リレー連載:私とフラメンコ -新人公演を通して- 8
- norique
- 20 分前
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第8回 吉田芽生
【バイレ・ソロ部門 奨励賞】
(sábado, 12 de julio 2025)
あなたにとってフラメンコとは何ですか――。
仕事として関わっている人、趣味として楽しんでいる人、自身の生きがいとして無くてはならない人など、その向き合い方は人それぞれ。
そうしたフラメンコへの思いを、昨年の日本フラメンコ協会主催「第33回フラメンコ・ルネサンス21『新人公演』」の入賞者の方々にエッセイとして綴っていただき、リレー連載という形式でご紹介します。
フラメンコとの出会い、新人公演を通して得たものや感じたこと、自身にとってのフラメンコへの思いなどを語っていただきました。
最終回となる第8回目は、バイレ・ソロ部門で奨励賞を受賞した吉田芽生さんです。
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko

[撮影]川島浩之
[写真提供]一般社団法人日本フラメンコ協会
私がフラメンコを始めたのは大学のクラブからでした。まさか今こんなにもフラメンコにどっぷりハマるとはその時の自分には全く想像できないことです。大学3年生の時にMaría Pagésの「Utopía」という作品を渋谷のBunkamuraで観た時は、フラメンコってなんてかっこいいんだ!と衝撃を受けました。それからというもの、インターネットでたくさんフラメンコの動画を見て、Marco Floresのファンになり、「いつかスペインでMarco先生のクラスを受ける!」と夢みたものです。
しかし私はもともとのんびりのおっとり、フラメンコの野生的な激しさは持ち合わせていませんでした。タブラオのお仕事をいただくようになってからも、観てくださった方からは「すごくきれいに踊るね」と。でもその後には(おっしゃらないけれど)「でも…」が付いている気がして、やっぱりフラメンコには向いてないのかな…とずっと思ってきました。そんな中、私の踊りの伸びしろを信じて根気強くご指導くださる井上圭子先生の存在は私のフラメンコ人生にとってなくてはならないものです。振りをそつなくこなすばかりでなかなか表現の域に入れない私にたくさんの大事な教えを与えてくださいました。
圭子先生のところにきて3年。まだまだバタデコーラは初心者ですが、人生の節目も重なり選んだアレグリアスは、練習もリハーサルも本番も、全てが自分にとっての大きな財産になるような時間でした。もちろんうまくいかないこともたくさんありました。なかなか自分の中に落とし込めずに圭子先生の前で泣いたこともあります。スペインから届いた衣装が短すぎて絶望的になった時もありました。しかしたくさんの方が手を差し伸べてくれて、支えて励ましてくれました。とにかくコツコツ地道にやること。これしかありません。細かいところを一つ一つ取り出してどうしたら良くなるのかひたすら追求する作業はなかなか辛いです。どうしたら素敵なシルエットになるか、そして私はミュージシャンにうねりや波を踊りで伝えるのがとても苦手なので、どうしたらこの動きが伝わるのか、スタジオにこもってひたすら考えやってみるその繰り返し。なかなか変われない自分にイライラしてモヤモヤして。それでも頑張れたのは、「今回こそ自分を超えてやる」という決意があったからだと思います。誰か背の高い人がただきれいに美しく舞台で踊っているのではない、観てくださっている方に小さな贈り物が届くような、心がちょっと温まるような、そんなアレグリアスを目指していました。それを奨励賞という形で評価して頂けたことは本当に光栄なことです。フラメンコの神様に「もうちょっと頑張ってみてもいいよ」と言ってもらえた気がします。

多くのフラメンコを愛する人がイメージするようなフラメンコらしさは私には出せないかもしれません。しかし「めいちゃんの踊り方って他にはないよね」と言って頂けることも増えてきました。今年は夢だったフラメンコの入門クラスも開講し、バタデコーラの基礎も一から見直し、やりたいこともあって、またドキドキワクワク、フラメンコに向き合う一年になりそうです。
フラメンコは誰にでも、どんなスタイルでも、愛と敬意があれば広い海のように開かれているように感じています。向き不向きは自分が勝手に作り出した壁なのかもしれない。圭子先生の素敵なシルエットに恋をし、Angelita Vargasのソレアに胸を打たれ、Marco Floresの舞台を見て号泣し、「ごちゃごちゃだ」と言われるかもしれないけれど、そんなことない。私が好きなのはフラメンコのスタイルではなく、フラメンコそのものなのだと改めて感じる日々です。
私を導いてくださる圭子先生、貴重な学びの機会を与えてくださる方々、親身にアドバイスをしてくださる方々、いつも応援してくれる家族や友人に心から感謝しています。
【プロフィール】
吉田芽生(Mei Yoshida)/横浜市生まれ。大学のクラブでフラメンコを始める。
田中美穂氏、みのもはるか氏、そして現在は井上圭子氏に師事。
3度の渡西ではMarco Floresはじめ多数のアーティストに師事。
第3回「全日本フラメンココンクール」ファイナリスト
第33回フラメンコ・ルネサンス21「新人公演」にて奨励賞受賞
2025年4月より大船「松竹ダンスプラザ」にて入門クラスを開講中。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、群舞、ギター、カンテの各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
〈参照URL〉
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