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新・フラメンコのあした vol.11

(lunes, 1 de enero 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、昨年秋にマドリードで行われた第18回「スマ・フラメンカ」フェスティバルで上演されたラ・モネータの劇場作品についてのリポートです。

 

『フレンテ・アル・シレンシオ』

フエンサンタ“ラ・モネータ”

「スマ・フラメンカ」フェスティバル

アバディア劇場、マドリード、スペイン

2023年10月21日

 

“FRENTE AL SILENCIO”

Fuensanta La Moneta,

Festival Suma Flamenca,

Teatro de La Abadía - Sala Juan de la Cruz, Madrid.

21 de octubre 2023

 

文・写真: 東 敬子

Texto y fotos: Keiko Higashi


ラ・モネータ スマ・フラメンカ2023

 フエンサンタ "ラ・モネータ"と聞いて思い浮かぶイメージは、グラナダ出身らしい荒々しい魅力に溢れるバイレ、伝統的な衣装に身を包んだ王道のフラメンコ、そんな感じでしょうか。

 

 しかしそんな印象的なバイレであっても、20代前半の頃の彼女にはまだ余裕がなく、私はいつもぎこちない「力み」を感じていました。自分が理想とする形、自身のアイドルに似せようと、必死にもがく焦り…。

 

 自分がやりたい事と、自分に合っている事は、必ずしも同じではない。経験を重ね、自分を知ることによって、そう気づく人は少なくありません。やがて彼女も、もっと自由な、いわゆるモデルノ風の作品を提唱する機会が増え、私は、伝統的なスタイルだけでなく、こちらも意外に合ってるのではと感じていました。そして39歳となった今、この作品で、その二つが融合した新たな個性への大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。

 

 例えば、エバ・ジェルバブエナが踊るコンテンポラリー風の振付は、コンテンポラリーの動きや感性に導かれているのですが、モネータの踊りはいつでも、伝統的なフラメンコのそれであり、その様式美、感性を使って、フラメンコの外の世界へ翼を広げることができる。それは素晴らしい彼女の個性だと思います。

 

 ただし、今回の作品は完璧ではなかった。観客として観た時に、いろいろな不具がありました。彼女の踊り自体は冴えていたし、見応えはあったのですが、今後の展開としては、もう少し観る側の印象を考慮して演出に力を入れると良いのかなと思います。

 

 今年の「スマ・フラメンカ」フェスティバルでマドリード初演となった『フレンテ・アル・シレンシオ』。第二次世界大戦中、ナチスドイツによって排斥行為を受けたユダヤ人やロマ民族、身体障害者など、当時、社会的弱者として扱われた人々の心の叫びを表現したこの作品は、開演10分程前から、すでに始まっていました。

 

ラ・モネータ スマ・フラメンカ2023

 着席してふと気がつくと、ステージ上に誰か体を布で覆った人が椅子に座っている。よくある演出なので、「あー、モネータが座ってるのね」と、分かります。しかし私はこの段階で、すでにイヤーな予感に囚われます。ああ、多分出だし10分は、ほぼ無音でほとんど動きもなく…。この展開は、エバ・ジェルバブエナからこちら、もうすでにパターン化されていると言っても過言ではなく、私の予想は的中し、非常に辛い10分を過ごしました。

 

 これが映画だったらミステリアスな雰囲気で興味をそそるのでしょうが、ライブの舞台では、逆に、興味を削がれる。スペイン人は沈黙があまり好きではありません。何も起こらないと、退屈するんですよね。そんな時彼らは咳払いをして「何かやってよ」とか「早く」を表現するものです。案の定、この作品の最初の10分は、咳払いが続く続く(汗)。

 

 そしてあまりにも暗い照明。フラメンコのステージは茶色い暗い照明がほとんどですが、今回はもう暗すぎて何をやってるかよく見えない。衣装も裾を踏んだりして踊りづらそう。ステージ上で着替えるのですが、脱いだ服は放っぽりっぱなし。幕に文字が映し出されたときも、文字の位置があまりに上の方で客席から読めない。

 

 そして何より、これはあくまで私の個人的な気持ちですが、この戦争が勃発し、危機的な現在の世界状況で、わざわざナチスの話なんか見たくない。こんな時期だからこそあえて、という気持ちはよくわかりますが、もう、苦しみ続ける彼女の演技を見ていると、気持ちが萎え切ってしまう。

 

 靴を脱ぎ捨て、裸足で汗を滴らせながら踊る彼女。笑顔に交差する悲しみの表現。爆発する内なる葛藤が、ひしひしと伝わってくる。踊る彼女はこれまでになく素晴らしかった。振り付けも面白いし、何より、脂が乗って今が一番踊り手として充実している、そんなエネルギーが満ち溢れていました。だからこそ、もう少し見せ方を検討してほしかった、それが正直なところでした。

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com (https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。

 

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