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新・フラメンコのあした vol.26

  • norique
  • 4月1日
  • 読了時間: 4分

(martes, 1 de abril 2025)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。

今月は、去る3月8日にアランフェスのカルロス3世王立劇場で開催された、ホルヘ・パルドの公演についてのリポートです。

 

ホルヘ・パルド

『エル・レガド』

カルロス3世王立劇場、アランフェス

2025年3月8日

 

Jorge Pardo

"El Legado"

Teatro Real Carlos III de Aranjuez,

8 de marzo 2025

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 / 東 敬子

 

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción / Keiko Higashi



C_2504東_ホルヘ・パルド「エル・レガド」

皆さんフラメンコ・ジャズをご存知ですか。

 

その歴史は意外に長く、1950年代にギタリストのラモン・モントージャやサビーカスがアメリカでジャズとコラボしたのが最初とされ、スペインでもジャズミュージシャンのペドロ・イトゥラルデがギタリストのパコ・デ・ルシアの伴奏で『ジャズ・フラメンコ』(1967)を発表し、それがこのジャンルが生まれるきっかけとなりました。

 

その後、パコの多大な成功に影響を受けたギタリストだけでなく、踊り手などもジャズとのコラボの機会が増えて行き、フラメンコ・ジャズは2000年代にピークを迎えます。現在は多少勢いは衰えたものの、未だ根強いファンを保っています。

 

スペインではなぜか、ジャズが好きな人はフラメンコも好き(もしくはその逆)という謎の傾向があって、それもこのジャンルが一過性のものではなく、ひとつのジャンルとして定着した理由かも知れませんね。

 

そんなジャズ・フラメンコの歴史の1ページを飾るのが、今回ご紹介するホルへ・パルドです。

ジャズのサックス、フルート奏者の彼がフラメンコ界に現れたのは、ドローレスと言うグループに参加していた20歳そこそこの頃でした。そしてその才能を買われ、カマロンの、フラメンコ史上革命的なアルバムとして名高い『ラ・レジェンダ・デル・ティエンポ』(1979)に参加し、ここからフラメンコの沼に足を踏み入れることになります。そしてその後は、パコ・デ・ルシアのグループの一員として、40年の長きにわたって世界中でその音色を響かせました。パコ亡き後は自身のグループで活躍し、晩年のチック・コリアとの共演は記憶に新しいところです。

 

さて、当夜はマドリードから電車で小一時間のアランフェスにある王立劇場でのコンサート。小さな劇場ですが、由緒ある装飾が美しい居心地の良い空間です。

 

ホルへのフルートとサックスに、ヘロニモ・マジャのフラメンコギター、バンドレロのパーカッションを加えただけのトリオでしたが、それぞれのパワーが半端なかった。彼らはたった3人で難なく空間を支配し、私たち観客をその偉大な音の渦に飲み込んでいきました。


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ホルヘ・パルド (c) Keiko Higashi

渋いサックスの音色で奏でる独特なグアヒーラに始まり、フルートで軽やかにメロディーを奏でるカマロンのルンバ。セギリージャ、ソレア、そしてブレリアなど、コンサートはあくまでフラメンコ主体。面白いのは、ギター伴奏にのって奏でるサックスやフルートの音色は、カンテのそれであったこと。歌声の代わりに音色で歌い上げるのです。そしてその饒舌なこと。けれど彼は決して、フラメンコ奏者ではないのです。あくまで、自身の解釈で、ジャズ奏者としてその音を作り上げる。

 

その逆がヘロニモのギターでした。それはあくまでフラメンコであり、フラメンコとしてジャズと触れ合う。そして彼ら二人の掛け合いの素晴らしかったこと。彼らのコラボは中々見られないので、面白かったです。プラスとマイナスが合わさって生み出す化学反応は刺激的でした。

 

ちなみにヘロニモはジャズとのコラボの経験もありますが、彼の場合は、フランスに住むヒターノたちが生み出すジャズ・マヌーシュとのコラボが多く、他のギタリストとはその点で一線を画しています。

 

そしてこの二人を繋ぐのがパーカッションを担当したバンドレロでした。非常にそつのないプレイで二人を支え、尚且つ自身の聞きどころを作ることも忘れない。本当に三者三様の個性をもつ3人ですが、同時に、まとまっている。3人で完結しているのです。他には誰もいらない。カンテもバイレも必要なし。まさに余計なものを削ぎ落とした究極の美。充実した大人の、見応えのあるコンサートでした。

 

にしてもホルへの、68歳とは思えないその肺活量には脱帽でした。この年齢で1時間半ずっと管楽器を吹きっぱなしですからね。しかも、ステージの外で見ると年相応に見えるのですが、ステージに上がるや否や、若い! 彼の印象は本当に変わらないですね。今年は台湾での公演も控えているとか。機会があれば日本でもまた是非プレイしたいと語る彼でした。

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左からホルヘ・パルド、ヘロニモ・マジャ、バンドレロ (c) Keiko Higashi


【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。

 

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