石井智子スペイン舞踊団公演『ちはやふる』
- 3月19日
- 読了時間: 4分
更新日:3月22日
第72回文化庁芸術祭大賞受賞作品
(miércoles, 18 de marzo 2026)
2026年 2月6日(金)・7日(土)
浅草公会堂(東京)
写真/川島浩之
Fotos por Hiroyuki Kawashima
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko

日本人ならほぼ誰もが知る「百人一首」をテーマに、スペイン舞踊家の石井智子が日本の伝統楽器とともにフラメンコやスペイン舞踊のリズムと音楽で創り上げた舞台作品『ちはやふる』が上演された。この作品は2017年の初演時に「第72回文化庁芸術祭大賞」を受賞し、今回はそこに新たに歌を追加し、演出や構成、振付なども練り直して作品を熟成させた9年ぶりの再演だ。
今作では特別ゲストに、重要無形文化財「日本舞踊」の総合指定保持者として古典の継承・普及に努めるとともに海外文学などを題材とした意欲的な創作活動も行う日本舞踊家の藤間蘭黄を迎えた。
作品は前半をスペイン舞踊の音楽、後半をフラメンコ音楽による演出とした2部構成。
二十五絃箏の前奏から始まる序章。舞台上の紗幕にはプロジェクションマッピングで題字を映し出され、続いて次々と現れる和歌の文字が紙吹雪となり、散り去ったかと思うと今度は一面に並べられたかるたに変化するなど、映像演出にも風雅な趣向が凝らされる。
舞台には小野小町を演じる石井、在原業平を演じる藤間、そして中央には百人一首を選定した藤原定家役として寶林寺住職の光澤雄弘が立ち、幽玄な世界観が会場を包み込む。
石井は十二単の着物に仕立てたバタデコーラを身にまとい、小野小町の「花の色は 移りにけりな」で始まる有名な歌の世界を箏の重奏の中で雅やかに表現する。
藤間は業平が詠んだ「ちはやふる 神代もきかず 竜田川」の世界を、尺八の音色の中で幽玄に舞う。赤い衣装を着た唐紅(からくれない)の女性群舞は、太鼓隊ととともに美しい紅葉と自然への感動を表現。太鼓の音と踊りの足音が地響きのように客席まで伝わってくる。
夏の訪れへの喜びを歌った「天の香具山」では客席から太鼓隊が登場し、臨場感ある演出で会場の空気も高揚する。6人の太鼓の揃った音が迫力を増し、黄色と若草色の群舞は生命の躍動感や喜びに満ちていた。

会いたいのに会えない男女の切なくも美しい場面を表現した石井と藤間のデュオ。アストゥリアスの音楽を奏でるチェロと尺八による音の共演も美しい。
前半最後の曲は、「天つ風 雲のかよひ路 ふきとぢよ」と天女への憧れを詠んだ和歌を表現。風を表現する水色の群舞と雲を表現する白色の群舞が様々なフォーメーションを展開し、天女を演じる石井を中心に幻想的なシーンを演出した。
休憩をはさんで後半のフラメンコ音楽による場面では、和歌に込められた心情や作者の人間味がより深く濃く表現される。通い婚の男を待つ女の嘆きを詠んだ歌では、石井がティエントの音楽に乗せて情感のこもった渾身のソロを舞う。

雨が通り過ぎた後の霧が立ち込めた山の神秘的な姿を詠んだ歌を表現するのは、山の妖精たちによるセラーナの群舞。川島が日本語の歌詞で歌い、日本的な情緒がより感じられる一曲だ。
若くして出家した西行法師の孤独を詠んだ歌を、藤間が日本舞踊で踊るファルーカ。その佇まいには静かな迫力があり、足を踏みしめるように鳴らし扇子とともに舞う姿はなまめかしくも凄みが感じられた。

最後の曲は、日本の象徴とも言える富士山を詠んだ「田子の浦に うち出でてみれば 白妙の」で始まる歌を表現するアレグリアスの群舞。白と青のコントラストを基調とした色彩の演出が美しく、また太鼓隊と石井とのリズム遊びなど祭りの要素も盛り込み、華やかに舞台を締めくくった。

古の時代の日本を生きた人々の心の機微を詠んだ百人一首の中から選んだ10篇の歌を、音楽と舞踊で表現した今回の作品。衣装や映像、照明とそれぞれが鮮やかな色彩美を見せ、音楽面でもフラメンコの音楽に和楽器が加わることで音色の豊かさがより一層深まった。日本の古典作品をスペイン舞踊という異国の伝統芸能で表現するという挑戦に再び取り組み、日本の美とスペインの美を丁寧に紡ぎ合わせて生まれたこの芸術的な作品は、多くの人々に感動を与え、その記憶に深く刻まれたことだろう。
【プログラム】
序章
1.Melancolía〈憂い〉
2.Pasión〈情熱〉
3.Brisa〈そよ風〉
4.Destino〈宿命〉
5.Firmamento〈天空〉
6.Lamento〈嘆き〉ティエント
7.Lirismo〈叙情〉セラーナ
8.Soledad〈孤独〉ファルーカ
9.Gloria〈荘厳〉アレグリアス
終章
【出演】
石井智子
特別ゲスト:藤間蘭黄(日本舞踊家)
石井智子スペイン舞踊団
松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、杉浦桃子、樋口万希子、岡田美恵子、梅澤美緒子、藤丸莉沙、森友美、早川幸、鏑木優子、栁沼芽以
外部出演:吉田芽生、新田晶野、新田恵野
藤原定家役:光澤雄弘(寶林寺)
ギター:鈴木淳弘、菅沼聖隆
カンテ:川島桂子、井上泉
バイオリン:三木重人
チェロ:海野幹雄
パーカッション:朱雀はるな
二十五絃箏:佐藤亜美、吉葉景子、櫻井珠鈴美、金子展寛
尺八:佐藤亜美、佐藤將山
和太鼓:批魅鼓 (喜多村純子、須永彩未、森奈那子、佐藤美心、藤井陽向、山碕浩晶)
書・墨象作家:桃果
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