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スペインNews 6月号・2025

  • norique
  • 6月6日
  • 読了時間: 5分

(viernes, 6 de junio 2025)

 

文/志風恭子

Texto por Kyoko Shikaze

 

《INDEX》

 

【アンダルシア舞踊団新作『オリヘン』】

5月18日、セビージャのマエストランサ劇場でアンダルシア舞踊団が新作『オリヘン。ラ・セミージャ・デ・ロス・ティエンポス。ラプソディア・エン・7・アクトス』を初演しました。これは舞踊団監督を務めるパトリシア・ゲレーロが就任前からコラボレーションしていたヴィオラ・ダ・ガンバ奏者でファミ・アルカイ率いるアカデミア・デル・ピアチェレとの共同作品で、古楽の楽団が演奏するフラメンコの起源、オリヘンの一つである、いにしえのスペイン、黄金世紀の音楽、ハカラス、パサカジェス(パッサカリア)、サラバンダなどが、ダニ・デ・モロンの演奏するフラメンコギターと溶けあい、フラメンコがフラメンコとして成立する前という過去と未来が交差していくような作品でした。

A_2506志風_オリヘン

パトリシアらしい振り付けや細部が至る所に見られ、また古典舞踊、宮廷舞踊のイメージからきたのであろう、お辞儀など儀式的繰り返しとフラメンコ的自由さが、そこにジェンダーレスな振り付けも加わって、そうして作られていくフラメンコやスペイン音楽の未来を感じさせてくれるような作品でした。この夏は、6月25日にグラナダの音楽祭、7月8日はコルドバのギター祭、7月10日にはカタルーニャはペララダ音楽祭、18日にはアルマグロの古典演劇祭でも上演予定とか。

なお、現在、日本からでもarte.tv で無料で鑑賞することが可能です。ぜひ。

  

【ドキュメンタリー映画『アントニオ エル・バイラリン・デ・エスパーニャ』】

B_2506志風_グランアントニオ

セビージャの映画制作会社で、これまでにもミゲル・ポベーダやマティルデ・コラル、バンビーノなど、フラメンコ関係のドキュメンタリー映画を制作しているサラオ・フィルムスの最新作『アントニオ』。グラン・アントニオという名で1971年、1979年の2回、日本公演も行っている、スペイン舞踊の大巨匠。彼の存在なしに現在のスペイン舞踊はあり得ません。


子供の時からプロとして活躍し、中南米を経てハリウッドでも活躍、スペインに帰国後もパリやロンドンなど欧州はもちろん世界中で公演。スペイン国立バレエ団の監督も務めた不世出の天才舞踊家の生涯を、インタビューなどでの彼自身の言葉をベースに、カルメン・ロハスやホセ・アントニオなどの共演者やマルタ・カラスコやクリスティーナ・クルス、エミリオ・マルティなど研究家らの証言やハリウッド時代も含め数多くの映像とともに綴っていきます。踊ることだけでなく、音楽を聴き本を読み作品制作、振り付けに当たった彼のスタジオは舞踊家カルメン・ロチェの手を経て、現在、スペインのコンテンポラリーを代表するナチョ・ドゥアトがスタジオとして運営し、そこで国立バレエ団時代に教えを受けたアイーダ・ゴメスがクラスを行っているとか。アイーダと同時代に国立バレエに在籍したアントニオ・カナーレスが語るエピソードなど見どころがいっぱい。


丹念に制作されたドキュメンタリーはスペイン舞踊、フラメンコに携わる者必見の作品ですが、現在は上映予定、テレビやプラットフォームなどでの放映予定はないというのは残念な限り。一人でも多くの人に見てもらい、その功績が再評価されることを願ってやみません。

 

《トレイラー動画》

なお、タイトルのエル・バイラリン・デ・エスパーニャはスペインのダンサーという意味ですが、スペインを代表する舞踊家というニュアンスがあると思います。

  

【ロルカとグラナダ】

グラナダといえば世界遺産アルハンブラ。その中に野外劇場があるのをご存知ですか?


アラブ時代の宮殿を抜けた夏の別荘、ヘネラリフェの庭園の一角にあり、毎年6月に行われる国際音楽舞踊祭のために作られたもので、同フェスティバルにおける舞踊団、バレエ公演はここで行われるのが恒例ですが、フェスティバルの期間以外でも単発でコンサートなどが行われることもあります。また、2002年から始まった、アンダルシア州主催の『ロルカとグラナダ』公演では、毎夏、グラナダが産んだ世界的詩人、フェデリコ・ガルシア・ロルカにちなんだ作品が上演されています。


2009年まではアンダルシア舞踊団による公演だけでしたが、その後門戸が開かれ、これまでにクリスティーナ・オヨス舞踊団『イエルマ』やエバ・ジェルバブエナ舞踊団『フェデリコ・セグン・ロルカ』などが上演されています。昨年はアンダルシア舞踊団による『ピネーダ』が初演。今年はこれまでのように、全期間一つのカンパニーによる公演という形ではなく、前半がマヌエル・リニャンのカンパニーによる公演、後半は人気カンタオールたちを中心としたフラメンコの公演となっています。

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今年の記者会見 ©︎ Junta de Andalucía

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数年前のアンダルシア舞踊団公演開演前 ©︎ Junta de Andalucía

近くにはスキー場もあり、冬は雪が降ることもあるグラナダですが、夏はやっぱり暑い。日暮れどきにアルハンブラへ向かい、極上のフラメンコを味わうのがいちばんの過ごし方かもしれません。

 

◇ロルカとグラナダ

8/1(金)〜16(土)22時(初日のみ22時30分) ※日月休演『ジャマメ・ロルカ』

[出]〈b〉マヌエル・リニャン、ゲスト〈b〉ホセ・マルドナード、ラケル・エレディア“レポンパ”、特別協力 〈c〉クーロ・アルバイシン、ファレーテ(1,7, 14, 15)、イレネ・モラーレス、イレネ・ルエダ、スサナ・サンチェス、ロシオ・モントジャ、クリスティナ・ソレル、クリスティナ、ノエリア・カルボ、アナベル・モレノ、〈g〉ホセ・フェルミン、〈c〉アントニオ・カンポス、マリアン・フェルナンデス、フィタ・エレディア、〈perc〉チェジェネ

8/21(木)、22(金)、23(土)22時『アビア・ミル・フェデリコス』

[出]〈c〉ミゲル・ポベーダ

8/28(木)22時『カンタオーラス』

[出]〈c〉アウロラ・バルガス、ローレ・モントージャ、レラ・ソト

8/29(金)22時『ロマンセーロ』

[出]〈c〉エル・ペレ、〈b〉ファルキート、〈g〉ディエゴ・デル・モラオ

8/30(土)22時

[出]〈c〉ホセ・メルセ

[場]グラナダ アルハンブラ ヘネラリフェ野外劇場


《動画》

 

【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。

 

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