《FLAMENCO DE LA RAÍZ ~フラメンコの根源~》
- norique
- 12 時間前
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(martes, 2 de diciembre 2025)
2025年8月20日(水)・21日(木)
杉並公会堂 大ホール(東京)
写真/北澤壯太
Fotos por Sohta Kitazawa
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
昨年「日本ファイナル公演」として来日し、大勢の観客に惜しまれつつも圧倒的な存在感でファンを魅了した「バイレ・フラメンコの女王」マヌエラ・カラスコが、再び日本の舞台に戻ってきてくれた。
しかも今回はカディスの名門出身のカンテの巨匠フアン・ビジャールとそのファミリーとの共演という、スペイン本国でもなかなか実現が難しいという夢の組み合わせだ。
音響に定評のあるホールを舞台に、2日間3公演。受け取ったリーフレットには「全プログラム未定」とある。どんな舞台が待っているのか、期待が高まる。
始まりはカンテ・デュオによるマルティネーテ。フアンとエンリケが互いに呼吸を感じ、歌い繋ぐ。それぞれに長い歳月を重ねて磨き上げてきた、唯一無二の歌声を響かせる。まさにフラメンコの根源に迫る二重唱だ。
マヌエラが披露するのはタラント。青の鮮やかなマントンをまとい舞台に立つ姿は堂々として、ディオーサ(女神)という呼び名にふさわしい。しっかりした音色の足技は安定感があり、昨年来日した時よりも力強くなったように感じられた。

フアンがカンテソロで聴かせるソレア。少し小柄な体からほとばしるように溢れ出る歌声には、その人生が滲み出る。ペドロが奏でる鮮やかな輪郭のメロディーとともに、その呼吸の妙と確かな歌唱にすっかり聴き入ってしまった。

フアン・ホセのバイレソロはアレグリアス 。始まりからトップギアのボルテージで魅せてくれる。さらに進化した踊りは流れるような身のこなしでコンパスの波を自在に遊び、そして切れ味鋭いレマーテで観客の心を仕留める。歌うフアン・ビジャール・イーホの声は父親のフアンによく似ていて、一族の血のつながりが濃く感じられた。
エンリケのカンテソロのマラゲーニャは、実は全3公演を異なるエスティーロ(スタイル)で披露してくれた。初日がマラゲーニャ・デ・メジソ、翌日昼の部はマラゲーニャ・マヌエルトーレ、そして夜の部はマラゲーニャ・チャコン。私は初日に鑑賞し、深みのある上質なカンテを堪能した。

舞台中央のマントンを掛けた長テーブルを囲んで始まるフィエスタ。サマラがひと振り踊ると、フアンとマヌエラが並んで登場。フアンが歌い、ペドロのギターと森川のバイオリンに合わせてマヌエラが足音を響かせる。家族や仲間との絆が感じられる心温まるシーンだ。
ギターとバイオリンのデュオによるファルーカは、まるで宝石のような珠玉の一曲。ずっと聴いていたくなるような美しい音色と哀愁を醸し出すハーモニー。ペドロはこのデュオ以外も、公演全曲の伴奏を一人で弾き切った。間違いなく今回の舞台の立役者と言えるだろう。
サマラがフェステーラとして歌い踊るプレリアでは、グルーヴ沸き立つ演奏に全身からエネルギーが溢れるよう。力強い歌声で客席に歌いかけ、会場は一体感に包まれた。
ラストはマヌエラのソレア。フラメンコに対し常に真摯に、渾身の力を込めてその一曲を踊る、尊い瞬間。エンリケと二人で肩を組んで舞台を去るその姿に、同志の絆が見えて胸が熱くなった。
カーテンコールは大勢の観客のスタンディングオベーションで迎えられた。フィン・デ・フィエスタではマヌエラとフアン・ホセが踊り、伝統が受け継がれていく未来を象徴するような瞬間だった。
二つの名門ファミリーとこの舞台で共演した全員が、信頼で結ばれたワンチームのような一体感を醸し出していた。受け継いできたフラメンコの伝統を凝縮して開花させた舞台を、この日本で生で観ることができた意義は大きい。
この公演は、今年いっぱい(12月31日まで)アーカイブ配信で視聴することが可能だ。後にも先にも実現が難しいであろうこの奇跡の共演を、ぜひ記憶に焼き付けてほしい。
*配信申込URL

【出演】
唄:Juan Villar / フアン・ビジャール
踊り:Manuela Carrasco / マヌエラ・カラスコ
唄:Enrique "El Extremeño" / エンリケ "エル・エストレメーニョ"
ギター:Pedro Sierra / ペドロ・シエラ
パーカッション:José Carrasco / ホセ・カラスコ
唄:Juan Villar Hijo / フアン・ビジャール・イーホ
フェステーラ:Zamara Carrasco / サマラ・カラスコ
踊り:Juan José Villar / フアン・ホセ・ビジャール
バイオリン:森川拓哉
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