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新・フラメンコのあした vol.10

(lunes, 4 de diciembre 2023)


20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、「フラメンコの日」に開催されたファルキートのマスタークラスについてのリポートです。



2023年国際フラメンコ・デー記念

ファルキート マスタークラス

スペイン国立バレエ団 

2023年11月16日より配信 



TALLER FARRUQUITO.

DÍA DEL FLAMENCO 2023.

Ballet Nacional de España



文: 東 敬子

Texto: Keiko Higashi

画像: 宣材写真

Fotos: material promocional


 皆さん11月16日は何の日か知っていますか? 実はこの日はフラメンコの日なんです。


 2010年にユネスコの世界無形文化財としてフラメンコが認定されて以来、全世界のフラメンコたちは、毎年この日を「国際フラメンコ・デー」として祝ってきました。昨今では大小のイベントが行われる以外にも、個人個人がメッセージを発信したりと、SNS上でも盛り上がりを見せています。


 今回は先日、2023年のフラメンコ・デーを記念してスペイン国立バレエ団が行った、ファルキートのマスタークラスの模様をレポートします。

 その実際の様子はスペイン国立バレエ団のチャンネルで配信されていますので、ぜひそちらもあわせてご覧ください。今回は同舞踊団員のみを対象に行われましたが、上級者だけでなく、まだ始めてまもない練習生にもぜひ観てほしい、学ぶことがてんこ盛りのおすすめ動画です。


「フラメンコは、彼の名前なしでは語れない」

 同世代であり、子供の頃はご近所さんだったと言うスペイン国立バレエの現監督ルベン・オルモがそう語る、ファルキートことフアン・マヌエル・フェルナンデス・モントージャは、1982年セビージャに生まれました。


ファルーコ
バイレ・ヒターノ界の巨匠ファルーコ

 祖父は言わずと知れたバイレ・ヒターノ界の巨匠ファルーコ。長男ファルキートも踊り手としての未来を期待されていましたが、18歳のとき交通事故で他界。傷心のファルーコは、同じく踊り手の娘ラ・ファルーカと歌い手エル・モレーノの長男、自身の孫となるフアンにその望みを託します。


 芸名「ファルキート」を受け継いだフアンは才能を発揮し、祖父と映画『フラメンコ』(カルロス・サウラ、1995)に出演するなど、次第に頭角を表しました。しかし、まだ少年のあどけなさを残す彼に待ち受けていたのは突然の祖父の死でした。その後15歳で座長となった彼は、懸命に一座を引っ張ります。そしてまた最愛の父もその4年後、42歳の早すぎる死を迎え、ファルキートは19歳にして一族の長となり、母を、三人の弟妹を、従兄弟たちを、その家族を、支えていくことになるのです。


 そんな背景があってか、ファルキートは非常に優れたリーダーシップがある人だというのが、このマスタークラスを見ていても良く分かります。ここにいた三十人ほどの踊り手全体に目がいっている。声を荒げることもなく、穏やかに、そして的確に、彼らに何が足りないかを指示する。みんなが頑張っていれば盛り上げ、さらに先に、さらに高みに連れて行ってくれる。この人に学ぶのは楽しい、そしてもっと学びたいと思わせる、最高の指導者だと思いました。でも決して、いわゆる「先生」ではないんです。強いて言えば「お父さん」でしょうか。非常に包容力があるんですね。彼は言います。知っていることは人と分け合うのだと。


 例えば、エバ・ジェルバブエナは生徒とずっと一緒に踊って、ここはこんな感じと、常に自身の動きを見せて学ばせる印象が強かったのですが、ファルキートはみんなに踊らせて(振付は事前に行われていますが)、その様子を見ながら、気になるところを指示して直していく。エバはちょっと意味深な感覚的な部分が大きいけど、ファルキートは「こういう時のコツは」というように、とても具体的で、説明も全て理路整然としている。しかも「念の為、これもやっておこう」とか、すごく丁寧。見ていて非常に興味深かったです。


 音の取り方が違う二つのパソをリンクするときは、誰でもちょっとその瞬間は緊張してテンポが早くなってしまう。一人で踊るならそれほど気にならないけど、大人数で踊るならそこはピタリと合わせなければいけない、など、彼はとにかくリズムを重視する指導をしていて、彼の踊りの核を、今更ながら実感しました。そして、自分はこれだけの大人数で踊ったことはないから、とても興味深いと語ります。私もファルキートの群舞をぜひ観てみたいと思いました。


 彼の11歳の息子で踊り手デビューを果たしたエル・モレーノもレッスンに参加して頑張っていました。考えてみれば11歳で舞踊団団員とのレッスンにも遅れを取らないというのは驚異的なことですが、彼は何食わぬ顔で、お父さんの隣で黙々と励んでいました。ワークショップの最後にはファルキートのブレリア、そしてモレーノもパタイータを披露してくれた大満足のワークショップでした。


【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。


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