新・フラメンコのあした vol.38
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(miércoles, 1 de abril 2026)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。
今月は、去る3月8日にマドリードのセントロ・ダンサ・マタデーロで世界初演として上演されたヘスス・カルモナの新作公演についてのリポートです。
ヘスス・カルモナ
『テンタティボ』世界初演
セントロ・ダンサ・マタデーロ、マドリード、スペイン
2026年3月8日
Jesús Carmona
"Tentativo (basado en paisajes reales)",
Centro Danza Matadero, Madrid.
8 marzo 2026
文/ 東 敬子
画像/宣伝素材 / 東 敬子
Texto por Keiko Higashi
Fotos por promoción / Keiko Higashi

その類まれなる技術、創造性でアーティストが一目置くアーティストとして知られるヘスス・カルモナ(Jesús Carmona)。彼の新作『テンタティボ (Tentativo)』は、斬新な発想と表現が詰め込まれた、非常に興味深い作品でした。
1985年バルセロナ生まれ。スペイン舞踊とバレエを習得し、フラメンコはアントニオ・カナーレス、エバ・ジェルバブエナ、アンヘル・ロハスらに師事。2010〜2012年にスペイン国立バレエ団の第一舞踊手を務めたのち、自身のカンパニーでソリストとして数々の作品を世におくってきました。派手さはない。しかしフラメンコ性と創造性を兼ね備えた秀作の数々は、本物志向の後進の道しるべとなっています。
「試み・挑戦」という意味合いを持つ作品タイトルには、「リアルな風景に基づいた」と言うサブタイトルが付きます。その名の通り今作品では、表現者としてのリアルな体験や心情が綴られ、「試み」への道のりが表現されます。
まずはステージに立つ準備、壮絶な練習風景が表現され、その演出には目を見張るものがありました。これは今回、舞台監督として参加したルイス・ルケの采配によるものが大きいでしょう。
ヘススがシーツに包まれた大量の、多分百個近くはある、タンバリンをステージ中央に引きずってきます。ヘススと5人の若い踊り手たち(ソフィア・ラシェラス、フアン・ブラボー、ルシア・カンピージョ、パブロ・エジェア、アイタナ・ルソー)がそれらをステージ上に拡散し、その隙間を縫って踊り始めます。やがて踊る足でタンバリンは徐々に隅に押しやられ、中央に大きなスペースが出来上がると、6人は本格的にステップを踏み始めます。ヘススが師となり5人は彼のアルテを必死に追いかけます。会場となったマタデーロ舞踊センターのステージはすり鉢状になっていて、観客がステージを見下ろす形になっていますが、その空間を上手く利用した見せ方だったと思います。
フラメンコ作品におけるレッスンのシーンと言えば、やはりアントニオ・ガデスの『カルメン』のそれを思い出します。しかし今回のレッスンシーンは感触が違う。『カルメン』のそれはカルロス・サウラ監督の、「フラメンコのレッスンって激しいんだぜ」という客観的なビジョンで表現されていて、だからこそエンターテイメントとして観客も客観的に「凄い」と驚くわけですが、ヘススのそれはアーティスト自身の体験が内から表現されており、観客と言うより一人の人間として共感できる普遍的なものがありました。その抽象的なのに分かりやすい表現は秀逸の一言でした。
裸足で踊る彼らの動きは、ちょっとアフリカンダンス的な音とテイストがあったのは面白かったし、足踏みがタンバリンに共鳴して、靴がなくとも足音が聞こえる演出は巧妙だったと思います。
このシーンのクライマックスでは、棒立ちになったヘススの手に、他の踊り手たちが次々とタンバリンを乗せていき、積み上がったタンバリンはある瞬間崩れ落ちる。その一連の動きをずっと繰り返します。まさに、舞踊は、鍛錬は、永遠に積み上げていくばかりなのだと。
そしてヘススは「弟子」一人一人に丁寧に靴を履かせ、最後は自身も靴を履いて、第二章へ突入します。第一章ではドラムやカホンなどのパーカッション(マヌ・マサエド、キケ・テロン)がメインでしたが、第二章ではギター(エル・ペリ)、カンテ(テレサ・エルナンデス、ガブリエラ・ヒメネス)もフル稼働してステージを盛り上げます。ヘスス、そして愛弟子5人は自身の世界の中で力の限りを尽くし、最後はスタンディングオーベーションで幕を閉じました。

非常に見応えのある、40代に突入したヘススの充実した踊りを堪能できた作品でした。ただ、世界初演だったこともあり、多少の改善点もあるのではと感じました。
まずは音響バランス。通常のフラメンコ公演よりもバックの演奏や歌声の音が大きく、特に第二章でのサパテアードがとても聞こえにくかったのは残念でした。パリージョ(カスタネット)の音に至っては、バックの音にかき消されて、本当にもったいなかった。また、照明が暗すぎる。「フラメンコ・イコール・暗い」と信じて疑わないのは、はっきり言って、演出家とアーティストだけですからね。これは観客にとってはもう拷問に近い。だって、暗いが故に動きも良く見えないし、衣装だって楽しめない。見た目ぜーんぶ茶色ですからね。私はもう20年以上同じことを言っています。お願いですからステージの照明をもっと明るくしてください。そして最後に、今回の作品は、1時間半ではちょっと長いと感じました。それぞれの場面は必要だったと思うのですが、1時間15分ぐらいが適切なのではと感じました。
何はともあれ、ヘスス・カルモナが現代フラメンコを担う踊り手の一人であることを確認した嬉しい夜だったことには間違いありません。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。
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