スペインNews 8月号・2025
- norique
- 8月6日
- 読了時間: 8分
(miércoles, 6 de agosto 2025)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze
フラメンコの夏は、スペイン、特にアンダルシア各地で開催されるフェスティバル。その多くは野外で、その街の公園や広場、学校の校庭、グラウンド、闘牛場などで行われます。仮設舞台ですが、照明、音響、大きなフェスティバルだとスクリーンまで設置され、椅子が並べられます。会場の一角にはバルも設けられ、飲み物や軽食も販売。観客はもちろん開催地、地元の人たち中心ですが、有名なフェスティバルや人気アーティストが出演するものには他の地方から泊まりがけで見にくるアフィシオナードたちもいたりします。アーティストの中にはいくつかのフェスティバルに車を飛ばしてはしごで出演する人もあったり。人気アーティストのオンシーズン、稼ぎどきなのですね。
《INDEX》
【ラス・カベサスのラ・ジェルバブエナ祭】

この協会の裏手にある広場が会場でした。ちなみにこの写真には写っていませんが、この広場の右手の家がペパ・モンテスの生家だそう。
7月4日には初めてラス・カベサス・デ・サン・フアンのフラメンコ祭、ジェルバブエナ祭に行ってきました。ラス・カベサスはセビージャ県、カディス県との県境に近いレブリーハの隣町、人口1万6千人という小さな町です。踊り手ぺパ・モンテスの出身地ですが、フラメンコファンにとってもあまり馴染みのある土地ではないかも知れません。今年で第34回と言いますから、数あるフェスティバルの中では中堅どころになるのでしょうか。会場は村の一番高いところにある教会横の広場。定員600人くらいということでしたが超満員。満員札止めは久しぶりのことだそうです。

今年の出演者は、地元のギタリスト、フアン・デ・クレメンテのグループ、ランカピーノ・チーコ、アウロラ・バルガス、そして踊りのコンチャ・バルガスと通好み。フアンのグループでは歌謡曲のようなブレリアを歌う若い女性たちからじいさまばあさままでが次々にちょっと歌って踊ったのですが、プロとは違う、生活の中で日々楽しむフラメンコという感じで良かったです。

父ランカピーノと同じようにマイクを手に立って歌ったりもするランカピーノ・チーコや

アウロラの1ミリの嘘もない、熱血フラメンコも

極上のフラメンコが身体に染みわたる感じ。フラメンコは心の栄養。生きるエネルギーがチャージされていきます。
最後に舞台に上がったコンチャも、フアネロ、モイ・デ・モロン、ペチュギータという3人の歌い手、息子クーロのギターをバックに気迫のソレア。そして歌のソロを挟んでのブレリアと堪能させてくれました。

夏のフラメンコ・フェスティバル、車がないと行きにくのも確かですが、地元の小さな宿に泊まることも可能ですので、一度はぜひ訪れて欲しいものです。
【ベラニージョ・デル・アラミージョ】
夏のフェスティバル、できれば各県の県庁所在地以外の町をぜひ訪れて欲しいところですが、セビージャ市内でも野外公演があちこちで行われます。
毎年恒例、"アルカサル庭園の夜"(https://www.actidea.es/nochesalcazar2025/)ではクラシック、ジャズ、フラメンコ、ワールドミュージックと多彩な公演が安価に楽しめますし、市の北西にあるアラミージョ公園でも毎週木曜日22時から、無料のフラメンコ公演が行われています。毎回、フラメンコ関係の功労者にオメナヘ、オマージュし、昨年はスイス在住のバイラオーラ、林結花さんへのオマージュもあったそうです。町外れでもあり、帰りのことを考えると車がないと行きにくいことには変わりがないですが、タクシーを使えば行けるのではないでしょうか。出演者は若手が主ですが、だからこそ、まだ知らなかったアーティストとの出会いも期待できそうです。
フラメンコ以外にも子供向けのイベントがあったり、マジックショーがあったり。
今年のプログラムはこちらのリンクで。

【スペイン国立バレエ『アファナドール』マドリード公演】
7月9日から20日まで、マドリードのサルスエラ劇場でスペイン国立バレエ団公演が行われました。演目は『アファナドール』。一昨年12月にセビージャのマエストランサ劇場で初演されたこの作品は、コロンビア出身ニューヨーク在住の写真家、ルヴェン・アファナドールの写真集に想を得た作品で、


コンテンポラリーダンスのマルコス・モラウ(パリ、オペラ座でも新作上演予定)による、現代舞踊の要素を巧みに使った革新的なスペイン舞踊作品。6月に行われたスペインの舞台作品のアカデミー賞、マックス賞でも8部門にノミネートされ、最優秀舞踊作品、演出、作曲、衣装、照明と5部門で受賞した作品。

マックス賞授賞式。中央に緑色のシャツのアシスタントディレクターのミゲル・アンヘル・コルバチョを挟んで左にマルコス、右にルベン・オルモ監督とスタッフ ©︎ Cristina Núñez Fundación SGAE
黒い衣装の半裸の男女によるマスゲームのような群舞や、

写真家ということからであろう、フラッシュを効果的に使ったり、写真スタジオを連想させる照明をダンサーが移動させたり。知らない国の宗教音楽のようにも聞こえる音楽とそこに違和感なく挟み込まれるフラメンコの生演奏。群舞が見せる集団(で同じことをするということだけで見えてくる)的暴力性、得体の知れない恐ろしさなど、観る人誰にも、強いインパクトを残すであろう、すごい作品だと思います。伝統的なスペイン舞踊とは一線を画す、非常に個性的な作品だけに、個人個人の好き嫌いはあるとは思いますが、クラシックバレエのスペイン舞踊も現代を生きる舞踊なのだと再確認させてくれました。そしてこのすごい作品を支えているのは規律正しく訓練された素晴らしいダンサーたち。整った美しさをあえて壊すことで見えてくる本質なのかも。

なお、9日の公演の収益はUNRWA(国連パレスチナ難民級財事業機関)に寄付されたということです。
【フラメンコ才能コンクール】
ギターの徳永兄弟が学んだことでも有名なクリスティーナ・ヘーレン財団のフラメンコ芸術学校。この財団が新人の発掘のために行なっているのがコンクルソス・タレント・フラメンコ、フラメンコ才能コンクール。
7月8日にはカンテ決勝がウエルバで、9日はギター決勝がトリアーナで行われ、カンテは1位ベレン・デ・ロス・レジェス、2位アルバロ・ビジャラン、3位アントニオ・ロペスで1、2位は財団の学校で学ぶ奨学金も獲得。9日にはギター伴奏部門で1位パブロ・エレディア、2位カルロス・グランデ、3位フアン・バリノテ、奨学金サルバドル・リンコン、ソロ部門奨学金カロリネ・エスピノサが受賞。
そして14日にはギターと同じく、財団本拠地のトリアーナで、舞踊部門の決勝が行われました。本来、決勝に進むのは5人の予定だったそうですが、去年は6人、今年はなんと7人が進出。それぞれが準決勝とは違う2曲を踊るということで4時間の長丁場に。それだけレベルの高い争いだったと言えるでしょう。
優勝はセビージャ出身の17歳、今年の参加者の中で最年少のハイロ・ベガ、

2位にはグラナダのマリア・マシアス、

3位に6月コルドバ県のコンクールで優勝したラウル・アルバ。

奨学金はハイロとマリア、そしてカディス県バルバーテ出身のルス・マリア・ガラン

の3人にプラスして、特別にクリスティーナ・ヘーレンからラウル・アルバにも贈られました。3位までには入らなかったルス・マリアですが、アンダルシア舞踊団で2週間の研修という特別賞も、舞踊団監督のパトリシア・ゲレーロから贈られました。
なお、決勝の模様は財団のYouTubeチャンネルにアップされています。
【訃報/アリシア・アクーニャ】
7月24日、歌い手アリシア・アクーニャが亡くなりました。14日に47歳の誕生日を迎えたばかりの若さでした。1978年セビージャ生まれ。セビージャのペーニャ、ピエ・デ・プロモで研鑽を積み、98年ビエナルのペーニャ公演でプロデビュー。ヘーレン財団で学び、ソロに、舞踊伴唱にと活躍。ここ数年は赤い髪がトレードマーク。ラウル・カンティサノとの共演で踊り手ラ・チョニやアンヘレス・ガバルドンらの作品を支えていたことも印象的。エレクトリックミュージックなどとも共演するエキセントリックなイメージもあるかと思いますが、フラメンコの古典をしっかり学んだ上でさまざまなことに挑戦していたユニークなアーティストの一人だったと思います。心からご冥福をお祈りします。

2009年アンヘレス・ガバルドンの稽古場で ©︎ Kyoko Shikaze

2019年マラガ県アルチドーナ 中央はラ・チョニ、ギターはラウル・カンティサノ

2019年アルチドーナのフェスティバルで ©︎ Kyoko Shikaze
【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
=====


