カンテフラメンコ奥の細道 on WEB no.53
- norique
- 4 日前
- 読了時間: 3分
(sábado, 11 de octubre 2025)
文/エンリケ坂井
Texto por Enrique Sakai

Malagueña de Chacón ①
エル・メジーソ、ラ・トゥリニと並んでよく歌われるのがチャコンのマラゲーニャですが、今回からその数々のスタイルを取り上げます。
Antonio Chacón García(アントニオ・チャコン・ガルシーア)は1869年ヘレス・デ・ラ・フロンテーラに生まれ1929年マドリーで亡くなった、「カンテの皇帝」と呼ばれ“ドン”の敬称を付けられた大カンタオールです。
ヘレスのもう一人の歴史に残る大物、マヌエル・トーレとよく比べられますが、片やカンテ・ヒターノ、片やカンテ・アンダルーの名人としてそのレパートリーも正反対にいる二人の名人と言えるでしょう。
マヌエル・トーレは理屈抜きに人間の根元にある野性や悲しみ、遥か昔からの遺伝子に残る懐かしい記憶、恐れなどの様々な感情を我々の心の中から想い起こさせてくれます。
まさにヒターノ達が持っている声の響き、その発声による色合い、人間性によって深い悲哀を表現できる稀な人なのです。
一方でチャコンはハイテノールと言える高い声、完璧な技術、その非凡な音楽性と創作力でカンテの世界をよりいっそう豊かなものに創り上げた歌い手で、その功績は計り知れない程大きなものです。
カラコレス、ミラブラーなどのカンティーニャ類、マラゲーニャ、グラナイーナ、そしてカンテ・デ・レバンテなどなど…、今も受け継がれる多くのスタイルにチャコンの名が冠されています。
私の考えではマヌエル・トーレは現代人にも解り易い、つまり野性の香りや渋み、深みは我々東洋人が伝統的に持っている、あるいは持っていた美の精神を思い出させてくれストレートに感じる事ができますが、チャコンはなかなか難しいのではないでしょうか。
それをうまく書き表すだけの文章力を私は持ち合わせていませんが、次回私がチャコンに目覚めたきっかけを書いてみます。
ではまずそのスタイル①の歌詞を。
【Letra】
(que tienes por mi persona …)
¿ A qué niegas el delirio
que tienes por mi persona ?
le das martirio a tu cuerpo
y tú te estás matando sola
y yo pasando tormento.
【訳】
(俺に夢中だということを…)
俺に夢中だということを
どうしてお前は否定するんだ?
お前は自分を苦しめながら
独りで自分を殺していく、
俺も辛い思いをしてるんだ。

チャコンは蠟管(ろうかん)の時代からこのマラゲーニャを何回も録音しています。始めの録音から聴いてみると、この1913年の録音がほぼ完成しているので採用しました。※の~部分は採譜し難いメリスマなので、歌う人の自由に任せます。

【筆者プロフィール】
エンリケ坂井(ギタリスト/カンタオール)
1948年生まれ。1972年スペインに渡り多くの著名カンタオールと共演。帰国後カンテとパルマの会を主宰。チョコラーテらを招聘。著書『フラメンコを歌おう!』、CD『フラメンコの深い炎』、『グラン・クロニカ・デル・カンテ』vol.1~36(以下続刊)。2025年1月Círculo Flamenco de Madridから招かれ、ヘスス・メンデスと共演。
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