フラメンコ×神楽《ヤマトタケル》
- norique
- 11月10日
- 読了時間: 3分
(lunes, 10 de noviembre 2025)
2024年11月10日(日)
西日暮里アルハムブラ
写真/川尻敏晴
Fotos por Toshiharu Kawajiri
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

日本で古くから語り継がれるヤマトタケルの神話を、フラメンコと神楽のコラボレーションにより創作した舞台作品が上演された。フラメンコダンサーの永田健が多くの人々の協力を得て、まさに心血を注いで創り上げた意欲作だ。
今作が生まれるきっかけとなったのは、2019年に「日本に恋した、フラメンコ」の撮影ツアーで日本全国の名所を巡っていたときに、島根県・稲佐の浜で偶然神楽を見て着想を得たという。その後、神楽の伝統を4世紀にわたり受け継ぐ正統神楽太夫一家の石山社中と出会い、この作品の実現へとつながった。
物語のストーリーは神話に基づいた具体的な内容になっているため、上演中にナレーターによる語りで適宜伝えられる。語りがとても上手で聞きやすいので、あらすじが自然と頭に入ってくる。
主人公の日本武尊(ヤマトタケル)を演じる永田は、兄を殺めた罰として父である景行天皇から九州の熊襲建(クマソタケル)征伐を命じられる場面で、失意や苦しみをマルティネーテで表現。物語に沿った和服の衣装ながら足技や踊りの身体使いなどフラメンコとしての高い技術をみせる。
クマソを油断させて討ち取るために女装したヤマトタケルを演じた河野は、グアヒーラの曲でしっとりと大人の色香が匂うような踊りを披露。クマソを酔わせてから成敗するまでのシーンは、三味線や笛による音楽的な盛り上がりや二人の舞いのドラマティックな展開とともに、スピード感があり見応えがあった。

弟橘姫(オトタチバナヒメ)役の伊藤はしなやかな身体使いと感情豊かな踊りで、可憐ながらも芯の通った女性を表現。ヤマトタケルとの出会いの場面でのアレグリアスや、嵐の海を鎮めるために自ら身を捧げたソレアなど、神話の世界をフラメンコの魅力で彩った。

歌は劇中、フラメンコの唄も含めほぼ全て日本語の歌詞で歌われた。フラメンコの曲種の歌詞には古事記に記された和歌などを上手に当てはめ、また楽器にもギターの他に琵琶や三味線、笛、太鼓などを取り入れ、多彩な音色で舞台を盛り上げた。
そして舞踊でも、実際の神楽舞を観ることができたのは大変興味深かった。倭姫(ヤマトヒメ)役の西川が白の上衣と赤の袴姿で、扇子と鈴を手に舞う神聖で厳かなシーンや、クマソタケルを演じた石山が豪奢な衣装に神楽面を付け、金の扇を手に掛け声をあげながら飛び跳ねるように舞う場面などとても印象的だった。
この作品は、先行して6月にスペイン大使館で上演され高い評価を受けた。そして今回の上演後も、今年の4月に戸越八幡神社(東京)で、5月には宝登山神社(埼玉県長瀞町)での演舞奉納を始め各地で上演され、12月には大阪での公演も決まっているという。
日本人に身近な題材である「ヤマトタケル」の神話をフラメンコと神楽の技術と表現を生かして、舞台作品として多くの観客が親しめるような機会を作り出したことは、フラメンコのすそ野を広げる上でも大きな意義のあることだろう。
【出演】
小碓尊(オウスノミコト、後の日本武尊)永田健/河野睦
弟橘媛 伊藤笑苗
熊襲建 石山裕雅
倭姫 西川綾乃
語り 坪井美香
歌/琵琶/ギター 須田隆久
ギター/三味線 彌月大治
パーカッション 容昌
笛 石山裕雅/松澤功
太鼓 エヴァ・ケストナー
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