《Anifuturo》人材育成プロジェクト 成果発表公演
- norique
- 2 日前
- 読了時間: 8分
(viernes, 6 de junio 2025)
会場:なかのZERO小ホール(東京・中野)
日時:2025年3月19日(水)~21日(金)
撮影/川島浩之
Fotos por Hiroyuki Kawashima
[写真提供] 一般社団法人 日本フラメンコ協会
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
昨年より文化庁から文化芸術振興費補助金の支援を受けて、一般社団法人日本フラメンコ協会が次の世代を担うフラメンコ芸術家の育成を目的としてスタートさせた「新進フラメンコ芸術家等人材育成プロジェクト」。
その中で行われた実演家としての技術や感性を磨く実践的プログラム「作品制作」シリーズの発表の場として、その成果公演が3日間にわたり上演された。
オリジナリティに富んだ自主作品や、指導者による振付・構成・演出の指導を受けて実演した舞台作品、そして招聘講師らによる音楽作品や映像作品も上演されるなど、多様なアプローチから創作された作品の数々に触れることができる有意義な機会となった。
《INDEX》
●新進振付演出家による自主作品
『PARADERO -古びた靴の導き-』
昨年結成された6人の女性ダンサーによるフラメンコユニット「Célula」が、メンバーの川松冬花が描いた漫画を原作として同年12月に名古屋で初演した舞踊作品。
今回の上演では5人編成に再構成され、時間も初演時より短くなり振付や演出も練り直したという。
時間が短縮された分作品自体のストーリー性は薄まった印象を受けたが、その一方ソロも群舞も場面ごとの見応えは濃くなったように感じられた。ストーリー作品のため演技も必要となるが、回を重ねて舞踊と演技がよりなじんできた印象。舞踊作品として、またひとつ成熟した形をみせてくれた。

『La Zona -さもなくば沈黙を-』
東京を拠点に活動するフラメンコダンサー畑中美里が振付・構成・演出を行った舞台作品。
踊り手二人にカンテとギターのみというシンプルな編成で、そこに畑中が思うフラメンコの魅力へのこだわりが感じられる。
始まりは、人間の呼吸音のような音源に合わせて二人で踊るという意表を突いた演出。また、カンテの濱田吾愛が朗読するフェデリコ・ガルシア=ロルカの詩を、その言葉のアクセントが生み出すリズムに合わせて踊るというのも、とてもシンプルで根源的だ。
今作を作るにあたり畑中は、ロルカの詩を使うことが非常に重要だったと語り、彼が生きた時代に思いを馳せ、情報過剰社会である現代へのメッセージを込めたという。
こうした独創的でチャレンジングな作品は、観客に様々な刺激や発想を与えてくれたのではないだろうか。

『Shangri-La』
名古屋を拠点に活動するフラメンコダンサー石川慶子が振付・構成・演出を行った、観客参加型の舞台作品。
上演前にアナウンスが流れ、舞台の上に先着20名着席するよう促される。舞台上のスクリーンにはQRコードが映し出され、それをスマホで読み込むと選択式のストーリーが表示されるなど、ユニークな演出を展開。
作品は「肉体と魂」をテーマに、ナレーションを活用して進行。始まりは5人の群舞によるブレリア。各々色違いのマントンに同色の花畑のようなカツラと、ビジュアルのインパクトが強い。ソロでは屋良有子、石川、松田知也がそれぞれの役どころに合わせて赤、白、黒をテーマカラーとし、見応えのある踊りを披露。最後はまた舞台のスクリーンに映し出されたQRコードを読み込み、三択からの選択を促される。舞台上の参加者は実際に動いて赤、白、黒のいずれかを選んで集まるといった具合。
舞台を鑑賞するだけでなく観客も自ら作品に参加するという柔軟な発想は、劇場公演としての一つの可能性を示した。
QRコードを読み取るために人々が客席から舞台にスマホを向ける様子は、まさにイマドキな光景だった。

『Mi Luz -私のひかり-』
平富恵スペイン舞踊団に所属する宮北華子が振付・構成・演出を手掛けた作品。
純粋に曲種と向き合ったシンプルな構成。最初の曲はソレアポルブレリア。白のシャツにベージュのパンツスタイル。手足や身体のラインがはっきり表れるから、その踊る姿の美しさが際立つ。グアヒーラは、共演の同舞踊団員でもある白井紗帆・村田愛とともに落ち着いた美しさを披露。ソレアからシギリージャへと展開する構成には、宮北の個性と高い舞踊技術が光る。
最後のアレグリアスは白のバタとオレンジのマントンによる色彩の眩しさとともに、これからの彼女の舞踊家としての明るい未来を感じた。
自身が愛し大切にしている舞踊の魅力を凝縮して魅せてくれた30分だった。

●指導者による振付指導作品
『星の王子さま』
石井智子スペイン舞踊団が2023年に初演した劇場作品を1時間ほどの作品に再構成して、石井の指導の下で主要な役をダブルキャストにして2公演にわたり上演。
配役もそれぞれの登場人物のキャラクターと合っていて、踊り手ひとりひとりの個性や魅力が生きていた。
群舞の表現力も高く、フォーメーションのまとまりもよく整っている。今回の育成出演者は主に個人で活動している踊り手が大半だったが、限られた練習期間の中で両日とも完成度の高い仕上がりをみせた。特にバオバブの木の群舞は迫力があり、砂漠の群舞は表現力が高く、バラの群舞は鮮やかで豪華だった。
ソロとしても群舞としても、育成出演者らにとっては踊りの表現力を高める良い機会だったと思う。


『フラメンコのちから』
2年前の日本フラメンコ協会主催『Aniferia』で初演された劇場作品を佐藤浩希による演出の下、昨年実施された学校巡回公演の中で視覚支援学校で上演したスタイルで披露された。
普段の公演では行わない解説などを取り入れ、フラメンコの形式や演出の内容についても説明を加えるなど、観る側としても分かりやすく鑑賞できた。
初演時とは出演者の数が異なるためフォーメーションや群舞の編成には様々な変更が加えられたが、重鎮・中堅・若手の三世代ごとの演目や、フラメンコの"ちから"を信じすべての人にエネルギーを伝えたいという当初からの作品のコンセプトは変わらず受け継がれる。
育成出演者とベテランの舞踊家との一体感も感じられ、回数を重ねていっそう熟成された作品となった。

●音楽作品・映像作品
公演3日目となる最終日には、音楽・芸能業界の第一線でオリジナリティが注目され活躍するアーティストらを講師や制作者として迎え、育成出演者らとともに作り上げた作品や舞台を披露した。
[フラメンコ×映像]のテーマでは、ダンサーで振付師としても活躍するダーリンsaekoによる、フラメンコユニット「Célula」の5人を主役とした映像作品が上演された。フラメンコ舞踊の魅力を映像でどのように表現するか、制作者の個性やアイデア、思いが画面を通して伝わってくる。
この作品の制作・ディレクションを担当したsaeko自身、ダンサーとしてキューバに留学して現地のアフリカ系譜やキューバ発祥の多様なダンスを学び、その経験から異国の文化を学ぶ人の気持ちに深い理解を示す。
フラメンコは歴史ある伝統文化であるがゆえに、その技術を磨いた者は一途でともすれば内向的になりやすいと言い、今作にはその内向きの殻を割って自身のエネルギーと可能性を外へと解き放ち、自由に羽ばたかせてほしいというエールが込められていた。

[フラメンコ×クラシック]のテーマでは、クラシックギター奏者として数々の作品を生み出しその活躍が注目される鈴木大介を講師に招き、スペイン各地の民謡や舞曲をまとめたファリャの作品「7つのスペイン民謡」を演奏。歌唱は、昨年にこの曲も収録した自身のアルバムをリリースした石塚隆充が務めた。
フラメンコギターでは凜 -Rin-と大山勇実が参加。鈴木が8弦ギターで奏でる表現豊かな演奏に、二人も丁寧に音を重ねていく。
また宮北、中里眞央、白井、脇川愛の4人がパリージョで参加。軽やかな音色で曲の味わいを深めた。
[フラメンコ×ロック・ラテン音楽]では、サルサバンドなどで活躍するパーカッショニスト大儀見元が「フラメンコの柔軟性を探る」をテーマにセッションを披露。
1曲目はザ・ビートルズの名曲「A hard day's night」をブレリアの12拍子のリズムで。育成出演者としてフラメンコギターの大山とパーカッションの小山大凱が参加。大儀見が歌いパルマを叩き、凜がベースを担当、さらにはダンサーのsaekoがキレの良い踊りを披露するなど自由なセッションを繰り広げる。
2曲目はラテンジャズのスタンダードナンバー「Obsesión」。ゲストとしてサックス奏者としても活躍する菊池成孔が演奏に加わり、ムーディーな音色を響かせる。凜と大山がフラメンコギターでそれぞれの持ち味をみせ、フラメンコの懐の深さを感じさせる演奏を聴かせた。
[フラメンコ×AI]のテーマでは、菊地を担当講師に迎え、昨今話題の生成AI(Artificial Intelligence=人工知能)でフラメンコを作るという内容で講義を展開。「Udio」というアプリを使用し、キーワードを入れると曲が生成される過程をスクリーンに映して実演するなど、興味深い話に唸らせられた。

締めくくりは全体セッションとして、マイルス・デイビス&ジル・エヴァンスの「ソレア」、そしてパコ・デ・ルシアの「二筋の川」と「Zyryab」というフラメンコギターの名曲2曲のメドレーを披露。プロのミュージシャンと育成出演者ら、そしてサポート出演者として参加した佐藤、三枝雄輔、石塚らがパルマやステップ、歌などで加わり、ワンステージ限りの貴重な競演の舞台を楽しませてもらった。
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