内田好美フラメンコソロ公演『孤独生 vol.3/10』
- norique
- 6月19日
- 読了時間: 3分
《蒼叫 Gritar》
(jueves, 19 de junio 2025)
[日時]2024年9月22日(日)
[会場]中電ホール(愛知/名古屋)
写真/大森有起
Fotos por Yuki Omori
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

孤を知り、独となり、生かされているこの命を生きる--、そうした自身の想いとあらゆるものへの感謝を込めて舞台作品として表現することに挑み続ける、フラメンコダンサー内田好美の年一回のシリーズ公演『孤独生』。
第3弾となる今回は龍と鬼をモチーフに、破壊と誕生の環をテーマとして創作。踊り・音楽・舞台演出とすべての要素で微に入り細にわたり、そのこだわりを貫いている。
緑が生い茂る舞台セット。まるで森の中にいるかのよう。そしてそこには龍のものと思われる大きな肋骨。
ピアノのメロディーが流れ、物語が始まる。
今作で内田は、天界から下界へ生命を吹き込む龍を演じ、その生涯を回想しながらたどっていく。
若い時代は希望と生命力に満ち溢れ、空から光が降り注ぐ森の中で、ローズ色のバタ・デ・コーラで野生的に力強くアレグリアスを踊る。
下界で次々と生命が誕生していくとその繁栄を喜び、青いヴェールが付いたアバニコを操り優雅に舞う。
足は鳴らさずモダンダンスのような滑らかな動きは、森の妖精が踊っているようで美しいシーンだ。
母性の象徴として赤子を抱くようにくるんだマントンを抱きながら子守唄を歌う川島との二重唱の場面では、龍が人間との違いを思い知る切なさが滲み出る。
やがて下界の人間たちが互いに争いを始めたり罪を犯すようになり、天界から見守ってきた龍に恐れと敵意を向けるようになる。理想として思い描いた世界との乖離や龍の孤独を、オーソドックスなタラントやソレア・ポル・ブレリアでドラマティックに表現。
それでも下界の生命を見守り、希望を抱き続ける龍の想いを表現するため、内田は音楽や詩の朗読の録音、舞台装置や照明、そして客席通路も演出に使うなど様々な要素を駆使してその世界観を表現した。
緑のライトを浴びて、きれいな澄んだ声で想いを込めて日本語の歌を熱唱する姿は、まさに蒼い叫びだ。
そして龍は自らを含め破壊を選び、再生へと希望を託す。覚悟を決めたような表情でもがきもだえ、うごめくように踊る姿に龍の生き様と強い想いが表れていた。

このソロ公演を支えるミュージシャン勢は、第1作目から同じメンバーで実に贅沢な布陣だ。作品の輪郭を鮮やかに際立たせる徳永のギター、多彩な音色と安定のリズムで音楽を支える容昌のパーカッション、物語を豊かに彩る森川のバイオリン。そして、慈愛に満ちたやさしく頼もしい川島のカンテ。
休憩無しの70分間。極上の音楽とともに、内田が描く独創的な世界を目と耳と心で堪能した。
この先日、次回作となる第4弾の開催が発表された。そちらもユニークな設定を打ち出している。
試行錯誤を重ね、自身の持つイメージを着実に舞踊作品として形にしてきた内田の『孤独生』。
彼女の創作意欲は、泉のごとく今なお湧き続けているようだ。
【プログラム】
1. 郷 [プロローグ]
2. Alegrías [豊潤]
3. Minué y Preludió [戯れ]
4. Tarara [誕生]
5. Taranto a Soleá por Bulería [望郷と乖離]
6. Poema [強き者へ]
7. 蒼叫 [祈り]
8. Rondeña [破壊と…]
【出演】
内田好美(バイレ)
川島桂子(カンテ)
徳永健太郎(ギター)
森川拓哉(バイオリン、ピアノ)
容昌(パーカッション)
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