伊藤笑苗フラメンコ・リサイタル《VIDA -賛美-》
- norique
- 15 分前
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*公益財団法人スペイン舞踊振興MARUWA財団 令和7年度助成事業
(sábado, 25 de octubre 2025)
2025年7月5日(土)
Showレストラン ガルロチ(東京・新宿)
写真/伊藤実音
Fotos por Mio Ito
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

ラストを飾ったアレグリアス
まさに「満を持してのソロリサイタル」と言い切っていいほど完成度の高い公演だった。
昨年の第5回全日本フラメンココンクール・舞踊部門で審査員全員の満票を得て優勝した伊藤笑苗のソロ公演。音楽監督には今年6月に米国バークリー音楽大学を卒業したばかりのラファエル・モイセ・エレディアを起用、他の共演者も一流のミュージシャンを揃えた。
チェロの深い音色が響く中、シンプルなドレス姿の伊藤が舞台に登場。足元は裸足で、持ち前の身体の柔らかさを生かした踊りをみせる。そして舞台に現れたモイセが彼女のもとに靴を落としていく。その靴を履き、バストンを手に取り踊る曲はセラーナ。シギリージャ系の中でも踊られる機会が多くない曲だが、伊藤はバストンを巧みに操りながら曲の世界観を存分に表現する。

そしてその場で髪に花を差し、巻きスカートを身に付けて踊るのはティエントタンゴ。今枝が向かい合って歌いかけるカンテを味わうように踊る姿は躍動感に満ち溢れる。また、モノトーンのパンツスタイルに着替えてのファルーカは、男振りの凛々しさに女性らしさが加わり彼女の魅力が光る。

タンゴ

ファルーカ
カンテソロのビダリータでは、今枝が椅子に座った伊藤の髪をほどいてあげるなど二人芝居のような場面を演出。バイオリンとチェロの二重奏に乗せて歌い上げるカンテを踊る姿は、夢を切望する少女のよう。

徳永のギターソロはオリジナルのタンギージョ。2種類のシンバルとカホン、ジェンベと少数精鋭のシンプルなセットから自在にリズムを繰り出すモイセのパーカッションとの、息の合った掛け合いが何とも楽しい。
最後の曲はバタマントンのアレグリアス。モスグリーンのバタデコーラと、サーモンピンクのマントンとの色彩のコントラストが印象的で、まさに舞台に咲く大輪の花。これまで自身が積み重ねてきたであろう時間と経験の先に輝く命のきらめき、そして純粋に踊る喜びを全身で表現し、ラストを飾るにふさわしい一曲となった。
休憩無しで作品の世界観を途切らせず、それぞれの場面で渾身の踊りを見せ続けた彼女の集中力とスタミナは並外れていた。衣装替えのインターバルもそこそこに、踊り続けても疲れを見せるどころかむしろエンジンが滑らかに回転するみたいに、じわじわとボルテージが上がるにつれて自由に解放されていくかのようだった。
最後の挨拶で、伊藤はフラメンコ以外のスペイン舞踊を学ぶために9月からスペインのコンセルバトリオへ留学することを発表した。
日本で踊る姿がしばらく観られなくなるのは残念だが、スペインで多くの経験と技術を吸収してさらに素晴らしい踊り手となるであろう彼女の未来を、今から楽しみに待ちたい。
【出演】
伊藤笑苗(ダンサー)
ラファエル・モイセ・エレディア(音楽監督・パーカッション)
奥村愛(バイオリン)
下島万乃(チェロ)
今枝友加(カンテ)
徳永康次郎(ギター)
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