石井智子「夢や希望が感じられる舞台に」
- norique
- 1月17日
- 読了時間: 6分
Flamenco fan インタビュー
(viernes, 17 de enero 2025)
日本を代表する文豪の一人、谷崎潤一郎の長編小説『細雪』を原案とした舞台公演「アシタ ワタシの『細雪』」を2月に上演するスペイン舞踊家、石井智子さん。本番に向けてリハーサルを重ねる合間に、今作の内容や舞踊の魅力、舞台の見どころなどを語っていただきました。
聞き手・写真/金子功子
Entrevista y fotos por Noriko Kaneko

――今回の舞台は作家、谷崎潤一郎の『細雪』という有名な長編小説を原案としています。この作品を題材として選んだ理由は何でしょうか。
「2019年に明治座で、『細雪』のお芝居を拝見しました。その舞台で繰り広げられる絢爛豪華な世界を、当時はひとりの観客として素敵だなと思って観ていました。でもそのあと、コロナになってスペイン人を呼べなくなり、2021年の『みだれ髪』初演から小松原庸子先生の時の仲間でもある南風野香さん、井上圭子さん、中島朋子さんと共演するようになって、一昨年のアートキャラバンでも一緒に全国各地を回ったり『みだれ髪』の再演も果たして、また4人で何かやりたいな、と思っていました。私たちが小松原先生の下で10代から培ってきたスペイン舞踊やフラメンコの技術、スペインの一流アーティスト達から学んだことを何かの形にして、発表できる機会があればと考えていたところ、細雪の4姉妹の姿とつながったんです。原作は大阪の船場が舞台で、戦前の優雅な上流階級の4人姉妹を描いていて、でも戦争が始まり家が凋落していく中で、4人姉妹が大切にしてきたものを必死に守りながら生きているそれぞれの姿に共感を覚えました。私たちも小松原先生の下で培ってきた大切にしてきたものを、次の世代に伝えていかなければいけない年代になりましたので、そうした思いが細雪をやる大きなきっかけになりました」
――4姉妹役という設定ですが、それぞれの役柄やソロのみなさんの魅力を教えていただけますか。
「長女の鶴子は本家で東京に行ってしまうんですが、私としては鶴子が大阪を離れた後も常に妹たちの事を心配していて、早くに亡くなった両親から家や家族を守るよう使命を託されて生きているところが、自分の生き方ともリンクして感じられています。二女は南風野さんが二人の妹を静かに優しく見守り、三女は一番日本的な女性像で、キャラクター的にも実は井上さんに合っているように思います。四女は中島さんが、現代的な性格で自由な発想を持っていて…と、特に決めたわけではないんですが、自然に4姉妹と設定が合っていて、実は年齢の順番も4姉妹と同じなんです(笑)。全員お芝居や演劇的なことも小松原舞踊団時代に経験しているので、それぞれの役に入っていく表現方法もみなさん上手だなと思って見ています。ソロの踊りも、私は2曲踊りますが、南風野さんはグアヒーラ、三女の井上さんはペテネーラをバタとマントンで、四女の中島さんはガロティンと、役柄に合った選曲です。衣装も素晴らしくて、自前のバタ・デ・コーラの上に、実際のお着物をほどいて仕立て直したりカットしたりして重ねて、本物の帯を締める、といった具合です。私は今回全部バタ・デ・コーラで、3着すべて違うデザインなのでフラメンコ衣装と和装との組み合わせも楽しめると思います。上流階級の役なので気品ある衣装で、バタ・デ・コーラの踊りでも威厳や気品の中にパッションや力強さも感じられるような、そういう踊りをお見せしたいです。今回の見どころとして、バタの名手として有名なミラグロス・メンヒバル先生に習ったアレグリアスをバタで4人で踊ります。他にも、私がミラグロス先生に習ったシギリージャやマラゲーニャ・ロンデーニャと、それらを一挙に全部、伝統的なフラメンコをお見せしたいと思っています。最後は4人のアレグリアスで、豪華に華やかに見せたいと思います」

――素敵な舞台は、お客様も観ていて幸せな気持ちになりますよね。
「ここ何年か助成金をいただいて活動をしていますが、時間とお金をかけて観に来てくださったお客様に何かを返さないといけない、夢とか希望とか、生きる活力とか、何かを持って帰っていただきたいという使命をもって、作品を作っていかなければなりません。それは舞踊団のみんなも理解しています。皆様の税金を使わせていただいて舞踊団活動をやっていますので、観に来てくださったお客様に幸せな気持ちになっていただいて、今はいろいろある世の中ですが、この2時間だけは夢の世界にいてほしいと思います」

――今回の作品作りにあたって、演出家の加藤直さんが加わった事で、何か変化した点はありますか。
「もし私が一人で作ったら、ありきたりというか…華やかな舞台にはなるけどこれまでと同じような作品になるかもしれません。今回の谷崎の作品は私も自分なりに構成を組んでみましたが、やはり何か新しい冒険をしてみたかったし、この4月に加藤先生の演出した舞台に出演して、先生のテイストを横で勉強したいなと思いました。今回は先生が書いた台本に私たちが伝えたいことを取り入れてもらったりして、一緒に作り上げています。作品の中では、舞踊団の3人が女中さんの役で話を引っ張っていって、それ以外にも舞踊団員がそれぞれ台詞を言ったり踊ったり、黒衣の女たちとして語りでそれぞれの姉妹の役を表現したりしています。みんななかなか上手で、先生も芸達者な人より自然にやってもらう方がお好みなようです。また女性の声だけでなく、男性の声も入れたりして対比を見せたいようですね」
――音楽づくりはどのような感じで進めていますか。
「ミュージシャンのみなさんは、私がそれぞれの場面のイメージを伝えると、いろいろなアイデアを出してくださるんですね。私もそうした新しい提案は大歓迎なので、とてもありがたいです。お互いに意見を重ねて、みんなで話し合いながら作っている感じです」

――今回の作品を通して、お客様に伝えたいことを教えてください。
「夢のような華やかな世界で、懸命に生きる4姉妹の姿に私たち4人の熱い想いが重なって、舞台を観たお客様が明日も頑張ろうと思ってもらえるような、そういう作品にしたいです。バタ・デ・コーラの踊りの美しさなども見どころですので、ぜひ多くのお客様に楽しんでいただきたいと思います」
*石井智子スペイン舞踊団公演「アシタ ワタシの『細雪』」の公演情報は、こちらをチェック!
【プロフィール】
石井智子(Tomoko Ishii)/スペイン舞踊家。文化庁芸術祭大賞、舞踊批評家協会賞、河上鈴子スペイン舞踊賞など受賞歴多数。主宰する石井智子スペイン舞踊団は、『スペイン舞踊を通して感性豊かな人間力・想像力を高め、豊かな人生を送れるよう、夢・幸せ・生きる活力を社会に与えること』をミッションとして活動している。後進の指導にも力を入れ、教室では生徒さんがフラメンコに親しみ、輝けることをモットーに指導している。
[公式サイト]
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