リレー連載:私とフラメンコ -新人公演を通して- 5
- norique
- 4 日前
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第5回 岡田麻里
【バイレ・ソロ部門 準奨励賞】
(sábado, 14 de junio 2025)
あなたにとってフラメンコとは何ですか――。
仕事として関わっている人、趣味として楽しんでいる人、自身の生きがいとして無くてはならない人など、その向き合い方は人それぞれ。
そうしたフラメンコへの思いを、昨年の日本フラメンコ協会主催「第33回フラメンコ・ルネサンス21『新人公演』」の入賞者の方々にエッセイとして綴っていただき、リレー連載という形式でご紹介します。
フラメンコとの出会い、新人公演を通して得たものや感じたこと、自身にとってのフラメンコへの思いなどを語っていただきました。
第5回目は、バイレ・ソロ部門で準奨励賞を受賞した岡田麻里さんです。
編集/金子功子
Edición por Noriko Kaneko

[撮影]川島浩之
[写真提供]一般社団法人日本フラメンコ協会
フラメンコに、出会ってしまった。
もともと踊りが好きだった。高校生の頃にヒップホップを始めて、ダンスにのめり込んでいく。もっと踊りたい。そんな時に。
最初は、根拠のない自信があった。すぐに踊れそう!
でも、音楽も、リズムも、動きも、まったく知らない世界。
あまりにできなさすぎて、逆にどんどんハマっていった。
舞台で輝く先生や先輩たちへの憧れが、やがて「新人公演」での受賞という目標に変わっていった。日本フラメンコ界屈指の舞台。その舞台に立つには、フラメンコの奥深さと正面から向き合わなければならなかった。
結婚、ベトナム駐在、出産育児。ライフステージの変化で思うように踊れない時期もあった。それでも、何度も新人公演へ挑戦した。
できなくて、悔しくて泣いて、それでもやり続けた。
新人公演に挑戦し続けた理由。
何より、フラメンコを学び続けたかったから。
ひとりで続けるのは難しい。だからこそ、先生やギタリスト、歌い手から学び、経験を積みたかった。目標がある方が、途中で諦めずに踏ん張れる。
そしてもうひとつは、誰かに認めてもらいたかった。
正解のない世界で、このやり方でいいのか。私はちゃんとフラメンコになっていっているのか…それを、何かの形で確かめたかった。
今回は1年かけて、SIROCOさんにソレアを学んだ。
マルカールの基礎から、ソレア、フラメンコ、人生についてまで…迷って立ち止まる私を、熱く真っ直ぐに導いてくれた。
ギターの徳永健太郎くんは、力強い絶対的なフラメンコで、表現しきれない私の踊りも、繊細に拾い、加速させてくれた。
カンテの川島桂子さん。深いフラメンコ愛で、コンプレックスだらけの私を優しく包んでくれた。
京都へのレッスン通い、新人公演応援ライブの企画、もちろん毎日の子育てと仕事との両立。無我夢中で駆け抜けた。今思えば大人の青春だった。
新人公演当日。
緊張で全く眠れないまま楽屋へ。
ご飯も喉を通らない。
それでも踊り切るためにと無理やり食べたおにぎりは砂の味がした。
ゲネプロ。
全く踊れなかった。
床を踏ん張れない。
足と床の間に薄い膜があるようで、
何をしてもふらふらしている。
心が、浮いていた。
SIROCOさんから最後の喝が入る。
最後の場当たりで、床の感覚・目の前に広がる景色を何度も焼き付けた。
本番直前。
やっと気づいた。
これは私の舞台なんだ。
今更ながら覚悟を決めた。
今までSIROCOさん・健太郎くん・桂子さんにずっとひっぱってもらっていた。
それじゃダメなんだ。実力とかキャリアとかじゃない。
私の意志で踊るんだ。
伝えなきゃ。
舞台に上がる直前、一緒にステージに上がるSIROCOさん・健太郎くん・桂子さん一人ひとりに『やるから!』と声をかけた。
板付き。
暗い舞台のセンターに立つ。
ギターの音がなるのを待つ間、怖さなのか、怒りなのか。
『もう二度と出ない!』
心の中で強く叫んだ。
本番中、覚えているようで覚えていない。
確実に覚えているのはみんなのハレオ。
終わった後、みんな笑顔で迎えてくれた。
みんなと一緒にひとつのソレアをつくれた気がした。
今の自分を出し切った。後悔はない。これまでも手を抜いていたわけじゃない。それでも、今回ほど全部を出し切ったことはない。
「新人公演」という舞台で自分の全てを燃やし尽くせた。
これは私の財産となりました。
そして今回、やっと準奨励賞をいただきました。
正直、嬉しいというより、ようやく次のステージのスタートラインにたてた…そんな気持ち。
賞をいただいても、なお遠くに感じる。
フラメンコは、まだ、ずっと先にいる。
少しでも、近づきたい。
賞は一瞬。
でも、積み上げてきた時間は、これからの財産。
私がここまで来られたのは、
いつも誰かがチャンスをくれ、支えてくれたから。
今まで習った先生方はもちろん、一緒にいろんな舞台で共に戦ってきた仲間たち、家族、応援してくれた人たちのおかげ。
あらためて、胸の奥に刻まれた。
フラメンコは、ひとりでは踊れない。
ギターがいて、カンテがいて、仲間がいて、見てくれる人がいて。
そうやって舞台は生まれる。
今度は、私がそのバトンを渡したい。
恩返しがしたい。
私が、今までいろんな人からもらったように情熱のバトンを、繋げていきたい。
賞をいただいても、まだまだ追いかけている。
私のフラメンコは、きっと一生、完成しない。
でも、私はその不完全が好きなんだと思う。
不器用で、迷って、揺れながら、
それでも向き合う——
そんな自分を、ようやく少しずつ、愛せるようになってきたから。
これからも、今の私が持っている全部を込めて踊ります。
【プロフィール】
岡田麻里(Mari Okada)/福岡県福岡市出身。2003年フラメンコを習い始める。2006年よりアルマデフラメンコ福岡校に講師として所属。短期スペイン留学を繰り返し、多数のアーティストに師事する。結婚を機に富山へ。2013年から約4年ベトナム駐在。帰国後、2019年4月に南富山駅前に自身のフラメンコスタジオを開設。積極的に教授活動・ライブ活動・地域のイベント企画を行なっている。
【新人公演とは】
一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。
プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。
バイレソロ、群舞、ギター、カンテの各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。
(*一部、ANIF公式サイトより引用)
〈参照URL〉
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