマドリードとセビージャで大々的に展開されていました。そしてその労働力を担っていたのが「シガレーラス」と呼ばれる女性たちでした。彼女たちは、スペインにおける労働運動や抗議活動を主導した最初の女性たちでもありました。

 

そんな強いイメージから、「ラス・シガレーラス」は、当時の小説や物語の主人公として度々登場し、中でもフランス人作家プロスペル・メリメが描いた『カルメン』(1845)の主人公カルメンは有名ですね。カルメンと言えばフラメンコではやはりアントニオ・ガデスのそれが思い浮かびますが、今作品『ウモ』でも、男が介入しない女だけの世界の描写が、時に和やかに、時に赤裸々に綴られて行きます。

 

女性たちが休憩時間にそれぞれ葉巻をくゆらせるシーン(多分、電子タバコでしょうね)は、タバコが視界から消滅しつつある現代では、何かリアルにノスタルジーを感じてしまいました。ちなみに、このシーンでダンサーたちはそれぞれのポーズで葉巻をくゆらせるだけでしたが、その昔、ロシオ・モリーナが作品中で本物の葉巻を吸った時は、吸いながら踊ってましたからね。よく煙を吸いながらあんなに激しく踊れるなあーと驚いたものです。あれはアッパレでした(笑)。

 

ギターにヘスス・トーレス、カンテにヘマ・カバジェーロを迎え、イシドラ・オライアンのチェロとマルタ・エスタールの歌声が神秘的な雰囲気を醸し出します。今回も、ラファエラの真骨頂とも言うべき、モダンな動きに彩られた鋭い足捌きは見事で、一人で何曲もこなす50代半ばとは思えない驚異的な体力も健在でした。そしてモダンな中にも忘れないフラメンコの根っこは観る者の心を鷲掴みしました。

 

ラファエラの舞踊団に限らず、サラやエバ、そして彼女たちと同時期に一時代を築いたマリア・パヘスもそうですが、「スターが引っ張っていく舞踊団」は、主役が高齢になればなるほど存続が難しくなっていく。なぜなら、観客が観たいのはそのスターだから。どんなに作品が素晴らしくても、スターが沢山踊らなければ観客は納得しない。60代のマリアはもとより、50代半ばの彼女たちも今、その危機に直面しているのです。じゃあ、どうしたらいいか。私は、その危機を回避するには「主役と群舞」という構図ではなく、「主役とその他の配役」という構成が必要なのではないかと感じています。


2607rafaela carrasco - humo (c) keiko higashi
Rafaela Carrasco - Humo (c) Keiko Higashi

今回の作品では、ラファエラの素晴らしさは良く伝わってきたし、面白い作品だったと思います。ただいかんせん、他6人のバイラオーラの印象は「群舞」に留まっている。女性が6人集まればいろんな人がいるはず。それぞれのパーソナリティがもっとビビットに描かれれば、帰り道で「あの子は性悪だった」「あの子はお調子者だった」と思い出せる役の個性が描かれていれば、それぞれのバイレももっと印象に残ったはず。上手いのはわかるけど、みんなまとめて上手い。もっと「顔」が分かる演出であれば、例え主役の出番が減っても、興味は引き継がれるのではと思うのです。

 

ラファエラの今後の活躍を応援すると共に、フラメンコ舞踊団のこれからのあり方も、興味深く見つめていきたいと思っています。



【筆者プロフィール】

東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。

 

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