スペインNews 11月号・2025
- norique
- 22 時間前
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(jueves, 6 de noviembre 2025)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze
《INDEX》
【ハレオス・エストレメーニョス舞踊コンクール】

10月2日、バダホスのロペス・デ・アジャラ劇場にて、第2回ハレオス・エストレメーニョス・コンクール決勝が行われました。昨年始まったこのコンクールはクリスティーナ・オヨス舞踊団などで活躍した踊り手ヘスス・オルテガのセントロ・インテルナシオナル・デ・フラメンコ、フラメンコ国際センターが、自治体の後援を得て主催しています。
スペイン西部、ポルトガルと国境を接するエストレマドゥーラ地方はアンダルシア、ムルシアと共にフラメンコの世界無形文化遺産指定に尽力したのですが、この地のフラメンコはそれほど知られていません。そこでエストレマドゥーラのフラメンコをアピールし、この地発祥の曲種、ハレオス・エストレメーニョスに特化したコンクールが生まれたのです。18歳から45歳までの踊り手たちが対象で、課題曲ハレオス・エストレメーニョスと自由曲を踊ること、優勝賞金9,000ユーロとフラメンコ舞踊コンクールとしては破格なのが特徴でしょう。

9月24日セビージャでのコンクール記者会見。オヨスやルピと共に決勝進出者たちなど
鬼頭幸穂さんが決勝に残った昨年は11月に行われ、ロベル・エル・モレーノが優勝、2位がフアン・ホセ・ビジャール、3位はサイラ・プルデンシオでした。今年もスペイン各地はもとより、フランスや日本。ドイツ、ロシア、チリなどスペイン以外の国籍の人も含めおよそ30人が応募。その中からビデオ審査で選出された5人が決勝に進みました。セビージャ留学中の瀬戸口琴葉さんは補欠1位でしたが、決勝進出者が全員参加したため、残念ながら決勝進出とはなりませんでした。
今年優勝したのはマドリード出身で各地のタブラオを主な舞台に活躍しているウーゴ・サンチェス。2位はセビージャ出身カルメン・ジャネス、3位はグラナダのシルビア・フェルナンデスでした。今年の審査員にはクリスティーナ・オヨス、スペイン国立バレエ団監督ルベン・オルモ、アンダルシア舞踊団監督パトリシア・ゲレロ、ラ・ルピらだったこともあり、3位のシルビアにアンダルシア舞踊団、シルビアとフランス出身セビージャ在住のアナイス・リバスにスペイン国立バレエ団での研修が贈られました。
コンクールの模様はこちらの動画で
【スペイン国立バレエ団王立劇場公演『メデア』】

10月16日から4日間、マドリードの王立劇場においてスペイン国立バレエ団公演が行われました。今回は2006年70歳で亡くなった振付家ホセ・グラネーロへのオマージュとして、彼の4作品と男性ソロによる新作小品二作を日替わりでというプログラム。
幕開けはアルベニスの曲にホセ・ルイス・グレコの曲を加え、男女の群舞で見せるスペイン舞踊作品『レジェンダ』、物語のある作品『クエントス・デ・グアダルキビル』の中で最も印象的だった男女のパドドゥと1994年初演の作品に続いて新作。私が観に行った初日は助監督のミゲル・アンヘル・コルバチョがスカルラッティのソナタに振り付けた『セグンダ・ピエル』で、スルタンのような長いジャケットをスカートのようになびかせて踊るのですが、男性らしい芯のある踊りで良かったです。そして『ボレロ』。日本公演ではほぼ欠かさず上演されてきた作品ですが、スペインでの上演はおよそ30年ぶりだそう。エンターテイメント性が高く、スペインの観客にも大好評でした。
休憩を挟んでの第二部は『メデア』。アントニオ・ガデスの『血の婚礼』と並ぶ、フラメンコの舞台作品の歴史に残る名作です。マノロ・サンルーカルのドラマチックで美しい音楽は本人だけでなくクラシックのギタリストも録音しているほど。主役のメデアは初演のマヌエラ・バルガス以後、メルチェ・エスメラルダ、アナ・ゴンサレス、ローラ・グレコ、マリベル・ガジャルド、エステル・フラドと踊ってきましたが、今回は最初の三日間はエバ・ジェルバブエナが踊りました。これまでの他の誰のメデアとも違う、内に恨みつらみを溜めた暗く重苦しく、また迫力のあるメデアでした。エバは30年くらい前にスペイン国立にゲスト出演していたこともあるので全くのアウエーというわけではないと思うのですが、当時とはメンバーもガラッと変わっていますし、基本、普段は一人でフラメンコ曲を中心に踊っている彼女にとって他者が振り付け、演出した物語のある作品を踊るのは勇気のいる挑戦だったことでしょう。またマドリード交響楽団とギターで共演したフアン・カルロス・ロメロにとってもそうだったのではないでしょうか。
なお最終日にメデアを踊ったのは現在リハーサル監督を務めるマリベル・ガジャルドでした。これが彼女の最後のメデアだということです。来年7月のマドリード公演では第一舞踊手のインマクラーダ・サロモンが踊る予定のようです。

【動画】
【セビージャ ギター祭】
2010年に始まったセビージャ、ギター祭が今年も10月9日から11月7日までのおよそ1ヶ月間、セビージャ市とその周辺の町で開催。クラシックギターのフェスティバルとしてはじまったのですが、現在はフラメンコギター公演も行われています。その半数がクラシックギターとのジョイントリサイタルなので、ジャンルを超えてアコースティック・ギターの魅力が楽しめるフェスティバルだといえるでしょう。またクラシックギターの公演で、日本人ギタリストも複数出演しています。フラメンコ・ギターで最初に登場したのは10月18日のホセ・アントニオ・ロドリゲス。コルドバ出身のベテランは、セビージャ市の中心部にあるエスパシオ・トゥリーナでリサイタル。ビエナルでもギターリサイタルの会場として使われているところですが、このフェスティバルはマイクなし、生音で勝負。曲と曲の間のおしゃべりが聞こえにくいということはあったりしましたが、細かなニュアンスがより聴き取れるような気がします。大きな会場や舞踊との共演がある時は難しいかもですが、フラメンコでももっと生音のコンサートあってもいいかもですね。ホセ・アントニオはソレアやファルーカ、コロンビアーナなどを次々と演奏。ゆったりと余白を持った演奏は耳に心地よく、最後はマンハッタン・デ・ラ・フロンテーラで盛り上げるなど、さすがベテランの貫禄でありました。

10月28日には美術館でヘレスのマヌエル・バレンシアのリサイタル。こちらは無料公演。常設展示の宗教画に囲まれた座席を前にこちらもマイクなしで。昔ながらのフラメンコのかたちを継承しつつ新しい感覚のフレーズもところどころに織り込んでくるというスタイル。タランタ、ソレア、サパテアード、ロンデーニャ…人柄もあるのでしょう、自然で温かみのある演奏が素晴らしく、真っ直ぐ心に飛び込んできます。そして重みと深みのあるシギリージャはまさに絶品。最後のブレリアも心に残るリサイタルでした。

29日、30日は再びエスパシオ・トゥリーナに戻り、クラシックとフラメンコのジョイントコンサートが続きました。29日のホセ・マヌエル・レオン、30日のエドゥアルド・トラシエラともに、オルガ・ペリセやロシオ・モリーナらとの共演で何度も見聞きしているギタリストですが、ソロでも彼女たちのパフォーマンスにも通じるような自由さと現代性を感じる演奏でありました。
なお、30日に行われたセビージャ国際クラシックギターコンクールで横村福音さんが優勝しました。2002年東京生まれの彼女は2021年からセビージャに留学し、毎年フェスティバルにも出演しています。日本人の優勝は2017年の菅沼聖隆さん以来二人目。
写真は今年の公演から。

フェスティバルは11月も続きます。その模様はまた来月に。
【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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