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新・フラメンコのあした vol.23

(miércoles, 1 de enero 2025)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。

今月は、10月にマドリードで開催された「スマ・フラメンカ2024」フェスティバルで上演されたギタリスト、ヘラルド・ヌニェスの公演についてのリポートです。

 

ヘラルド・ヌニェス

『ギターラ・デスヌーダ』

カナル劇場・緑の間、マドリード、スペイン

2024年10月16日

 

Gerardo Núñez,

“Guitarra Desnuda”

Teatros del Canal - Sala Verde, Madrid.

16 de octubre 2024

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 / 東 敬子

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción / Keiko Higashi


A_2501_東敬子あした_Gerardo Núñez - foto-Ricardo Bustillo

ヘラルド・ヌニェス ©Ricardo Bustillo

 

 ヘレス出身のギタリストといえば、土着のノリを重視した伝統的なスタイルの演奏を想像しがち、いやむしろ、そうでなければという期待を抱きがちですが、その固定概念から脱却し、自由で洗練された音楽を追求して一時代を築いたのがヘラルド・ヌニェスです。2000年代は、トマティートやビセンテ・アミーゴらと共に様々なフェスティバルでその顔を見ない日はありませんでした。

 

 その彼が、実力派ギタリスト5人をゲストに招き、「スマ・フラメンカ2024」フェスティバルで提唱した「ギターラ・デスヌーダ(裸のギター)」公演は、タイトル通り、真っ正直なありのままのギター演奏だけで魅せる、究極のギターコンサートでした。

 しかしこのコンサートは、残念ながら大成功には至りませんでした。なぜなら、ヘラルドがここで一体何をしたかったのかがよくわからなかったからです。自身の楽曲をゲストと共に演奏したいだけなのか。それとも、自分を含め6人のギタリストのそれぞれの個性を打ち出したいのか。つまり、「ヘラルドとゲスト5人」なのか、それともヘラルドを含めた「6人のギタリスト」の公演なのか。

 多分、彼は欲張ったんでしょうね。彼は多分、その両方を一度にやろうとしたんだと思います。だから、どっちつかずの、焦点がブレた印象に終わってしまった。

 

 構成を説明すると、まずはヘラルドのソロ。そこにゲスト一人が加わりデュオで一曲。そしてゲストのソロ。このパターンがゲスト5人分繰り返されます。そして最後は全員でブレリアなどを演奏。それぞれのファルセータを入れつつ、メンバー紹介など。

 しかしいくら人が入れ替わるとはいえ、同じパターンの繰り返しですから飽きるし、長引くし、一つの作品としては間延びした印象を残してしまったのは否めません。結果、期待して観に行った63歳となったヘラルドの今もじっくり楽しめなかったし、ゲスト5人も、あまり気持ちよく表現できている様には見えませんでした。自分らしさを自由に表現できないもどかしさがあったと言うか。

 

 さらにヘラルドは、グラナダ出身で現在29歳、確かなテクニックでそつの無い演奏を繰り出す若手アルバロ・マルティネーテや、43歳セビージャ出身で、リズミカルで軽みのあるノリが心地いいリカルド・モレーノには、自身の第二ギター的なポジションでデュオを弾いてもらう一方で、同郷で、カンテ伴奏でも名高い今年50歳のベテラン、ボリータとはガッツリ競演。

 バルセロナのヒターノ一家に生まれ、エストレマドゥーラにルーツをもつ独特の感性とノリで人気のある、今年53歳のカニート。その彼とのデュオは、ほんの少し触れる程度。マドリードに生まれ、フラメンコギターの父、ラモン・モントージャの一族の血を引く、今年47歳のヘロニモ・マジャに至っては、彼が登場するや否や、ヘラルドはサッと切り上げて、まるで逃げるように彼にステージを譲るなど、もう扱いがまちまちで…。

 

 なんにしろ、本当に何がしたいのかがわからなくて、見ている方も戸惑いました。とにかく、観客の視点から言わせてもらえれば、これだけ実力のあるギタリストが6人も揃っているんだから、それぞれの音がもっと楽しめるもっと見応えがある構成を考えてほしかったと言うのが正直なところです。これだと才能の無駄遣いですよね。何ならヘラルドがずっと中心にいる必要もないし、ゲスト同士の競演がもっとあっても良かったのではと思います。

 

 アーティストが自身のリサイタルを行う場合、特にギタリストの場合は、ステージの構成がものを言います。やっぱりインストロメンタルの演奏は、多少、観せ方を工夫しないと、観客を満足に導くのは難しいでしょう。パコ・デ・ルシアが活躍していた頃は、ギターのコンサートはたくさんありました。しかし、彼と言うスターがいない今、ギターのリサイタルは減っていく一方です。パコは闘牛場ですら満員にしました。しかも登場しただけで観客が総立ちになるような、すごいエネルギーに満ちたステージで。だからギターだって、やれば出来るんです。そんなギターコンサートを、いつかまたぜひ、観たいと願っています。

B_2501東敬子_左よりアルバロ ボリータ リカルド ヘラルド ヘロニモ カニート(c)KeikoHigashi

(写真左より)アルバロ ボリータ リカルド ヘラルド ヘロニモ カニート (c)Keiko Higashi

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。

 

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