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新・フラメンコのあした vol.43

  • 1 時間前
  • 読了時間: 4分

(martes, 1 de septiembre 2026)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。

今月は、今年8月にマドリードのプラサマヨール野外特設ステージで開催されたアンドレス・バリオスのコンサートについてのリポートです。


アンドレス・バリオス

『KM.0』

プラサマヨール野外特設ステージ、チンチョン、マドリード、スペイン

2026年8月8日 

 

Andrés Barrios

“Km.0”

Plaza Mayor, Chinchón, Madrid, España

8 agosto 2026

 

文:東 敬子

Texto por Keiko Higashi

画像:宣伝素材/東 敬子

Fotos por promoción / por Keiko Higashi

 


2609_Andrés Barrios_ (c) Keiko Higashi

スペインの首都マドリードには、市の中心に当たるプエルタ・デル・ソルに、ここからスペイン全土に道が広がって行きますよと言う「0地点(キロメトロ・セロ)」があります。そしてピアニスト、アンドレス・バリオスが繰り出す独創的な世界のゼロ地点は、フラメンコでした。

 

1997年ウトレーラ(セビージャ県)生まれの29歳。セビージャの音楽コンサーバトリーでクラシックピアノを学び、後にピアニスト、アンヘル・サンソに師事。そしてオランダに渡り世界の音楽を学びました。ウトレーラ出身とあってフラメンコには幼い頃より馴染みがありましたが、フラメンコピアノに関しては独学。加えて、ジャズを含むあらゆる音楽へと興味は広がっていきました。

 

マドリードから車で45分ほどの村、チンチョン。村の中心に位置する、中世の面影を残すプラサマヨールは、夏の数ヶ月間、枠で囲われ、闘牛場と化します。そこでほぼ毎週末行われる野外コンサートは、夏の暑さを忘れさせてくれる村民の楽しい集いの場となります。ちなみに今年は、スペインが優勝したサッカーワールドカップの観戦の場としても大いに活用されました。今回のアドレス・バリオスのコンサートは、飲んだり食べたりできるテーブル席も用意されるなど、和んだ空気の中、涼しくなった夜10時より行われました。

 

2024年に発表されたアルバム「KM.0」からの楽曲で構成された当夜は、ピアノ、ドラム、ダブルベースのほか、バイラオーラ(ソフィア・デル・リオ Soffía del Río)も参加。民謡っぽい楽曲などを「一緒に歌いましょう!」と、観客と一体になったステージングを意識した場面もあり、まあ普段はこういったことはしないでしょうから、これは村の夏祭りというシチュエーションを考慮しての事なのだろうと思いました。


2609_東敬子43_アンドレス・バリオス

 

現在ピアノ・フラメンコの期待の若手として注目を集めている彼ですが、今回のコンサート「KM.0」で彼の演奏を初めて生で観て、私は「フラメンコ色はマイルドだな」と思う一方、何かこれからの新しいフラメンコの波を観た思いがして、改めて彼の若さと可能性を感じました。

 

アルバムのコンセプトを読むと、出身地ウトレーラを起点にヘレス、ウエルバなど、フラメンコの故郷を巡礼していく旅、もしくは、自分の内面を起点に生み出される創造の旅が描かれているというものでしたが、コンサートを聴いた印象だけで言えば、フラメンコを掘り下げるというより、自身が持つ興味に導かれて、生み出される音楽、別の言い方で言えば、自身の興味を満遍なく網羅した音楽の中にフラメンコもあると言ったところでしょうか。誤解の無いように付け加えると、楽曲自体はフラメンコの曲種を用い、パルマもバイレもカンテもとり入れて、フラメンコ的要素はちゃんと本物なのですが、彼の焦点はそこには無いというか。

 

全体的に空気がふわっとしているんですよね。コンサートでは彼自身がボーカルも担当していましたが、歌の入りもすごくふわっとしている。例えば同じくピアノを弾きながら歌うディエゴ・アマドールは入りからフラメンコ味がガツンと来るのに対し、アンドレスのそれはフラメンコのフレーバーを口元にちょっと感じる感じ。この辺がジャズっぽいんですよね。聴きごこちがとても良い。そこが新しい。

 

「彼の音楽を、ただただ楽しむ」というスタンスであれば、非常に完成度の高い演奏だったし満足度も高いコンサートでした。まだ20代の彼。今後も創造の羽をもっともっと広げていってもらいたいと願います。

 

でも「フラメンコ」がもっと欲しい人にとっては多少物足りなさが残るかも知れません。私自身は、優しい笑顔も良いけど、やっぱり苦痛の慟哭が恋しかったというのが正直なところ。ストレス無く聞ける音楽より心を掻き乱す得体の知れない「音」が好きなのです。カンテはやっぱりカンタオールに歌って欲しいし、パルマも本職に叩いて欲しいし、バイレももっと主張してほしい。これは聴き手が何を求めるかによって意見が別れる音楽なのかなと思いました。そしてやっぱりピアノは野外コンサートではなく、室内のいい環境の音で聞きたい。次はぜひ、コンサートホールで!

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。

 

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