【特集】第30回フェスティバル・デ・ヘレス
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更新日:3 日前
(viernes, 3 de abril 2026)
今年で第30回の節目を迎えたスペイン・ヘレスで開催されるフラメンコの祭典『Festival de Jerez』。
2月20日から3月7日まで16日間にわたり、ビジャマルタ劇場をはじめ各会場で数々の作品が上演され、日本からはもちろん海外からも多くのフラメンコ愛好家が訪れました。
今年のフェスティバルの模様を、初回から取材を続けているセビージャ在住のフラメンコ研究家、志風恭子さんがリポートします。
文/志風恭子
Texto por Kyoko Shikaze
【INDEX】
ヘレスのフェスティバルも今年で30年。第1回から欠かさずヘレスを訪れているので感慨もひとしお。なお、最初のフェスティバルは1997年。当時は4月の開催で、初日の公演はマリア・パヘスが監督を務めていた時代のアンダルシア舞踊団でした。今のような一般向けのクルシージョはなかったのですが、アンダルシア舞踊団の団員とヘレス在住の踊り手を対象に、マノレーテやアンヘリータ・ゴメスらが、アンダルシア舞踊団員だったフェルナンド・ロメロやラファエル・カンパージョ、ラモン・マルティネス、ヘレスのメルセデス・ルイスらが受講していました。

1997.04 マノレーテを囲んで。Centro Andaluz de Flamenco ©︎ Kyoko Shikaze
ヘレスのフェスティバルは、フラメンコ舞踊とスペイン舞踊のフェスティバルとして始まりました。コルドバのギター・フェスティバルをモデルに、第一線で活躍する踊り手たちによるクルシージョを開講しその受講者に劇場公演切符を付与するというシステムで、ヘレスの外から人を集め、ホテルやレストラン、タクシーなどの利用も含め、市の経済に貢献できるように、ということで、元から地元のフラメンコ・ファンを対象に始まったフラメンコ祭ではありません。そしてその目的は30年後の今、見事に達成されています。当初は、フラメンコ祭なのにカンテがない、など文句を言っていた地元の人も、今ではフェスティバルに集まってくるスペイン各地や外国からの観客を相手にクラスを開講したり、イベントを行ったりとすっかりフェスティバルはヘレスという土地に根付いています。なお、フラメンコ舞踊とスペイン舞踊に特化したフェスティバルというのは私が知る限り世界で唯一のもので、それも成功の秘訣でしょう。30年の歴史の中で、マティルデ・コラル、ビクトリア・エウヘニア、ホセ・グラネーロといった歴史的な教授陣から、初回のクラスを受講していたアリシア・マルケスやウルスラ・ロペスらをはじめ、フェスティバルがきっかけでフラメンコの道に進んだレオノール・レアルら、若い世代へと世代交代が進みました。劇場公演も同じです。マリオ・マジャやアントニオ・ガデス、マノレーテも亡くなりメルチェ・エスメラルダらも引退し、かつてカナーレスのクルシージョを受講していたというロシオ・モリーナらがトップスターに、また最初はサラ・コンパニアの小さな舞台で公演していたマヌエル・リニャンやマルコ・フローレス、アルフォンソ・ロサらもビジャマルタ劇場で素晴らしい作品を上演してくれています。短いようで長い、長いようで短い、30年。時代の変化を感じます。
さて2026年のフェスティバル、プログラム発表が11月下旬と遅かったのですが、内容についても例年に比べて地味だという印象をおおかたの人がもったようです。たしかに、マリア・パヘス、エバ・ジェルバブエナ、サラ・バラス、イスラエル・ガルバン、ファルキート、ロシオ・モリーナといった、現代フラメンコ舞踊界の今をリードする、人気舞踊家たちの名前はプログラムにはありません。また、ビジャマルタ劇場公演だけでいえば、アンドレス・マリン/アナ・モラーレスの作品は2024年ビエナルで、オルガ・ペリセ、マリア・モレーノの作品はセビージャのセントラル劇場で上演したもので、セビージャ在住者ならすでに観ている人も多かったと思います。また前述のマリア・モレーノの作品を含め、ベレン・ロペス、ホセ・マジャなどマドリードで初演された作品も多く、今回初演という作品は、初日マヌエラ・カルピオ、中日のメルセデス・ルイス、レオノール・レアル、サロメ・ラミレスらによる特別ガラのほかは、エステベス/パーニョスの『ドンセージャス(フエルガ・ペルマネンテ)』のみでした。それでも結果的には、それほど悪くないフェスティバルだったと思います。サラ・カレーロら、ホセ・マジャらソロではビジャマルタ劇場初登場の人の作品も多く、またサラ・コンパニアやセントロ・ソシアル・ブラス・インファンテでも意欲的な作品がたくさん上演されました。全作品を観た訳ではありませんが、今年も印象に残った作品などについて記していきましょう。
【VIVA LA DANZA!】
今年30周年ということで第1回から来ている人ということでインタビューされたのですが、その時にあった創設者パコ・ロペスがこのフェスティバルは「ダンサ・フラメンカとダンサ・エスパニョーラのフェスティバル」と言っていて、ダンサもバイレも日本語にするとどちらも舞踊なのですが、スペイン語で言うと少しニュアンスが変わってきます。バイレ・フラメンコが伝統的なフラメンコ舞踊で、ダンサ・フラメンコとダンサ・フラメンカというと、タブラオで見るような、伝統的な、基本、一人で伝統曲を踊るフラメンコ舞踊だけでなく、パレハや群舞も含み、また、筋書きやコンセプトのもと制作された舞台芸術としてのより自由なフラメンコ舞踊、というイメージになると思うのです。そう言われてみれば、現在のフラメンコ舞踊作品は、伝統的なフラメンコ曲以外の音楽をフラメンコのテクニックで踊ったり、フラメンコ曲をフラメンコ以外のコンテンポラリーダンスやバレエのテクニックを使って踊ったりしているものが多く、確かにバイレというよりダンサなようにも思います。
今年のヘレスのフェスティバル、ビジャマルタ劇場公演で最も印象に残った作品はエステベス/パーニョス・イ・コンパニアの『ドンセージャス(フエルガ・ペルマネンテ)』でした。

ジャンプしているのはバレリアーノ。ラファエルは左奥のヒゲの人。ギターはアレハンドロ・ウルタード。© Festival de Jerez/Rina Srabonian
フラメンコ・ギターのソロ演奏を確立した稀代のギタリスト、ラモン・モントージャをテーマに、彼が生きた時代、そしてそのフラメンコの宴を、当時の時代背景なども反映させつつ現代に置き換えたりなどもしつつ、ラモンのソロ作品、ニーニャ・デ・ロス・ペイネスやアントニオ・チャコンらへの伴奏なども散りばめて綴った作品。ラファエルとバレリアーノを含めた9人の踊り手がとにかく最初から最後まで踊りまくる。純フラメンコもあれば、ボレーラの跳躍、民俗舞踊系やコンテンポラリーのような動きもあり、またクラブ音楽的なリズムと伝統のカンテをあわせたりなど決して飽きさせません。ラモン・モントージャの演奏を見事に再現したアレハンドロ・ウルタードは作品音楽賞を受賞しています。
きっとラファエルが仕込んでいるはずのいろいろなディテール、見逃しているのがあると思うので、もう一度見て発見してみたいものです。
この日18時半からサラ・コンパニアで観たディエゴ・イ・ウーゴ・アギラールによる『クエスティオン・デル・ティエンポ』という作品も、国立バレエとアンダルシア舞踊団で活躍中のバジャドリード出身の兄弟の踊りが本当に素晴らしく、最高の1日でありました。聴けば、アルフォンソ・ロサの指導を受けたとのことで、そうか、あの間合い、回転の間の良さはアルフォンソ譲りかと納得したことでした。

また、以前、エステベス/パーニョスのカンパニーやスペイン国立バレエ団のダンサーとしてなどでフェスティバルには出演しているものの、自分の名前がメインの初めての公演がビジャマルタというセルヒオ・ベルナルの『ロダン』は、ロダン自身とその彫刻数点を彼が踊るというもの。

考える人になるセルヒオ © Festival de Jerez/Rina Srabonian
完璧な身体での完璧な動きとかたち。国立ダンスカンパニーのダンサーとの2曲はネオ・クラシコな作品でほぼバレエだけど、靴を履いてのサパテアードはスペイン舞踊。時代はクロスオーバー。バレエもフラメンコもスペイン舞踊も全てダンスとして楽しめばいいのかもしれません。腕をすっと伸ばしただけで、たとえようもなく美しくて。軽快な跳躍、精確な回転。技術がそのままアート。
クロスオーバーといえば、コンテンポラリーのダンサーと共演した作品が二つ。
オルガ・ペリセ『ラ・マテリア』と

ラ・ルピ『ロ・イネディト』。

オルガはダニエル・アブレウと垣根を超えた踊りを見せ、ルピはイバン・バルガスとコンテンポラリー風とフラメンコを混ぜて。伝統的なフラメンコ曲をストレートに踊るだけでは表現しきれないものがあって、より自由な表現を探しているのでしょう。
他にも、コンテンポラリーダンスの影響が色濃い作品は幾つか。ダビ・コリアの『バベル』はバベルの塔の話をテーマにしていることもあって、アメリカ、スペイン、アルゼンチン、イスラエル、ロシア、そして日本(瀬戸口琴葉)と国籍の違う踊り手たち8人が出演し、実際に各国語を使ってセリフをも言ったりする作品。サーカスのように肩の上に人が立ったり、全員で一つの形を作ったりするコンテンポラリーのような動きも多いのですが、ダビ・ラゴスの歌でフラメンコ味もキープ。初演は7月フランスで、ということでまだまだ変わっていくのかもしれませんが、完成した作品もぜひ観てみたいものです。

ヘスス・カルモナの、マドリードで初演したばかりの新作『テンタティボ』もいろんな舞踊の要素を自由に使ってイメージを膨らませて展開する独自の世界。ダンサーたちの個性を活かしたソロもいいけれど、盛りだくさん過ぎという感じも。あと照明が暗すぎて見づらかったのもマイナス。なんか今年は、観客賞受賞のマリア・モレーノ、ビジャマルタ初登場のベレン・ロペス、ホセ・マジャなど、特に照明が暗めな作品が多かった印象です。

ラファエルとバレリアーノにしても、オルガやダビ、ヘススにしてもおそらくフラメンコ作品を、という意識はなく、自分の作品を作ろうとしているのであって、彼らの中にあるものが多岐にわたっている、彼らがフラメンコ以外の言葉も話せる、ということなのだと思います。自分の持っている身体言語、見聞きすることで蓄えた知識などを総動員して自分の表現を作っていっているのでしょう。
【フラメンコ!】
そんな中、伝統的なフラメンコをソレア、シギリージャ、アレグリアスと3曲、カンテソロ、ギターソロを挟んで踊ったファルーのサラ・コンパニアでの公演が本当に最高でした。祖父ファルーコを彷彿とさせるソレア。祖父ほどには太っていないのにお腹がグッとせり出して見えてくるほど貫禄と風格。品位がある。

バストンのシギリージャも一族伝統の一曲。

そして華やかなアレグリアスでは、歌もギターもなしで踊るところがあったのですがそこでもまるで音楽が聞こえてくるような見事さでした。兄ファルキートも得意としている曲だけど、いや、ファルーのアレグリアスも最高。
記者会見で「公演のための練習もしていない、打ち合わせもやってない。でも30年かけて準備してきたようなものなんだ。アフィシオン(フラメンコ愛)があるから何を歌わなくちゃいけない、弾かなくちゃいけない、踊らなくちゃいけないかをみんな知っている。ブレリア踊れるからってプロじゃない。プロになるためにはアフィシオンと知識が必要」と言っていたファルーだけど、『ナトゥラル』というタイトル通り、彼の中にある、自然に出てくるフラメンコをいい形で見せてくれました。

どれも曲が持つキャラクターを伝統と自身の解釈で踊り、古くさい、埃にまみれた伝統ではなく、今を生きる伝統のフラメンコへと昇華させてくれました。今年のヘレスで観た中で、最上のフラメンコでありました。あらすじも何もなく、シンプルな構成で自らのフラメンコを過不足なく見せることに成功。本当はこういうのをもっと観たい気もします。
フラメンコ性ということでは、ビジャマルタ劇場で初めてソロ公演を行ったホセ・マジャもすごかったです。特に最後に歌い、踊ったソレアには心を鷲掴みにされました。めっちゃフラメンコ!でも最初の方で見せたコンテンポラリーダンス風な動きは合っていないように思われたし、音楽でもコーラスぽい感じを入れたりしてるのはあまり好感が持てなかった。ギターの、地元ヘレス出身マルコ・デ・シルビアはまだ10代?二十歳?と思えない好演でフェスティバルのギター賞受賞。

そう、フラメンコ・フラメンコも、もっと観たい!
セントロ・ソシアル・ブラス・インファンテという、ヘレス市内中心部からはちょっと離れたところにある公会堂みたいなところで行われた公演でもコンチャ・バルガスとイネス・バカンという日本のコアなファンが喜びそうな公演や、

コンチャとイネス。レブリーハの宝。 © Festival de Jerez/Esteban Abión
ロシオ・モリーナやエバ・ジェルバブエナの舞台でパルメーロとして活躍しているエル・オルーコやダビ・ラゴスとレオノール・レアルの公演も行われました。
中でもエル・オルーコの公演にはエル・トロンボやカルメン・レデスマ、ロシオ・モリーナがゲスト出演、エバも演出で協力という豪華さ。オルーコの重厚なフラメンコ、トロンボやカルメンの、ほんの少しの動きで見せる、この人たちならではのアルテ、ロシオの異次元フラメンコと、これはぜひビジャマルタで観たい作品でした。ビジャマルタ劇場の公演前ということで時間が気になり、後半、思うように楽しめなかったことが残念でなりません。作品としても形が整っていましたし、歌(ぺぺ・デ・プーラ、ホセ・アンヘル・カルモナ、ペチュギータ)もギター(フアン・カンパージョ)、パーカッション(パコ・ベガ)も素晴らしかったです。いい音楽としてのフラメンコがあってこそいい踊りも生まれるというものです。

衣装に鏡が縫い付けられていてミラーボールのような効果を見せて踊るオルーコ © Festival de Jerez/Esteban Abión
【ヘレス!】
フェスティバルの初日の入場券はクルシージョ受講料についてきません。また、クルシージョとクルシージョの合間である中日も、この日に開催される集中クラスを受講しない限り購入する必要があります。すなわち、この二日間は通常の公演よりも入場券を売る必要があるということもあり、地元の一般の人の集客も見込めるサラ・バラスのような人気アーティストや地元出身者、もしくは仕込みに時間がかかるアンダルシア舞踊団や国立バレエ団のような規模の大きな公演が起用されることが多く、今年も初日にマヌエラ・カルピオ、中日には30周年記念ガラとしてメルセデス・ルイス、レオノール・レアル、サロメ・ラミレスによる公演が行われました。
フィエスタのブレリアの一振りの名手マヌエラは歌にエストレメーニョ、ラビ、タニェ、コンパスにトロンボとオルーコ、ギターにホセ・ガルベスとフアン・レケーナとバックは万全の態勢。その上、ゲストにマカニータ、ホセ・バレンシア、バルージョ、アンへリータ・モントージャら大勢のゲストを迎えたこともあって2時間以上の長い長い公演となり、観ているこちらの体力も限界。彼女の魅力を活かすためには他に方法があったように思います。

バタとして引きずっていた部分をマントンのように使う。 © Festival de Jerez/Esteban Abión
30周年ガラは、かつてフェスティバル生みの親であり現在はオペラ演出家として活躍しているパコ・ロペスと数々の作品をフェスティバルで上演してきたメルセデスがパコの手を借りることなくきちんとした作品を作り上げていました。
女の子3人が大きくなってメルセデス、レオノール、サロメになるというイメージで、伴唱もメルチョーラ・オルテガら女性3人。それぞれのソロや共演を経て最後はアンへリータ・ゴメス、アナ・マリア・ロペス、チキとヘレスのベテラン舞踊教授が登場。ヘレスの舞踊を、フェスティバルを支えてきた女性たちの姿に胸が熱くなります。


昨年のラ・ウニオンのコンクールの覇者サロメはサラ・コンパニアでも公演し、今年の新人賞を受賞しました。

他にも、アンドレス・マリンとアナ・モラーレスによる、2年前のビエナルで初演した『マタリフェ/パライソ』は作品にリズムが出てきて、初演時より良かったし、

ビジャマルタ劇場初登場のサラ・カレーロ、

ベレン・ロペス

をはじめ、ヌエボ・バレエ・エスパニョール

などマドリード在住勢も多数出演。でもビジャマルタ劇場にふさわしい公演とまでは思えなかったというのが正直なところ。
カディス出身らしい明るさで観客を楽しませたマリア・モレーノが観客賞を受賞したのも理解できます。

来年、2027年の第31回ヘレスのフェスティバルは2月19日から3月6日まで。次回はぜひあなたも!
◎公演ごとの詳しいレポートはこちら
【公式サイト】
【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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