新・フラメンコのあした vol.34
- norique
- 2 日前
- 読了時間: 4分
(lunes, 1 de diciembre 2025)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。
今月は、この10月にマドリードで開催された第20回「スマ・フラメンカ」フェスティバルで世界初演として上演された、サラ・カレロの公演についてのリポートです。
サラ・カレロ
『タベルナ・ファム』世界初演
第20回「スマ・フラメンカ」フェスティバル
2025年10月17日
カナル劇場、緑の間、マドリード、スペイン
Sara Calero
“Taberna Femme”
XX Festival Suma Flamenca
Teatros del Canal, Sala Verde, Madrid.
17 octubre 2025
文/東 敬子
画像/東 敬子、宣伝素材
Texto por Keiko Higashi
Fotos: por Keiko Higashi / por promoción

暗闇の中、アローズの「アイ・ラブ・ロックンロール」が大音響で流れた瞬間、私は思わず「ああ〜」とうなだれてしまいました。
他ジャンルの音楽を使って「モデルノ」なんて言われたのはもう20年前のはなし。作中でセリフがあったり、奇抜な衣装を着たり、「女性の心情を描く」なんてコンセプトも、今の若い世代だったらもうやらないかなあ。でもサラ・カレロは1983年生まれの現在42歳。どっぷり「その世代」の彼女なら、仕方ないのかなと、最初は思いました。
で、「ベサメ・ムーチョ」とか、他ジャンルの音楽が出てくる序盤は、「いや〜もう古いって〜」と観る気を目一杯削がれていたんですが、作品が進むにつれ、「この表現しかないのだ」と思うに至りました。納得させられたというか。別に古くて良いんですよ。だって彼女は「あの頃の私たち」を表現したかったんですから。私はそう思います。
マドリード出身でスペイン国立バレエ団などで活躍し、華のある踊りで人気のサラ・カレロが提唱する今作品は、第20回を迎える「スマ・フラメンカ」フェスティバルの一環として、世界初演されました。
4人の女友達が、夜のバルで大いに飲んで、歌って踊ってハメを外す、そして最後はそれぞれの日々の想いを吐露して友情を深めると言うストーリー。要はテレビシリーズの「セックス・アンド・ザ・シティ」のフラメンコ版ですね。サラと共にその宴を謳歌するのは、ルシア・ルイバル、アナ・アロージョ、カルメン・モレーノの3人。
ロックやレゲトンで散々盛り上がった彼女達の中には、夜も更け、酔っ払って泣き出す者や、眠りこける者も。しかしそうしてついにフラメンコの深淵に辿り着くのです。私はその瞬間、彼女たちの力技でねじ伏せられました。素晴らしいテクニックに加え、個性が爆発している。ただ普通に踊るのではなく、演技によって誇張された感情表現に導かれる踊りは、非常にドラマチックで見応えがありましたが、それはひとえに、リアルな心情を呼び起こさせる彼女達の表現力の賜物でしょう。
サラのタランタは、もはや獰猛でした。以前観た時はもっとさらっとした、スマートな印象でしたが、彼女は人生の次のステージに突入したんだなと感じました。
そして私が今回最も驚いたのがカルメン・モレーノでした。1989年、アルメリア生まれの彼女は、とにかく歌が上手い。彼女を観るのは今回が初めてだったので、カンタオーラかと思いきや、ソレアを踊り出すと、そのあまりのフラメンカぶりに心が震えました。3人を聖母のように優しく撫でながら歌うローレ・イ・マヌエルの「ラ・ロサ・イ・ブランカ」では、思わず目頭が熱くなってしまいました。
ギターのハビエル・コンデ、カンテのセルヒオ・エル・コロラオの男性コンビも、しっかりとバックを固めて、このフィエスタに貢献しました。女性たちの狂乱に若干引き気味でしたが、コミカルな場面もくどくならず、さらっとこなした所が良かったです。セルヒオなんて、胸毛の裸体が描いてあるTシャツに金のネックレスで出てくる場面もありましたからね。良く頑張りました(笑)。ハビエルは昔はソロでしか観たことがありませんでしたが、そのとても頼りになる伴奏で、今後引っ張りだこになることでしょう。
怒涛のステージ。4人のバイラオーラは「アイ・ラブ・ロックンロール」で長い夜の幕を閉じました。

【筆者プロフィール】
東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。
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