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スペインNews 6月号・2026

  • 2 日前
  • 読了時間: 10分

(sábado, 6 de junio 2026)

 

文・写真/志風恭子

Texto y fotos por Kyoko


A_2606志風_ブーゲンビリア

5月のセビージャは花盛り、街のあちこちに写真のようなブーゲンビリアや紫のハカランダの花が咲き誇り、気温もまだ真夏ほどには上がらない、いい季節です。と思ってたら、後半は30度越えの日が続き、水シャワーのお世話になりました。

 

フェリアの後はロシオ巡礼、というわけでペンテコステの日にお堂の外に輿に乗って出てくるロシオ聖母様を一目見ようとスペイン各地から、巡礼団がやってきます。セビージャではトリアーナ、セビージャ、マカレーナなどの地区ごとにエルマンダと呼ばれる信者会があって、それぞれの旗印を掲げ、牛車でアルモンテのロシオに向かいます。伝統的には写真のような幌馬車ならぬ幌牛車の中に食料や個々の着替えなどの荷物を積んで、皆徒歩、もしくは馬に乗って向かうものですが、牛車の数にも限りがあり、四駆やトラクターで、というのも一般的です。フラメンコ衣装を纏い、道中もセビジャーナスやルンバを歌い踊りつつ行くことから、歩くフェリアとも言われますが、司祭さんも同行し、道中、ミサも行われます。私はもう随分前に8度ほど往復し、この道中でセビジャーナスの本当の良さがわかったように思いますし、ロシオで素晴らしいフィエスタに同席することもできました。スペインで巡礼というとサンティアゴ巡礼が有名ですが、このロシオの様子も、かつてNHKでもドキュメンタリーが上映されたこともありますし、志摩のパルケエスパーニャで90年代に撮影されたドキュメンタリーが今も上映されていると思います。


B_2606志風_牛車

なお、今年の5月は例年以上にフラメンコ公演が立て続けに行われ、毎日が忙しく過ぎていきました。そんな様子を今月もお伝えしたいと思います。

 

《INDEX》

 

 

【ペーニャ、トーレス・マカレーナのフラメンコ公演】

1974年創立の老舗ペーニャ、トーレス・マカレーナはおそらくスペイン一、活動が活発なペーニャなのではないでしょうか。基本、毎週水曜と金曜には舞踊公演、土曜にはカンテ公演が行われていますし、そのほかにもフェスティバルや書籍、CDの発表などのイベントが行われたり、セビージャゆかりの歌い手、ニーニャ・デ・ロス・ペイネスへのオマージュや女性ギタリスト特集などのイベントも行っています。5月も14公演が行われ、その半分の7公演, そのうち6公演の舞踊公演を観てきました。

 

このペーニャでの舞踊公演は、劇場で単独公演を行うような実力派、若手、そしてスペイン以外の国出身者らが出演するのですが、5月もヘレスのフェスティバルで単独公演も行っているパコ・イダルゴ、サロメ・ラミレス、若手3人、そしてセビージャに長期滞在しこのペーニャの常連でもある瀬戸口琴葉ら日本人舞踊家たちの公演を観ることができました。

 

コンテンポラリーのテクニックも使って彼ならではのフラメンコを踊るパコ(5月8日)

C_2606志風_パコ・イダルゴ

昔ながらの、クラシックなフラメンコの形で、髪も衣装のあつらえも完璧、見た目が美しいサロメは同郷のミゲル・アンヘルとの相性も抜群(5月13日)



 

カンテでは、かつてロシオ・モリーナらの伴唱もしていたもののここ数年表舞台から遠ざかっているホセ・アンヘル・カルモナが本当に素晴らしい、自由で天才的な歌をきかせてくれました。いやあ至福のひとときでした。


 

5月15日に行われた、瀬戸口琴葉、三枝麻衣、正木清香の公演では3人それぞれに熱演。観客に日本のフラメンコのレベルの高さを印象付けたことでしょう。フィン・デ・フィエスタでは留学中の遠藤郷子と中原潤、さらに萩原淳子も参加し盛り上げました。


 

瀬戸口ら3人はエミリオ・マジャ主催のグラナダ、ヘレス公演にも出演したとのこと。そちらも好評だったことと思います。

 

そして若手!今月はこれが良かった。

5月20日は97年コルドバ生まれ、元アンダルシア舞踊団、現エステベス/パーニョス舞踊団のマヌエル・モンテスがパワフルにみせ、


 

22日は97年マラガ生まれ、スペイン国立バレエ団のノエリア・ルイスが正統派で美しく、タラントとバタ・デ・コーラのアレグリアス。


 

27日は03年バジャドリード生まれ、アンダルシア舞踊団のウーゴ・アギラールが優雅かつ男らしいソレア・ポル・ブレリアとタラント。


 

特にノエリアとウーゴは、どちらも曲の中に入り込む、というか、舞台に上がるまでの足取りからしてタラントなりアレグリアスなりになっていて、正確に誠実に曲のキャラクターを表現しつつ、舞踊としても細部までおろそかにせず、回転も美しい。20代の彼ら、これからの展開も楽しみですが、とにかくもっと観たい!です。

 

 

【カハソル劇場のフラメンコ】

セビージャに昔あった銀行カハソル(現在はカイシャ銀行に吸収合併された)の財団によるフラメンコ公演シリーズもこの5月から始まりました。どの公演に行けるか、他の公演予定と合わせてみて検討。6公演のうち3公演見ることができました。

 

18日はパストーラ・ガルバンの新作『6タクシ6』。歌い手もギタリストもなく、途中まで一人舞台。タイトスカートで、ローマからトリアーナまで6つの地名ゆかりの曲を流して、または一人で歌いながら靴を上底ブーツやスニーカーなど履き替えながら踊る、踊る。フラメンコな彼女はどんな音楽がきても音楽なしでも自分でリズムを取って歌って、踊る、踊る。後半ラモン・マルティネスが登場しパルマ叩くとさらにパワーアップ。ラジオのチューニングの口真似をしたり歌ったりとラモンも大活躍。ユーモアに溢れ、かつ最高にフラメンコなこんな作品、何度でも観たいものの一つです。フラメンコは一人でもできるけど二人ならもっと楽しい、を実感させてくれました。ちなみにこの作品、選曲は兄イスラエルが手伝ってくれたそうですが、構成などは全て彼女が手がけたそう。さすがです。


D_2606志風_パストーラ・ガルバン
©︎ Remedios Malavárez/Fundación Cajasol

 

21日はマヌエラ・カラスコ『マヌエラ』。オペラ劇場でも凝った照明もない小さな劇場でも、その圧倒的な存在感は登場するだけで空気を一変、極上のアルテを堪能させてくれました。マヌエラを生で見たか見ていないかはその後のフラメンコ人生にとって大きいと思います。それくらいすごい、唯一無比のアルティスタなのです。オープニングにマントンも使ったハレオ、共演のペテーテ、ミゲル・エル・ルビオのソロがあって、最後にソレアという構成。存在自体が豪華な彼女の舞台はシンプルでいい、シンプルがいい。マヌエラのフラメンコを満喫できました。


E_2606志風_マヌエラ・カラスコ
©︎ Remedios Malavárez/Fundación Cajasol

 

26日はロシオ・ガリード『1405エコス・デル・ティエンポ』。アルメリア出身でラ・ウニオンのコンクールでも優勝した実力派で、ヘレスのフェスティバルでも作品を上演しています。今回は新作ということでしたが、タラント、シギリージャ、ソレアとシリアスな曲のみという構成だということもあってか、特に足をこれでもかと詰め込むだけ詰め込んだいそがしい踊りはどれも同じように見えてしまうのはもったいない。強く激しくいそがしいのが彼女のフラメンコなのかなあ。あと手の動きがパッと開いたりと独特で、セビージャ派の流れるような美しい動きに慣れた私には違和感があり、それで気づいたのですが、指輪や腕輪、長い爪もあまりフラメンコで見かけることはないので、不思議でした。


F_2606志風_ロシオ・ガリード
©︎ Remedios Malavárez/Fundación Cajasol

 

【アンダルシア・フラメンコ/セントラル劇場】

アンダルシア州のフラメンコ公演シリーズも5月22日エバ・ジェルバブエナ公演でスタート。エバの公演はペーニャに行ったので見ることができなかったのですが、翌日の『バイランド・アル・カンテ』は、ルシア・ラ・ピニョーナ、ぺぺ・トーレス、アデラ・カンパージョ、ラファエル・カンパージョというセビージャを拠点に活躍している4人の踊り手たちが出演。ペチュギータ、マヌエル・デ・ラ・ニナ、イスマエル・デ・ラ・ロサという若手たちの歌で踊るという作品。近年、フェスティバルなどに自分で作品企画を行い自分でプレゼンテーションしないと出演できないということになってきているのですが、ルシア以外は意欲的に作品を作っていくタイプではないので、こういった作品を作ることで出演機会が増えるだろうことは良いことと思います。


後ろ向きで一列に並んだ踊り手たちが一人ずつ振り返って踊っていくというオープニングと

 

半円形に座って始まるブレリア以外はそれぞれのソロ、というのはガラ公演的なのですが、踊りやミュージシャンの位置を変えるなどして変化をつけることで作品としての形も整い、それぞれの個性が楽しめる構成でした。

ラファのタンゴや

 

ぺぺのソレアも

絶品だし、ラファとアデラの絡みもよく楽しめました。

 

29日のロシオ・マルケスは新譜『イムノ・ベルティカル』の独特な世界を装置も使ったミュージカル風なリサイタル。意欲的な試みですが、好き嫌いがはっきり分かれる作品かもしれません。作り声で大袈裟に調子を変えたりでフラメンコに聞こえないので私は苦手。

 

翌30日のマルコ・フローレス『ベンゴ・ホンド』は一転、最高に楽しめました。シギリージャ、ファルーカ、セビジャーナス、アレグリアス…1時間以上ほぼ踊りっぱなし。昨年のヘレスでの作品『ティエラ・ビルヘン』でも共演していたホセ・トマス・ヒメネスのギターがいい。ヘレスの若手二人マヌエル・デ・ラ・ニナとエンリケ・レマチェも健闘。いや確実に世代交代進んでいますね。マルコのフラメンコのコンパスを、歌を感じ楽しんで踊る姿は客席の私たちも楽しませ、皆ニコニコで客席を後にしたのでありました。


G_2606志風_マルコ・フローレス
スタンディングオーベーションを姪っ子と受けるマルコ

【ラファエラ・カラスコ『ウモ』】


H_2606志風_ラファエラ・カラスコ
©︎ Guillermo Mendo/Teatro de la Maestranza

5月24日はマエストランサ劇場でラファエラ・カラスコが今年4月マドリードで初演した新作『ウモ』公演。セビージャのタバコ工場で働く女工たちを描いた作品で、その一人に小説の中で設定された“カルメン”のイメージでみられがちな彼女たちの真の姿、治安警察に見張られたり、労働条件改善を求めてストをしたり、というものを描きつつも、オペラ『カルメン』の曲をアレンジした音楽や闘牛シーンを舞踊で見せたりもします。ラファエラの作品には欠かせない照明家グロリア・モンテシーノの力もあってとにかくひたすら美しく、品格のある舞台。ギターは録音で歌い手もカンタオーラとソプラノと出演者は女性ばかり。全員で声を合わせて歌うところなど、女性たちの連帯を感じさせて胸が熱くなりました。


I_2606志風_ラファエラ・カラスコ2
©︎ Guillermo Mendo/Teatro de la Maestranza 

なおこの日は、arte.tvが録画しており、6月10日からこちらのリンクから無料で観ることができるようになるようです。

 

 

【訃報】

歌い手エル・カブレーロ、本名ホセ・ドミンゲス・ムニョスが、5月13日、セビージャ郊外の病院で亡くなりました。81歳でした。

1944年10月19日セビージャ県アスナルコジャールの生まれ、カブレーロとは山羊飼いのことで、それが生業だったのが、70年代にセビージャの劇団の作品でカンテのプロとなり、以後、レコード録音や各地のフェスティバルで活躍。黒ずくめにカーボーイハットがトレードマーク。社会問題なども取り上げたファンダンゴで広く観衆の人気を集めていました。

 

また5月16日には、歌い手マティアス・デ・パウラが銃撃され亡くなりました。1974年、エストレマドゥーラのバダホス県、ビジャヌエバ・デ・ラ・セレナ出身で、本名マティアス・コラリサ・フェルナンデスは、20年ほどマドリードに住み、カフェ・デ・チニータスなど、マドリードのタブラオで活躍した歌い手。10代の頃に付き合いのあった女性の元夫の嫉妬に駆られての犯行だったそうです。数十年ぶりに故郷に戻り、ペーニャを開きカンテのクラスを開講していたそうです。安らかに。

 


【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。

 

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