カンテフラメンコ奥の細道 on WEB no.54
- norique
- 11月11日
- 読了時間: 3分
(martes, 11 de noviembre 2025)
文/エンリケ坂井
Texto por Enrique Sakai
Malagueña de Chacón ②
チャコンの魅力は分かり難い、と前回書きましたが、実際チャコンの古い録音を復刻盤で熱心に聴いている人はかなりマニアックなオタクだと思います。
その原因のひとつは、復刻盤ではもとの音のシャープさや空気感が失われ、なかなか感動するまでには心を動かされないからでしょう。
それにあのハイテノールのような高音が輪をかけます。それではどうするか、まずはチャコン本人より現代の歌い手達による、例えばエンリケ・モレンテやダビッド・ラゴス、他にも探せば多くの歌い手達が歌っていますから、そうしたある程度「聴きやすい」ものから入っていくのがチャコンを感じるためのひとつの取っ掛かりになる方法だと思います。
もちろん最終的には個人の好みというものがあり、生理的に高い声を受け付けないという人がスペイン人にも存在しますが、それでも作品として残されたチャコンのマラゲーニャは疑いもなく素晴らしいものであり、カンテに関わったからにはチャコンを聴き味わう事は避けては通れない道なのです。
私自身の経験を語りましょう。私がチャコンの魅力に気付いたのはカンテに夢中になってからもずいぶん時間が経った、チャコンのレコードを聴き尽くした後でした。
多分1980年代のある日、私は友人のギタリスト、オスカル・ルイスに誘われてあるフエルガに行きました。
夜中に始まったそのフエルガは本格的で、年輩のカンテ愛好家達、プロの歌い手が3人くらいとギタリストが集まっていて、ひとしきり歌い手達が歌った後に登場したのはパードレ・リソ(リソ神父)という神父さんです。
この人の歌のすばらしい事! 居並ぶプロの歌い手達が色を失う程の技術、気合など、まさに名人の貫禄でチャコンを歌ったのですが、続きはまた次回に。
【Letra】
(del convento las campanas, )
Si preguntan por quién doblan
del convento las campanas,
diles que doblando están
a mis muertas esperanzas.
(a mis muertas esperanzas.)
【訳】
修道院の鐘は
だれの為に鳴るのかと
もし尋ねられたら
言ってやりな、私の死んだ
希望を弔っているのだ、と。
※convento→修道院
※doblar las campanas por~→(~の為の弔いの)鐘が鳴る

このマラゲーニャはパストーラの名唱でも知られていますが、チャコンはラモン・モントージャの伴奏で1928年にグラモフォノ盤に録音しています。歌詞を作った人の名前も解っていますが、録音してから1世紀近く経た今ではポプラール「詠み人知らず」の扱いになっています。
歌詞の形は古いファンダンゴの4行詩で、2-1-2-3-4-1行目と歌い進めます。
この録音はいくつかのチャコンの復刻CDや、カルロス・マルティンのCDブック『ドン・アントニオ・チャコン』の付属CD3枚目に入っています。

1990年のチャコンへのオメナーヘ・コンサートのプログラム。この時にリソ神父は「チャコン歌い」のスペシャリストとして世間に紹介された。

【筆者プロフィール】
エンリケ坂井(ギタリスト/カンタオール)
1948年生まれ。1972年スペインに渡り多くの著名カンタオールと共演。帰国後カンテとパルマの会を主宰。チョコラーテらを招聘。著書『フラメンコを歌おう!』、CD『フラメンコの深い炎』、『グラン・クロニカ・デル・カンテ』vol.1~36(以下続刊)。2025年1月Círculo Flamenco de Madridから招かれ、ヘスス・メンデスと共演。
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