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スペインNews 12月号・2025

  • norique
  • 2 日前
  • 読了時間: 17分

(sábado, 6 de diciembre 2025)

 

文・写真/志風恭子

Texto y fotos por Kyoko Shikaze


いやあ、11月はフラメンコが世界遺産に認定された月というのもあるのか、フラメンコ関係のイベントが目白押し。劇場公演が重なることも多く、何をみにいくか決めるのに悩みまくるという…当然見逃したものも多く、記事や他の人のSNS投稿をみて地団駄踏むという毎日です。夏時間が終わって日本との時差は8時間。日が暮れるのも早くなったし、急に寒くなったし、雨も降るし、毎日の夜のお出かけも大変です。


A_2512志風_トリアーナ

11月5日の満月をトリアーナ橋からのぞむ


《INDEX》


【ラファエル・リケーニ『ネルハ』】

1日はセビージャのオペラハウス、マエストランサ劇場でご当地、セビージャ出身のギタリスト、ラファエル・リケーニのリサイタル。新譜『ネルハ』はマラガ県ネルハにある洞窟発見のエピソードを描いた作品と聞いていたのでそれをそのまま演奏するやと思いきや、第一部はソロとゲストの踊り手マリア・モリーナや歌い手イスラエル・フェルナンデスとフラメンコを、第二部はチェロ奏者と数曲、サルバドール・グティエレスとマヌエル・デ・ラ・ルスの実力派二人とのトリオで、新譜の曲を中心に旧作も、という構成でした。


B_2512志風_ラファエル・リケーニ
©︎ Teatro de la Maestranza/Guillermo Mendo

今回も作曲家としての才能を発揮した美しい曲たちで、休憩を挟んで2時間超えのコンサートもあっという間。舞踊伴奏の時はしっかり踊り手を見て演奏するし、歌い手の歌を聴いて、決して先走らない伴奏もさすが。私がスペインに来た頃の、注目の若手がいつの間にかベテランになっているのに時の流れを感じます。

 


【セビージャ ギター祭】

1日はリケーニを聴きに行ってしまったので、ペドロ・シエラ、ラ・トバラ夫妻のコンサートこそ逃してしまいましたが、その他の、エスパシオ・トゥリーナで行われたフラメンコギター公演は欠かさず行って参りました。

5日はクラシックが菅沼聖隆。かつて留学しクラシックギターを学び、2017年にはこのフェスティバルのコンクールで優勝した彼の凱旋。


C_2512志風_菅沼聖隆
©︎ Festival de la Guitarra de Sevilla 

『ベネズエラ組曲』『コロンビア組曲』など全編中南米テイスト。リズミカルな曲が多く、クラシックギター素人も楽しく聴くことができました、日本ではフラメンコでも大活躍の人だけど、クラシックの公演もやっているのでチャンスがあればぜひ聴いてみてください。

 

続くフラメンコはセビージャのマヌエル・エレーラ親子。歌伴奏を主にフェスティバルなどで活躍しているマヌエルは音楽院のフラメンコギター教授。息子はコルドバ音楽院出身。昔ながらのレパートリーをたっぷり聞かせてくれました。


D_2512志風_マヌエル・エレーラ親子
©︎ Festival de la Guitarra de Sevilla 

6日はクラシックがゾーラン・ドゥキッチ、フラメンコはヘレスのサンティアゴ・ララ。踊り手メルセデス・ルイスの夫で、ソロアルバムを何枚か出しています。スペイン国立バレエ団のレパートリーとしてもお馴染みのサラサーテのサパテアードなど8曲。テクニックのあるうまいギタリストで、伝統をベースに新しい試みなども取り入れています。


E_2512志風_サンティアゴ・ララ
©︎ Festival de la Guitarra de Sevilla 

フェスティバル最終日の7日はクラシックがデヤン・イヴァノヴィッチ。フラメンコはダビ・デ・アラアル。このダビの演奏がすごかった。素晴らしかった。このフェスティバルではクラシックだけじゃなくフラメンコもマイクなしなのだけど、誰よりも大きい、よく通る美しい音で、音を出さずとも回るコンパスで静寂さえも音楽にしてしまう達人。まだ25歳だけど、すでに自分のスタイルを確立している。マノロ・サンルーカルやラファエル・リケーニにも通じる、叙情的な演奏は次代を担うにふさわしい。若いギタリストが音を詰め込み速弾きに走る中、このゆったり、我が道を行くという感じは貴重。若い日に、コルドバのギター祭のクラスなどに足繁く通っていたことや、マヌエル・デ・ラ・トマサやサンドラ・カラスコへの歌伴奏、アントニオ・カナーレスへの舞踊伴奏等と地道に経験を積んでいるのが身を結んでいるのでしょう。


F_2512志風_ダビ・デ・アラアル
©︎ Festival de la Guitarra de Sevilla 

【デ・タル・パロ/フラメンコのファミリー】

8日は再びマエストランサ劇場で『デ・タル・パロ』。フラメンコの名門ファミリーのアルティスタを集めたオリジナル作品。歌い手レブリハーノの甥、ペーニャ家のドランテスのピアノで、ヘレスのソルデーラ家、ビセンテ・ソトの娘レラ・ソトがヒターノという民族のテーマ、つまり国歌のような『ジェレン・ジェレン』を歌って始まり、続いて、言わずと知れたファルーコ一家のファルキートが踊る開幕。


G_2512志風_ドランテス/レラ・ソト
©︎ Teatro de la Maestranza/Guillermo Mendo

カルメン・アマジャの姪の娘、カリメのソレアが会場をわかせます。トマティートの息子、ホセ・デ・トマテのソロは聴くたびに上手くなっているし、イスマエル・デ・ラ・ロサのソレアも身震いするくらいに良かった。彼はエスペランサの従兄弟の息子。舞踊伴唱が多いけど、いやいや、声はもちろん、間合い、細部の彩りなどどれをとっても素晴らしくオレ!ドランテスのソロを挟んで聞かせたガレーラス(レブリハーノの名曲)も真似ではなく自分なりに消化していたのが良かったし、続くファルキートのアレグリアスでも、エセキエル・モントージャとともに力強く素晴らしい歌を聞かせてくれました。ギターのペドロ・シエラもすごかったし。


H_2512志風_ファルキート
©︎ Teatro de la Maestranza/Guillermo Mendo

そしてレラ・ソトのシギリージャ、これも絶品。メロディの落ちるところも最後あげていくのもすごくいい。若いのに巧みな歌い手。ヘレスの血なのかなあ。最後はドランテスのヒット曲『オロブロイ』。

ホセ、イスマエル、レラと若手に圧倒され、フラメンコの未来は明るいと思わされたことでした。フラメンコはヒターノだけのものではないけど長年フラメンコを支えてきたファミリーたちの底力というのもありますね。

 

 

【セビージャ欧州映画祭「セラス・ファルキート」】

11月7日から15日までは恒例のセビージャ欧州映画祭が開催。2004年に始まった映画祭で、毎年いくつかのフラメンコ関連映画がいくつか上映されていますが、今年は『アントニオ、エル・バイラリン・デ・エスパーニャ』『ファンダンゴ』、クリスティーナ・オヨスの伝記映画『スエニョス・フラメンコス』などが上映されました。


そんな中で最も注目を集めたのはコンペティション不参加の公式作品だった『セラス・ファルキート』でした。11日カルトゥハセンターで行われた公式上映では過去現在の共演者をはじめたくさんのフラメンコ・アーティストや関係者も姿を見せ華やかな雰囲気でした。


『セラス・ファルキート』



I_2512志風_欧州映画祭

沖縄にルーツを持つアメリカ在住フラメンコ舞踊家でプロデューサーのアミ・マイナーズさんのアイデアで始まったドキュメンタリー映画でアメリカとスペインの共同制作-監督作品。


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記者会見 ©︎ Festival de Sevilla

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左から司会者、リューベン・アトラス、サンティ・ガリード両監督、ファルキート、アミ・マイナーズ、ノエリア・コルテス ©︎ Kyoko Shikaze


古いビデオや写真なども豊富に取り入れて、スペインの稽古場、ニューヨークの舞台、楽屋などでのファルキートを中心に、祖父ファルーコ、母ファルーカ、弟ファルー、息子モレーノなど家族の物語や、祖父や父の死、2003年のひき逃げ死亡事故やその後の結婚の話なども避けることなく語られています。フラメンコ好きなら必見の映画に違いありません。来年にはぜひ日本でも上映されて欲しいものです。


L_2512志風_セラス・ファルキート


【ヘレス、フラメンコ学会のプレミオ・ナショナル】

11月9日はヘレスのフラメンコ学会によるプレミオ・ナショナルの授賞式が、ヘレスのあたらじゃ博物館で行なわれました。1964年に始まったこの賞、当初は毎年だったのが1年おきになるなど不定期ながらも長年続いていましたが、会を率いていたフアン・デ・ラ・プラタが2015年に亡くなったこともあってか、2012年以来中断していたのが2023年に復活しました。


今年の受賞者は以下の通りです。

カンテ;マイテ・マルティン

バイレ;アナ・マリア・ブエノ

ギター;フアン・マヌエル・カニサーレス

研究;クリスティーナ・クルセス

熟練;フアン・ビジャール

普及;ホセ・マリア・カスターニョ

研究特別賞;エウラリア・デ・パブロ

名誉賞;カリスト・サンチェス


またヘレスの人のみを対象にしたコパ・ヘレスは、

カンテ;エンリケ・ソト

バイレ;レオノール・レアル

ギター;ホセ・ケベド“ボリータ”


M_2512志風_ヘレス・プレミオ・ナショナル

おめでとうございます。



【アンダルシア・フラメンコ】

アンダルシア州のフラメンコ公演シリーズ、アンダルシア・フラメンコ。かつてはフラメンコ・ビエネ・デル・スールという名前で毎週火曜日にセビージャのセントラル劇場で始まり、その後、グラナダとマラガのアンダルシア州立の劇場などでも行われるようになったもので、名前は変わったものの今年もセビージャ、グラナダ、マラガで開催されました。


セビージャではアンダルシア舞踊団が5、6日『ピネーダ』、7、8日『ティエラ・ベンディータ』で始まり、翌週から舞踊、カンテ、フュージョン系など様々なフラメンコが10公演行われました。

13日はマリア・モレーノ『マグニフィカ』。今年マドリードのビエナルで初演された作品。バタ・デ・コーラにマントンと言った王道のフラメンコもちょっと捻って見せて行き・ロベルト・ハエンとのコンパス合戦が最高。彼女と同じカディス出身の女優さんがオレグアパみたいな掛け声を続けて歌にして歌い踊りというアナーキーな場面やラウル・カンティサノのエレキギターやらマリアのカスタネットやら盛りだくさん。踊りまくってくれました。

翌日14日のアウロラ・バルガスはエル・ペルラのギターでアレグリアス、ソレア、タンゴ、シギリージャ、ブレリアと歌い踊り、正統派純粋熱血鉄火肌フラメンコを堪能させてくれました。歌というよりフラメンコ。マヌエラ・カラスコみたいな感じ。いるだけでいい。することなすことフラメンコ。

15日のリン・コルテスはコルドバのフラメンコのシンガーソングライター的な人で弾き語り。パコ・デ・ルシアの曲に詩をつけて歌ったりもして、オーソドックスなフラメンコとは違うけど、広い意味ではフラメンコに入るのでしょう。


16日、フラメンコの日はアンダルシア州主催の、14歳から25歳までを対象とした青少年コンクールの覇者たちのガラ公演。カンテのセリア・オルテガは1音程もリズムいいし声がしっかり前に出ている。すでにある程度完成されている感じがあるのに16歳。ギターのハビエル・アルコスも同じく16歳。ソロではパコ・デ・ルシアのフレーズをバリバリ演奏。複雑なフレーズに気を取られすぎてブレリアのコンパスがうまく回っていないのが残念。これからに期待。楽器部門はピアノのハビエル・セシリア。伝統的なフラメンコ・ピアノという感じ。そして舞踊はクラウディア・ラ・デブラ。小さい頃から活躍しているグラナダ出身の踊り手で、現在はアンダルシア舞踊団在籍中。プロとしてバリバリ活躍しているだけにもちろん上手で文句のつけどころはないけど欲を言えばこの人ならではの魅力みたいなものが見えてくるといいだろうな、と思ったのでありました。

最後全員で共演したのは良かったな。聞くところによるとアンドレス・マリンが構成したらしい。ただ順番に出てくるだけのガラよりは作品ぽくなっていたのはそういうわけなのですね。


N_2512志風_アンダルシア・フラメンコ
©︎ Alejandro Fidalgo/Junta de Andalucía

20日はメルセデス・ルイスとサンティアゴ・ララ『ドゥアル』。フラメンコのメッカ、ヘレス出身の二人による、フラメンコの魂的存在のカンテなしでの作品。『禁じられた遊び』に始まり、古い録音やビデオで踊ったり、アバニコやマントン、カスタネットを使ったりと、いろいろ工夫をして、まとまりのある作品にはなっているのだけど、先日のサンティアゴのリサイタルとほぼ同じ曲だったのはびっくり。

21日はイスラエル・ガルバン『エダ・デ・オロ』だったのですが、ヘレスで観たのでパスして22日はマリア・テレモート『マニフィエスト』は新譜をタイトルにした作品。新譜の曲のほかローレ・イ・マヌエルの曲歌ったり、カンシオン歌ったり、ソロンゴをキーボードで弾き語りしたり、ルンバでは客席に歌うようにあおったりと大活躍。25歳でおそらく最も公演数の多いカンタオーラで2児の母。これからの展開も楽しみ。


なお最後の週はペーニャ公演に行くため 若手バイラオール、フアン・トマス・デ・ラ・モリアや今流行のジェライ・コルテス公演は行けず、トレメンディータのみ観に行きましたが、これが良かった。エレキギターでの弾き語りも、などというと奇異に感じる人もいるかもしれませんが、小さい時から聞いてきた音楽が彼女の中で発酵して独自のスタイルが自然に生まれたという感じ。マヌエル・レイナのロックなドラムが刻むコンパス、ダニ・デ・モロンのギターとの相性も抜群。ソレアやトナ、ベルディアーレス、ミロンガ、ブレリアなどなどフラメンコの基礎をしっかり学び、ソロに伴唱にと経験も積んでしっかり持っている人だからこそ、今の自由が手に入れられたのでしょう。


O_2512志風_トレメンディータ
マヌエル・レイナ、トレメンディータ、ダニ・デ・モロン

 

【フラメンコ・エクスプエスト】

11月16日、フラメンコの日、アンダルシア州では正午から各県のミュージアムで無料のフラメンコ公演が行われました。セビージャではアンダルシア現代美術センターで、アンドレス・マリンが舞踏の大野一雄がアルヘンティーナをみて踊り始めたことなどへのオマージュも込めた日本的なイメージを込めて、頭に折り紙を載せ、羽織を衣装に、サックスとコントラバスの奏でるバッハやファリャの音楽で踊りました。フラメンコのテクニックを使いながらも現代美術館にふさわしいコンテンポラリーなパフォーマンスでしたが、舞台前、1列目に座ったパトリシア・デル・ポソ州文化長官の足元、床に座り込んだ子供達も身動きしないほど、緊張感にあふれた舞台でありました。


P_2512志風_フラメンコ・エクスプエスト
©︎ Junta de Andalucía

なお、このほかにもサラ・ヒメネスがアルメリアの写真センター、アナ・モラーレスがカディスの現代文化センターというように、各地で行われたのは全てコンテンポラリー系の舞踊公演でありました。

 

【コルドバのコンクール】

現在続いているフラメンココンクールの中で最も古い歴史を誇るコルドバのコンクールが11月、コルドバ市立のゴンゴラ劇場、グラン・テアトロで開催されました。

3年に1度開催されるこのコンクールは数あるフラメンココンクールの中でも権威のあるものの一つとされ、過去の受賞者には1956年、第1回のフォスフォリートに始まり、1965年のマティルデ・コラル、1968年のパコ・デ・ルシアなど錚々たる顔ぶれが並びます。かつてはグループ分けされた曲種ごとの受賞でしたが、2010年に大幅な改革が行われ、カンテ、ギター、舞踊、各部門1名のみの優勝となりました。

第24回となった今年はそれにギター以外の楽器部門も新設されました。楽器部門以外3部門の予選は11月3日からゴンゴラ劇場で行われ、そこで選出された各部門3人と楽器部門の3人。計12人が17日から3日間グラン・テアトロで行われた決勝に進みます。発表は20日朝。今年の受賞者は以下の通りでした。

 

カンテ部門 サラ・デネス

コルドバ県カニェテ・デ・ラス・トーレス出身の48歳。パコ・ペーニャのカンパニーで活躍。またコルドバの音楽院教授でもある。


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©︎ Rafael Alcaide- CNAF IMAE

バイレ部門 クリスティーナ・ソレール

グラナダ出身、舞踊学院卒業。メルセデス・ルイスやラファエラ・カラスコの作品、タブラオなどで活躍。


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©︎ Rafael Alcaide- CNAF IMAE

 

ギター部門 アンヘル・フローレス

1998年マドリード圏トレホン・デ・アルドス生まれ。コルドバ音楽院に学び、ハエンやヘレスのコンクールで入賞。


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©︎ Rafael Alcaide- CNAF IMAE

 

楽器部門 フアンフェ・ペレス

1986年ウエルバ県ビジャヌエバ・デ・カスティジェホ生まれ。音楽院でギターを学んだのち、ベースに転向。オルガ・ペリセやトレメンディータら数多くのフラメンコたちと共演。2023年ラテングラミーにもノミネート。


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©︎ Rafael Alcaide- CNAF IMAE

 【第8回パストーラ・パボン文化週間 en ペーニャ、トーレス・マカレーナ】

フラメンコ史上最高のカンタオーラと言ってもいい、1890年生まれのパストーラ・パボン“ニーニャ・デ・ロス・ペイネス”が亡くなったのが1969年11月26日。ということで、セビージャを代表するペーニャ、トーレス・マカレーナでは毎年11月後半に、パストーラ・パボン文化週間と題して女性アーティストの公演を集中的に行なっています。


U_2512志風_パストーラ・パボン文化週間

初日、19日のパトリシア・ゲレーロがすごかった。男装でのシギリージャはキリッと男前に。リズムの刻み方のかっこよさ。形の美しさ。曲をしっかり表現。


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カンテソロでのティエントからのタンゴは華やかに。サクロモンテの洞窟の婆様が踊るような昔ながらの振りも彼女が踊ると一捻りからの宙返りくらいの勢いで新鮮。これぞフラメンコという心地よさ。


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後半のソレア・ポル・ブレリアも圧巻で、劇場公演と同じように衣装から髪型まで一つも手を抜かず、ダニ・デ・モロンのギターも生音で至近距離で彼女を満喫できたのは幸福至極。フラメンコって最高。


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翌週27日にはセビージャのビエナルの生みの親で長らく監督を務めたフラメンコ研究家で詩人のホセ・ルイス・オルティス・ヌエボによるパストーラについての講演があり、その後アナ・モラーレスが登場。これがまたすごかった。最近は凝った舞台作品が多く、シンプルに伝統的なフラメンコを踊ることが少なかったのですが、前半はフラン・ビヌエサのギターソロ、マヌエル・パハレスのカンテソロのあと、それはそれは見事なタラントを見せてくれました。


Y_2512志風_アナ・モラーレス

タラントらしい抑制の効いた中に現れるさまざまな感情。悲しみや苦しみ、やるせなさ、悔しさ、ささやかな喜び、重い荷物を持って歩く人生の中でも輝く瞬間があるよね、なんて想像してしまうようなドラマチックで、美しく、エレガント。後半はロンドロのカンテソロのあと、シギリージャ。講演でパストーラが男尊女卑の時代でも自由な女性だった(それゆえ生前はあまり尊重されていなかった)という話を聞いたこともあってか、女性と自由がテーマであるかのように見てしまいました。思い切って鎖を断ち切って前に進んでいく女性のような。


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フィン・デ・フィエスタでは先週のヒロイン、パトリシアも舞台に上がりましたが、スタイルは違っても、今のフラメンコ舞踊の最前線を切り開いていく戦友のような二人。ペーニャならではの至近距離、生音での舞台でも、劇場の舞台に勝るとも劣らない、素晴らしいパフォーマンスをみせてくれました。幸せ。


 

 

【フラメンコと絵画】

11月25日にはアンダルシア・フラメンコ研究所で、フラメンコとグラフィックアートについてのトークとライブペイントが行われました。「難どころ、フラメンコとグラフィックアート」と題したパネルディスカッションでは、写真家で画家で、パコ・デ・ルシア『ファリャ(ほのお)』など数多くのレコードジャケットを手がけたマシモ・モレーノと、ここ数年多くのイベントのポスターなどを多く描いているパトリシオ・イダルゴが登壇。それぞれの経験を語り、最後にパトリシオ・イダルゴがパーカッション演奏でライブペインティングを披露。


瞬く間に描かれていくフラメンコ。作品集も発売されています.

 

 

【訃報/フォスフォリート】


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1989年アラウリン・デ・ラ・トーレのフェスティバル。伴奏はエンリケ・デ・メルチョール ©︎ Kyoko Shikaze

 

11月13日、マラガ地方大学病院で、歌い手フォスフォリートが亡くなりました。本名アントニオ・フェルナンデス・ディアス。1932年8月3日、コルドバ県プエンテ・ヘニル生まれというから93歳。幼い頃から歌い始め、1956年第1回コルドバのコンクールで全5部門優勝という圧倒的な実力で注目され、後、20枚以上のアルバムをフアン・アビチュエラやパコ・デ・ルシアらの伴奏で録音しています。深い知識と広いレパートリーで知られ、各地のフェスティバルなどで長年活躍。1974年には小松原庸子スペイン舞踊団の招きで来日、東京での公演に出演しています。1968年ヘレスのフラメンコ学会賞、1985年コンパス・デ・カンテ賞、1999年パストーラ・パボン賞、2005年カンテ黄金のかぎ、2006年アンダルシア州メダル、2007年美術金メダルなど数多くのフラメンコ及び文化部門の賞を受賞している実力者。長年マラガ県アラウリン・デ・ラ・トーレに住んでいましたが、アラウリンでは一日、出身地であるプエンテ・ヘニルは三日間、私立フラメンコ・センターにも彼の名をつけるなどゆかりの深いコルドバ市やマラガ市も二日間喪に服し、市役所には半旗が掲げられました。


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2002年5月セビージャ、アンダルシア州文化庁にて。パコ・デ・ルシアのパストーラ・パボン賞授賞式にて。左からレメディオス・アマジャ、パコ、フォスフォリート、ライムンド・アマドール、ポティート


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2003年5月コルドバ グエアンテアトロで。コンクールの優勝者ガラの前に。左からロベルト・ヒメネス夫妻、一人置いてフォスフォリート、マリオ・マジャ、座っているのはマティルデ・コラル


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2008年2月ヘレス フラメンコ学会賞授賞式にて。フォスフォリート、筆者、チャノ・ロバート、ホセ・ガルバン

 

 

【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。

 

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