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【特集】マドリード『第20回スマ・フラメンカ』

  • norique
  • 4 日前
  • 読了時間: 8分

(viernes, 19 de diciembre 2025)

 

毎年マドリードで行われる大規模なフラメンコの祭典、『スマ・フラメンカ』フェスティバル。

第20回目となる今回は、フラメンコの「伝統と革新」をテーマに掲げ、若手アーティストらによる公演や、フラメンコ識者らによる講演会や写真展、そしてメインとなるコンサートシリーズでは世界初演19作品を含む46作品が上演されました。 

そのプログラムのラインナップや注目の作品などについて、20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子さんがリポートします。


マドリード『第20回スマ・フラメンカ』フェスティバル

2025年10月14日〜11月2日、マドリード、スペイン

 

20º festival Suma Flamenca de la Comunidad de Madrid

14 octubre -  2 noviembre 2025, Madrid, España

 

: 東 敬子

画像: 宣材写真 

Texto: Keiko Higashi

Fotos: material promocional

 

《INDEX》

 

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日本の秋が「紅」なら、マドリードのそれは「青」でしょう。夏の熱風は過ぎ去り、朝・夕の爽やかさを取り戻しても、マドリードの秋空は、尚もはれやかな青で満たされるのです。

 

そんな中、今年もマドリードを代表するフラメンコの祭典『スマ・フラメンカ』が開催されました。第20回目となる今回は、フラメンコの「伝統と革新」をテーマに、10月14日から11月2日まで、世界初演の19作品を含む、全46作品が公演されました。1ヶ月前からソールドアウトの公演も数多く、その人気度の高さは毎年更新されているように感じます。

 

もちろん昨年同様、前哨戦としてカナル劇場にて9月25日から28日まで、30歳以下のアーティストの為の「スマ・ホベン」フェスティバル、そして本編と並行してアテネオ会館にて10月1日から4日まで講演会も行われました。

 

「伝統と革新」という今回のテーマは、フラメンコではもう1980年代のパコ・デ・ルシアの頃から扱われていますが、伝統を守ることに頑なな純粋主義者たちと、「フラメンコは常に革新によって発展してきた芸術だ」と言う革新派の間には、未だ深い溝があります。

 

しかし純粋主義者が占めていた昔とは違い、2020年代半ばの今は、伝統を支持する者は「頭が硬い」、他ジャンルの芸術を自由にフラメンコに取り入れる革新派は「おもしろい」と言う雰囲気が漂うようになったような気がします。

 

しかし私は、他ジャンルを取り入れたから新しいと言うのはもう安直だと感じるし、それがフラメンコの発展につながるとも思っていません。フラメンコの「ルール」の中での興味・実験・発展が、本当の未来につながるのではないかと思っています。皆さんはどう考えますか?

 

 

【フラメンコ・ホベン】

 

今年で5回目を迎える「フラメンコ・ホベン2025」は、この5年で、観客の期待度大の人気フェスティバルに成長しました。4日間に渡り、それぞれの公演で3組のグループが紹介され、その新しい息吹に会場は大いに沸きました。

 

初日の「ガラ1」では、まずはピアニストのホセ・ルイス・カエレ(バジャドリード出身)がベテランのハビエル・コリーナのダブルベースと共に演奏。そしてカンタオーラのレジェス・カラスコ(セビージャ出身)、バイラオーラのイレネ・モラレス(グラナダ出身)と続きました。

 

二日目の「ガラ2」は、外国人ギタリスト、アンデラ・ミシック(セルビア出身)の演奏でスタートし、エスペランサ・ガリード(グラナダ出身)のカンテ、ネレア・カラスコ(マドリード出身)のバイレが披露されました。

 

「ガラ3」では、ギターにパブロ・エレディア(カディス出身)、カンテにダビス・フェルナンデス(セビージャ出身)、バイレにローレ・デ・ロス・レジェス(セビージャ出身)と、アンダルシア勢が揃いました。

 

そして最終日の「ガラ4」では、ギターのホアン・アンギータ(セビージャ出身)のソロに始まり、カンテのセリア・ロメーロ(バダホス出身)と続き、最後は22歳のジョエル・バルガス(タラゴナ出身)のバイレでフェスティバルの幕を閉じました。

 

今回はアンダルシア出身者にあまり偏ることなく、外国出身のアーティストも含むスペイン全土からのアーティストがバランスよく選ばれ、このフェスティバルの意義を果たしたと思います。



【「伝統と革新」のはざまで】

 

アテネオ会館では10月1日から4日まで、ペドロ・カルボ、ペドロ・G・ロメーロ、ホセ・マヌエル・ガンボア、ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボのお馴染みの4人のフラメンコ識者たちが壇上に登り、「伝統と革新」を軸に講演を行いました。それぞれの講演にはミニコンサートも行われ、サルバドール・グティエレス(ギター)、セバスティアン・クルス(カンテ)、アル・ブランコとエル・ペリ(カンテとギター)、アレハンドロ・ウルタード(ギター)が、堅苦しくなりがちな空気を和ませてくれました。

 

また同じテーマを用いて同会館内において10月1日から29日まで、クラウディア・ルイス・カロの写真展も行われました。

 

 

【20周年を飾る今年のフェスティバルは…】

 

今年のテーマである「伝統と革新」の二つの要素を同時に表現し得たアーティストと言えば、やはりカンテの巨匠、エンリケ・モレンテの名前が挙がるでしょう。亡くなって15年が過ぎた今でも、エンリケが建てた金字塔は人々の心の中にそびえ立っています。その彼へのオマージュとも言える今回のフェスティバルは、前回と同様、マドリード市内を中心に、近郊のエル・エスコリアル、ラスカフリア、ラ・カブレーラの4箇所で開催されました。

 

今回は世界初演19公演を含む46作品が上演されましたが、なんと言ってもハイライトは、カンタオールのエル・チュリー、ピアニストのフアン・カルロス・ガルバージョ、そしてマドリード・オーケストラの共演による「アレグロ・ソレア」の再演でしょう。この作品はエンリケ・モレンテその人とアントニオ・ロブレド共演による名作として語り継がれており、その再演は観客を感動に導きました。

 

「スマ・フラメンカ」フェスティバルはフラメンコの全てのジャンルを網羅していますが、一番力が入っているのはやはりカンテでしょう。今年も若手から大御所まで、様々な公演が行われました。

 

若手のアンヘレス・トレダーノに始まり、今年ラ・ウニオンのコンクールで最優秀ランパラ・ミネーラ賞を受賞したグレゴリオ・モヤがモレンテにその歌声を捧げます。また、ベテラン感が増したアルカンヘルの「カンテとコプラ」公演や、自身の過去20年を振り返ったマイテ・マルティンの公演。今勢いのあるサンドラ・カラスコや、アントニオ・レジェス、ヘスス・メンデスら実力派たちに加え、ラ・マカニータ、エスペランサ・フェルナンデス、ホセ・メルセー、エル・ペレ、グアディアナらの大御所も勢揃い。ギターを弾きながら歌うテレサ・エルナンデスや、ピアノを弾きながら歌うマリア・トレドも、マルチな実力を発揮しました。


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ARCANGEL-foto-2-Demetria Solana

 

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MAYTE MARTIN-foto-Itsaso-Arizkuren

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JOSÉ MERCÉ-foto-Archivo Universal

ギターコンサートは小ホールなどで控えめながら、女性ギタリスト、アンドレア・サルセドや、ベテランのオスカル・エレーロ、そしてピノ・ロサーダ、ダニエル・カサレス、エル・アミールなどが登場しました。


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DANIEL CASARES

 

バイレでは、オルガ・ぺリセー、ラファエラ・カラスコ、カリメ・アマジャ、アルバ・エレディア、ベゴーニャ・カストロなど、今回は女性の公演が目立つ一方、男性も、ケリアン・ヒメネスのチャールズ・チャプリンをモチーフにした世界初演など話題を呼びました。


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Rafaela Carrasco (c) Jean-Louis DUZERT

 

ピアノでは大御所ドランテスに加え、若手のアンドレス・バリオス。ジャズ界からはお馴染みのベナベン・ディジェラルド・パルドのトリオ。そしてフアン・カルモナが自身のギターと共に「フラメンコ・ゴスペル」を世界初演。そしてホセ・エル・マルケスは、チェロによるフラメンコを披露しました。

 

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Dorantes

 

【公演レポート5選】

 

今年の中から厳選してご紹介するのはこの5作品。どれも個性に溢れ、心に残る公演でした。

 

まずはバイラオーラ、サラ・カレーロによる「タベルナ・ファム」。ロックなど他ジャンルの音楽も大胆に織り込み、賛否両論あると思われる作品でしたが、会場は大いに盛り上がりました。


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Sara Calero © marcosGpunto

 

そしてカディス出身のカンタオール、ダビス・パロマールによる「シエン・べセス・ぺルラ」公演。彼を観ていて、チャノ・ロバートを思い出しました。とにかくMCが面白い、けど長い(笑)! すごく久しぶりにこんなカンタオールを観た気がして、ちょっと嬉しくなりました。

 

次にラ・カイータら、エストレマドゥーラ出身のアーティストが出演した「ベンゴ・デ・ミ・エストレマドゥーラ」公演。迫力のカンテと燻銀のギターを堪能しました。

 

やはり彼の新作は抑えておきたい。今、新境地を開拓しつつあるバイラオール、マヌエル・リニャンの公演「バイラオール(ラ)」。私は昔、もう15年ぐらい前、男性の身体に女性の心を宿した踊り手の小説を書いたのですが、そのモデルの一人が彼、マヌエル・リニャンでした。私が小説を書いた当時はマヌエルはもちろんパンタロンでしか踊っていませんでしたが、その彼が今、ファルダに身を包み、奇しくもあの小説を具現化しているのを観ると、なんだか不思議な気がします。

 

そして最後は、ホセ・マジャの新作「レハーノ」。今回もやってくれました。彼はハズレなし。行けば必ず感動を胸に帰路につくことが出来る今一番ノっている踊り手のひとりでしょう。

 

それぞれの詳しい公演レビューは、記事をアップ時に随時リンクしていきますのでお楽しみに。

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。

 

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