新・フラメンコのあした vol.33
- norique
 - 3 日前
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(sábado, 1 de noviembre 2025)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。
今月は、この9月にマドリードで開催された「スマ・フラメンカ・ホベン」フェスティバルで、強く印象に残った最終日のガラ公演についてのリポートです。
フアン・アンギータ、セリア・ロメーロ、ジョエル・バルガス
『ガラ・4』
第5回「スマ・フラメンカ・ホベン」フェスティバル
カナル劇場、緑の間、マドリード、スペイン
2025年9月28日
Juan Anguita, Celia Romero, Yoel Vargas
“Gala IV”
V Suma Flamenca Joven
Teatros del Canal, Sala Verde, Madrid.
28 septiembre 2025
文/東 敬子
画像/東 敬子、宣伝素材
Texto por Keiko Higashi
Fotos por Keiko Higashi / por promoción

やっぱり若手の公演を観に行くのは楽しいですね。もちろん、ベテランと違ってまだステージ経験が浅いなとか、個性がまだ出来上がってないなと感じるケースも少なくはありません。でも、目の覚めるような新しい才能に出会うと、感動も数倍、未来へのワクワク度も上がります。昨今のフラメンコ業界は体力向上とともに「高齢化」が進み、みんなが知ってる人気アーティストも若くてアラフォー、上はそろそろ喜寿という感じなので、若手が世に出る機会がなかなかないのが現状です。
そんな中、今年5回目を迎えるこの「スマ・ホベン」は、30歳以下のアーティストのみが出演できるフェスティバルとして、次世代を盛り立てる役割を担う、とても貴重な試みを続けています。
20世紀を代表する名ギタリスト、マノロ・サンルーカルへのオマージュとして開催された2025年度は、9月25日から28日の4日間に渡り4公演が行われ、それぞれの公演でカンテ、ギター、バイレの3組が出演しました。当夜の公演は最終日とあって、どんな締めくくりを見せてくれるのか会場は期待に溢れていました。が、先に言ってしまいましょう。この公演に出演した3組の中で圧倒的なカリスマ性と才能を見せつけたのが、大トリで会場を沸かせた22歳のバイラオール、ジョエル・バルガスでした。
まずはセビージャ出身のギタリスト、フアン・アンギータからスタート。彼の履歴には、はっきりした生年月日が載っていなかったので、推測25歳前後。セビージャのクリスティーナ・へーレン財団で奨学金を得て、第一線で活躍するさまざまなギタリストに師事しました。2022年に初のソロコンサート「センデロス・デル・アルマ」を行い、現在は踊り手のエル・ファルー、歌い手のマリア・バルガスやエスペランサ・フェルナンデスらの伴奏を務める傍ら、タブラオなどで活動しています。
当夜はマラゲーニャ、サンブラ、ブレリアなどを披露。一言で印象を言えば、作曲のクオリティは高く光るところがあるのに対し、演奏は非常に優しいタッチなので、フラメンコらしい魂の爆発といった勢いが見えず物足りなさが残るといったところ。フラメンコギタリストには、作曲家と演奏家という二つの能力が求められるのは常ですが、私はフラメンコギターも作曲、演奏に分業しても良いと思うんです。アンギータ作曲の楽曲を他のギタリストが演奏したって、何の問題もない、と私は思います。そんな風潮が広がれば、彼の作曲家としての可能性はさらに大きくなるのではと思います。
二番手に登場したのはバダホス出身のセリア・ロメーロ。今年30歳を迎える彼女はギタリストの父を持ち、7歳で芸歴をスタート。12歳でセビージャのクリスティーナ・へーレン財団の奨学金を得て名匠たちに師事。16歳のときには、史上最年少で有名な「ラ・ウニオン」のコンクールで最優秀賞である「ランパラ・ミネーラ賞」を獲得し業界を驚かせました。
当夜はセビージャ出身のギタリスト、ニーニョ・セベの伴奏と共にソレアやタンゴなどを歌唱。会場は盛り上がりましたが、私としては、若干「そつなくこなした」といった感があって、それほど響かなかったというのが正直なところです。彼女のその感じが、熱血のニーニョ・セベの演奏とは、あまりマッチしていなかったのが残念でした。
そして今年のフェスティバルを締め括ったのがジョエル・バルガスのバイレでした。2003年タラゴナ生まれの22歳。3歳でフラメンコに目覚め、9歳よりフラメンコを含むスペイン舞踊全般とクラシックバレエおよびコンテンポラリーダンスを学びます。14歳でバルセロナのコンサーバトリーに入学し、17歳で奇才マヌエル・リニャンの舞踊団に入団。その後は自身の振付作品も発表し、20歳の時に「ラ・ウニオン」のバイレに贈られる最優秀「デスプランテ」賞を受賞。ニューヨーク発の「ダンス・マガジン」では、見逃せない25人の振付家の一人として選ばれました。

何が凄いといったら、まずそのずば抜けた身体能力。驚異的な身体能力を持つ踊り手として、フラメンコ界で挙げるとすれば、私は二人の踊り手、ロシオ・モリーナとアイダ・ゴメスを挙げます。20代前半のロシオの身体能力は、もう神がかっていました。それをリアルタイムで観ることが出来たのは本当に幸運だったと思います。その衝撃を、このジョエル・バルガスにも受けました。二人しかいなかった私の特別なリストに、もう一人加わったわけです。
そしてその脅威の身体能力があるからこそ出来る振付が、本当の意味で伝統を現代に進化させた、素晴らしいものだったのです。奇をてらった動きや、面倒くさいストーリーテリングや、変にコンテンポラリーっぽいものは何も無い、王道の一本勝負。伝統を自身の解釈に落とし込み生み出したその個性は、誰にも真似できないものでした。時折マヌエル・リニャンの影響も垣間見えはしますが、そう感じた瞬間、するりとリニャンとは違った切り口に着地する。実直な音でバックを支えるギターのハビエル・コンデもとてもマッチしていたと思います。彼は小さい頃からステージで伝統的なソロ楽曲を弾いて頑張ってきたギタリストで、久しぶりに観れて感慨深かったです。まだ22歳とは思えないジョエルの偉大なカリスマ性と情熱で会場は大いに湧き、大きな「オレ!」が鳴り響きました。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (Keiko Higashi)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。
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