タンゴ探しの旅 ~二つの川を渡って~
- norique
- 4月4日
- 読了時間: 4分
野村眞里子プロデュース創作フラメンコ公演
(viernes, 4 de abril 2025)
2024年6月15日(土)・16日(日)
KAAT神奈川芸術劇場(神奈川)
写真/大森有起
Fotos por Yuki Omori
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

私がフラメンコを習い始める前、タンゴと聞いて連想するのはアルゼンチンタンゴだった。だからフラメンコを学ぶようになって曲種にタンゴがあると知ったときに、新鮮な驚きを感じたのを覚えている。
エルスール財団の代表理事であり、これまで数々の舞台作品や企画を手掛けてきたプロデューサー野村眞里子による創作フラメンコ公演『タンゴ探しの旅 ~二つの川を渡って~』が2日間にわたり上演された。
この作品は、フラメンコのタンゴとアルゼンチンタンゴがその生成の段階でなんらかの関係があったのではないかという視点で企画された。サブタイトルにある二つの川とは、南米アルゼンチンとウルグアイの間に横たわるラプラタ川と、スペインのアンダルシア地方グラナダを流れるダロ川を指しているという。
ストーリーは、一人の少年が幼い頃に別れた母を探す旅の途中でこの二つのタンゴに出会い、成長する過程を描いたというもの。その物語を軸に、フラメンコの様々な曲種やアルゼンチンタンゴのシーンも織り交ぜている。
少年役には若手舞踊手として数々の舞台で活躍中の出水と、その子供時代の役に現役高校生でもある山本涼というダブルキャスト。祖父母に見守られフラメンコの手ほどきを受けて踊る少年の姿を、山本涼が初々しく好演。青年に成長した少年役の出水はマルティネーテやアレグリアスなど見応えのあるソロを踊り、母への想いに悩み葛藤する姿を感情豊かに表現した。
今作の主役となるフラメンコダンサーの日本人女性役は、現在グラナダ在住で日本とスペインを行き来して活躍する河野麻耶が務めた。プロローグのタンゴ、シギリージャ、そしてカーニャと、高い熱量で力強く踊る姿は情熱的な女性という役柄にまさにハマり役だ。
また少年にとっての異父妹役には、同年4月の第5回全日本フラメンココンクールで審査員満票での優勝に輝いた伊藤が出演。アルゼンチンタンゴのダンサーらと一緒に群舞を踊る場面や、サンブラでは柔らかい身体使いと巧みな足技で観客を魅了した。

パーカッショニストで踊り手でもある朱雀は、演奏と踊り両方での出演。実際よりはるかに年上となる少年の祖母役として、河野とともにシギリージャのパレハで母娘の対立シーンを熱演。そしてグラナダの映像とともに美しく奏でられるペペのギター・ソロでは、パーカッションで豊かな彩りを添えた。
アルゼンチンタンゴの場面では、プロダンサーとして日本各地で活躍するマーシー&マギの二人が華麗な回転や鮮やかなステップを披露。有名なリベルタンゴの曲に合わせ、本格的なアルゼンチンタンゴを魅せてくれた。
今作は曲種の多さもさることながら、音楽面での充実ぶりが素晴らしかった。カンテ・ソロでは舞台のスクリーンにアルゼンチンの写真が投影される中、ミゲルが情感たっぷりにビダリータを熱唱。
ミュージシャンによるタンゴ・フラメンコではミゲルとペペ、小松と北岸がそれぞれペアになり、交互に歌い繋いでいく。タンゴ・デル・ティティやタンゴ・デ・グラナダなど馴染み深い歌も多く、たっぷり聴き応えのあるシーンだった。

フラメンコのタンゴとアルゼンチンタンゴ。互いに異なる舞踊文化の魅力をそれぞれの場面で見せつつ、うまく組み合わせて一つの作品に仕立てていくのも創作作品のおもしろさだろう。こうした新しい試みに取り組む意欲的な作品がひとつの懸け橋となり、互いの文化を深め合いそのすそ野を広げる良い機会になるのではないだろうか。

【プログラム】
第一部 東京、そしてブエノス・アイレスへ
プロローグ:リベルタンゴ~タンゴ・フラメンコ
1.シギリージャ
2.ファンダンゴ・デ・ウエルバ
3.ソレア・ポル・ブレリア
4.ビダリータ(カンテ・ソロ)
5.アルゼンチンタンゴ
6.マルティネーテ
第二部 アンダルシアのいくつもの町を経てグラナダへ
7.タンゴ・フラメンコ
8.ギター・ソロ
9.サンブラ
10.アレグリアス
11.ラ・カーニャ
エピローグ:タンゴ・フラメンコ
【キャスト】
マヤ(母親) 河野麻耶
マーシー(父親) 村山雅史(マーシー&マギ)
マギ(父親の2番目の妻) 村山正子(マーシー&マギ)
ファロリート(息子) 出水宏輝(Farolito)
エナ(娘) 伊藤笑苗
ジャマキート(祖父) 山本将光(Yamaquito)
ハルナ(祖母) 朱雀はるな
ファロリート ※子役 山本涼
謎の女 ※狂言回し 野村眞里子
エキストラ Taro、Sun、篠宮美沙、本間恵子、大槻智康、一條菊義、一條ちこ
[歌]
ミゲル・デ・バダホス
小松美保
[ギター]
ペペ・マジャ“マローテ”
北岸麻生
[パーカッション]
朱雀はるな
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