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新・フラメンコのあした vol.12

(lunes, 5 de febrero 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月も、昨年秋にマドリードで行われた18回「スマ・フラメンカ」フェスティバルで上演された作品から、レオノール・レアルの世界初演作品についてのリポートです。

 

『カレテーラ・ウトレーラ=ヘレス』

レオノール・レアル、ペラーテ、アルフレド・ラゴス、プロジェクト・ロルカ

「スマ・フラメンカ」フェスティバル

カナル劇場・緑の間、マドリード、スペイン

2023年10月22日

 

“Carretera Utrera-Jerez”

Leonor Leal, Perrate, Alfredo Lagos & Proyecto Lorca

Festival Suma Flamenca,

Teatros del Canal - Sala Verde, Madrid.

22 de octubre 2023

 

文: 東 敬子  

画像:宣伝素材  /  東 敬子

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción / Keiko Higashi

 

 レオノール・レアルは、みんなが漠然と持っているバイラオーラのイメージをくつがえす「異色」のアーティスト。お団子ヘアーは皆無で、ショートカットが彼女の定番。衣装もパンタロン率高し。そして何より、ヘレス出身でありながらも、いわゆる「ヘレスのスタイル」に固執しない、その自由さ。独立独歩のそのスタンスには、もう清々しささえ覚えます。

 

 愛敬と泥臭さが混じり合うヘレスのバイレは、この土地に生まれた者でなければ表現しきれない独特のもの。そしてそのノリをこよなく愛するヘレスのアーティストには、そこから出たいと言う人もあまりいない。

 

 少ない例を挙げるとすれば、ギタリストのヘラルド・ヌニェスでしょうか。彼のグローバルなトーケから、直接ヘレスを思い出す人は少ないでしょう。同様にレオノール・レアルの、独自の世界観に彩られた、キラキラの驚きが随所に散りばめられたエレガントなバイレを観て、ヘレス出身だと分かる人も少ないでしょう。

 

 目を見張るのが、彼女の身体能力の高さです。スペイン舞踊のアイダ・ゴメスや、若きマエストラ、ロシオ・モリーナらの踊り手としての身体能力の高さは皆さんご存知だと思いますが、レオノールのそれは、彼女たちに匹敵するものがある。幼少より、クラシックバレエやスペイン舞踊に親しんできたと聞けば合点が行きます。しかしフラメンコでも、同郷のエル・ピパやアンドレス・マリン、ハビエル・バロン、アンダルシア・フラメンコ舞踊団の元で修行を積んだ強者です。「オレ!」が止められない。今回、世界初演となった作品『カレテーラ・ウトレーラ=ヘレス(ウトレーラとヘレスを結ぶ道、ほどの意)』でも、その威力は大いに発揮されました。

 

 「スマ・フラメンカ2023」フェスティバルの一環として、レオノール・レアル(バイレ)、ペラーテ(カンテ)、アルフレド・ラゴス(ギター)、プロジェクト・ロルカ(サックス、パーカッション)という彼の地を代表するメンバーを集め、ヘレス、ウトレーラ、またはその繋がりを、これまでにない実験的なタッチで表現した今回の企画は、「識者・芸術家」ペドロ・G・ロメーロの名をプログラムに見れば、なるほどねと納得するような博識で、独創的な仕上がりでした。

 

レオノール・レアル スマ・フラメンカ2023
©Keiko Higashi

 要は、伝統的なフラメンコ、しかも、コテコテの味に満ちたヘレスとウトレーラのそれを、その土地に生まれ、今を生きるアーティストたちが、現代風に作り上げる試み、といえば分かり易いでしょうか。木琴を使ったり、ちょっと現代音楽風にアレンジされた音楽にひねりを聴かせた歌唱など、ペドロ・G・ロメーロの洗練されたセンスを随所に感じます。


レオノール・レアル スマ・フラメンカ2023 宣材写真
レオノール・レアルとグループメンバー

 ただ、私の印象は、興味深い作品ではありましたが、この成功は、レオノール・レアルの才能と個性があってこその成功であり、それ以上でもそれ以下でもないというものでした。ペラーテのカンテも、プロジェクト・ロルカも、ラゴスのギターも、もちろん素晴らしかったのですが、企画に比重を置いて作り上げられたもの、という印象が強かった。

 

 目新しい楽器とか、目新しい展開などの表面的なことよりも、コンセプトよりも、もっと本質的な、新しい時代を生きるバイレが、ギターが、歌が、私たちの胸を熱くするフラメンコの情熱が観たいのです。もっと直接的に、もっと当たり前に。そして実はそれが、観客だけでなく現代アーティストが今再び目指している道でもあると私は感じています。

 

 だからこそ、この「現代のタッチで伝統を再構築する」という1990年代に台頭したコンセプトは、2020年代の今、チップを替える時期に来ているのではないかと思うのです。簡単に言えば「もう良いんじゃない」という感じ。

 

 ともあれ、2024年には44歳を迎えるレオノール・レアルに、円熟を増した、さらなる飛躍を期待して止みません。

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comhttps://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。

 

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