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ANTÍPODAS

  • norique
  • 9月15日
  • 読了時間: 4分

(lunes, 15 de septiembre 2025)

 

2025年7月14・15日

杉並公会堂 小ホール(東京)

 

写真/大森有起

Fotos por Yuki Omori

文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko

 

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「フラメンコの舞台作品」と聞いたら、まずイメージに浮かぶのは赤や黒の衣装に身を包んだダンサーが、感情を込めて歌い上げるカンテと音色豊かにかき鳴らされるギターに合わせて情熱的に踊る姿ではないだろうか。


しかし今回の作品『ANTÍPODAS』は、そんなイメージの対極にあるような作品だ。

衣装はオフホワイト系のナチュラルな色彩。いわゆる「フラメンコのカンテ」を聴かせるような場面はなく、透明感のある歌声で南米民謡の歌や自作の曲を軽やかにささやくように歌う。ギターは音源として使用するのみとし、チェロを弾いたり弦を指ではじいたり、指先のカスタネットやタンバリンを組み込んだ机を叩いたり。そして大きな紙風船を連想させるような、紙を生地とした巻きスカート。このデジタルのご時世には珍しい、手作り感たっぷりの演出だ。


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出演者は二人きり。

権威あるコルドバのフラメンコ・コンクールでも優勝経験のあるチリ出身のフラメンコダンサー、フロレンシア・オスと、チェリストで歌手としても活躍する双子の妹イシドラ・オリアン。


作品名の『ANTÍPODAS』とは、「対蹠地(たいしょち)=地球の反対側」を意味する言葉だという。遠く離れていながらもどこか共鳴するような、シンクロする何かが感じられる関係性を言い得ているような、示唆に富んだ題名だ。


作品のテーマは、18世紀末から19世紀にかけて広まったロマン主義以降に語られるようになった「ドッペルゲンガー」「分身」「影」といった「自己の二重性」という概念に注目し、かつて一つだった存在が自らの意志で「自分自身になる」までの旅路を描く。

この作品の原案をフロレンシアとともに創作し、監督を務めたダビ・コリアは、彼女ら双子の姉妹の特別なつながりを大切にしながら「舞台では、違いが触れ合い、共通点が抱き合う、ちょうどその1点を私たちは探し求め」たという。


音楽はフラメンコの曲種の他に、チェロの巨匠パブロ・カザルスの弟子でもあったカサドの『無伴奏チェロ組曲第3楽章』やシューベルトの歌曲、そして彼女らの故郷であるチリをはじめ南米で親しまれているクエッカなどを取り入れ、多彩な音楽をフラメンコの靴音やパーカッションの様々な音色を使って自由に表現する。


フロレンシアの踊りはしなやかで美しく、洗練された動きの内面からは強いフラメンコ性が感じられる。母国チリ大学のコンセルバトリオを卒業後スペイン・セビージャに移り住み、アンダルシア舞踊団を始め数々の舞踊団で磨き上げられた技術は、フラメンコ舞踊としての高い芸術性を惜しみなく表現する。

そしてイシドラが奏でるあらゆる音楽もまた、美しく独創性に富み、観る者に驚きや感動を与えてくれた。


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舞台の上で踊り、歌い、音を奏でる二人は、別々の動きをしていてもどこかシンクロしているように感じられた。共に同じ動きをしたり向かい合ったりする場面では、その完璧な同一性や相対性はまさに芸術だった。


シンプルに研ぎ澄まされた演出と、幻想的な世界観。そして素晴らしい舞踊表現。

目にも耳にも美しい、心が洗われるような至福の時間であった。


本来、芸術の持つ意味とはこういうものなのではないか、とふと感じた。

もちろん、人それぞれ嗜好や好みはあるけれど、例えば一晩泣き明かした後に全ての澱が洗い流されたような、心が軽くなってまた希望に向かって歩き出せるような、そんな清々しさに近い感情を覚えた。


本物の芸術は、見る人に力を与えてくれるものだと思う。

この作品を観た人は、力をもらえたのではないだろうか。


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【プログラム】

1. "Plumita (Little bird)" /羽(小鳥)

2. Seguiriya/シギリージャ

3. Guajira/グアヒーラ

4. Cueca y Bulerías/クエッカとブレリーアス

5. Gaspar Cassado (monster)/ガスパール・カサド(モンスター)

 曲:「無伴奏チェロ組曲」より第3楽章(間奏曲と舞曲、終曲)

6. Fandangos/ファンダンゴ

7. Doppelgänger/ドッペルゲンガー

 曲:シューベルト歌曲集「白鳥の歌」より《影法師(ドッペルゲンガー)》


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