スペインNews 5月号・2026
- 5月6日
- 読了時間: 9分
(miércoles, 6 de mayo 2026)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze

フェリア会場から提灯越しに見た正門、左手にカセータ
4月のセビージャはフェリア! 薬局などの店先にもフェリアらしく、衣装や提灯が飾られ街全体がお祭りモードとなります。この時期、銀行やお役所も営業時間を短縮したりしているのでご注意。お昼頃から街のあちこちでフェリア衣装姿の女性たち、子供たちの姿が見られます。男性はスーツかジャケット着用、女性はフェリア衣装が基本。男性でフラメンコ風につば広の帽子をかぶって丈の短いトラヘ・コルトを着ているのは馬車か馬に乗る人か子供だけ。女性でフェリア衣装じゃない人も結婚式かその二次会に行くようなちょっとおしゃれな格好で行くことが多いですね。カセータと呼ばれる仮設テントは会員制のところがほとんどなのですが、初めてのフェリアなら行き交う人を見ているだけでも楽しいはず。ただ昼も夜もとにかく人が多く、また会場内は広く、かなり歩く羽目になるので歩きやすい靴で行くのがいいかと思います。
《INDEX》
【サンドラ・カラスコのセビジャーナス】
ウエルバ出身でソロに、舞踊伴唱にと活躍中の歌い手、サンドラ・カラスコの新譜『ヌンカ・メ・オルビデス(決して私を忘れないで)』発表記者会見が4月8日、セビージャのインスティトゥート・アンダルース・デ・フラメンコ(アンダルシア州フラメンコ機関)において行われました。幼い時から常に故郷ウエルバのファンダンゴと共にセビジャーナスを歌ってきたという彼女。ぺぺ・マルチェーナへのオマージュである前作でも伴奏をしているギタリストのダビ・デ・アラアルとともに自らプロデュース、一部の作詞も手がけたもので、しっとりした“聴く”ためのセビジャーナス。フェリアのカセータにて大音量で流されるリズミカルな“踊る”ためのセビジャーナスとは一線を画します。元々、セビジャーナスはフラメンコのレパートリーにも含まれるけれど、専門の歌手やグループがいて毎年新曲が出るという点で他のフラメンコ曲とは違う、ポピュラーソング的要素があります。反面、曲や演者によってはムイ・フラメンコになるというのは、カルロス・サウラ監督の映画『セビジャーナス』でのカマロンやパコ・デ・ルシアを例に出すまでもないかもしれません。サンドラの歌うセビジャーナスもムイ・フラメンコ。家でゆっくり聞いて味わいたいタイプ。ダビのギターもマノロ・サンルーカルやパコを思い出させる見事さです。ぜひゆっくり聴いてみてください。
【ロシオ・モリーナ『カレンタミエント』】
4月10日から3日間、セビージャのセントラル劇場で行われたロシオ・モリーナの公演は、入場券発売1時間で全席売り切れという人気ぶり。11月にマドリードで初演された『カレンタミエント』はマドリード、バルセロナと行く先々で全席売り切れというのもさもありなん。とにかくすごい作品でした。
カレンタミエントとはウォーミングアップ、準備体操のこと。開演前からラス・グレカスなど女性歌手が歌うルンバの録音が大音量で流れ、舞台の上では柔軟体操などウォーミングアップに余念がないロシオ。開演後は、タブラ・デ・ピエと呼ばれるシンプルなサパテアードで足慣らしをしつつマイクを手に話し始めます。「始まりがないから終わりもない」
スペインでも高く評価されている演出家パブロ・メシエと組んで作った作品でセリフは彼が書いたものなのですが、それも彼とロシオの対話の中から出てきたものがベースになっており、それに当日の客席の様子などを見てのアドリブが加わるから全てが自然。芝居といえば芝居なのかもしれないけれど、芝居がかったことは何もありません。バッハの音楽で上体の動きをやったり、スペインのバルのテラスによくあるような金属製の椅子と踊ったり、その椅子がたくさん重なって置かれた透明の箱の中で4人の女性アーティストたちが繰り広げるフィエスタがあったり。その箱の前面がミラーになってそこで行われるオルーコとのクラス、オルーコと向かい合って椅子に座っての激しく交わされる互いを誘惑しようとする踊りなどいくつかの場面が展開していくのですが、その全てがリアルで、また「あ、これってひょっとすると…」とそのパフォーマンスの裏にあるものを考えさせられます。観ているだけでこちらの脳も活性化させられるような作品なのです。そしてめちゃくちゃフラメンコ、と私は思いました。歌とギターで曲を踊ることだけがフラメンコじゃなくてフラメンコは生き方だ、とよく言われますが、自由への希求、強力なエネルギー、即興性など、これはロシオがフラメンコであるからゆえの作品に違いありません。フラメンコ好きなら必見の作品。ロシオはみんなの一歩も二歩も前を歩くフラメンカなのだと思います。
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最初、彼女が言うようにシンプルな足の練習が続くのだけれど、そのコンスタントさ、乱れなさ、そして足しながら汗かきつつも息も乱れないのがすごい。彼女は天才に間違いないけれど天才だって舞台に出る前にこれだけの準備が必須なのだな、と改めて感じさせられました。努力を努力と思わないのが天才?
【パルケ・デ・アニョランサ】
4月14日はセビージャにあるマエストランサ劇場の室内楽ホールでギタリスト、パブロ・エレディアの公演。カディス県プエルト・レアル出身でヘレスとコルドバ音楽院で学んだそうで、歌伴奏、舞踊伴奏もこなし、ソロでも数曲。一応なんでもできるということなのだろうけど、まだまだ経験不足な感じ。マリア・ゲレーロの踊るアレグリアスでもマントン掴み損なったのはアクシデントにしてもコンパスも不安定。で、歌のホセ・アニージョが一人、プロとしての矜持、品格、実力を発揮していたのでありました。いやいやフラメンコは難しい。

【トーレス・マカレーナのラファエル・カンパージョ】
フェリアの前の週は15日水曜日のインマクラーダ・アランダ、17日のラファエル・カンパージョと2回ほどペーニャへ。コルドバ出身のインマクラーダは主にタブラオで活躍している踊り手。上手なのは確かだし、プロとして活躍しているだけのことはあると思うのだけど、タラントにスパンコール使いの衣装、ソレア・ポル・ブレリアにフェリア風衣装というセンスはよくわからない。華やかなのが好きなのかな?でも抑制された曲調のタラントには光り物は合わない。ソレア・ポル・ブレリアももっとシンプルな衣装の方が、とかつい思ってしまう衣装警察な私。いや、踊りそのものが心躍るようなものならそこに文句も言わないんですが、と言い訳。

セビージャの、もはやベテランと言ってもいい踊り手ラファエル・カンパージョは、セビージャらしい、歌を聴いて、歌を縁取るように踊っていく踊りで観客を魅了した。観ていて楽しいのは、全ての動きにセンティードがあって、形が美しい。細かい仕草や表情からも、フラメンコを踊ることを心の底から愛しているのが伝わってくるからだと思います。ゆっくりと歌をマルカールするシギリージャ。

タラントの抑制された中に見える熱。色気。そしてタンゴで見せるユーモア。
最後のソレアも絶品で、いやもうほんと、満喫させていただきしました。
【アンダルシア舞踊団『フラメンコ・パトリモニオ』】
4月17、18日にセビージャのセントラル劇場で上演された『フラメンコ・パトリモニオ』は昨年、グラナダのビエナルで初演された作品でパトリシア・ゲレーロ監督として四作目。今回は彼女だけでなく、若い舞踊団員自身による振付も多い、というのが特徴。若手に機会を与えるのはいいことだと思うし、どの振り付けもきちんと仕上がっていたのは素晴らしい。でも印象に残ったのは男性3人によるベルディアーレスと後半のグラナダ伝統のアルボレア、カチューチャ、モスカなどを踊った場面。また、マリオ・マジャの振付に想を得てのオマージュ場面ではマリオをそのまま踊るのではなくマリオのフリを取り入れてイメージで再構築したようなパトリシアの振付が新鮮で良かったし、最後のエンリケ・モレンテへのオマージュではエンリケの偉大さを再確認。偉大な革新者たちを間接的にでも触れて、若手たちも育っていくのでしょう。

グラナダでの初演の様子
【ロンドン フラメンコ・フェスティバル】
4月30日、ロンドンで行われるフラメンコ・フェスティバルのプログラムが発表されました。アンダルシア舞踊団の稽古場で行われた記者会見では、舞踊団だけでなく、ニューヨークのフェスティバルに引き続き、サビーカスへのオマージュ公演をするヘラルド・ヌニェスとアルバロ・マルティネテをはじめ、ガラ公演に出演するエル・ファルー、ソロ公演を行う歌い手エル・ペレーテらも姿を見せ、アンダルシア舞踊団の演目の一部の稽古風景を見せるなどしました。プログラムは以下の通りです。

◇ロンドン フラメンコ・フェスティバル
6/15(月)19時『パライソ・ペルディード』
[出]〈b〉パトリシア・ゲレーロ、〈ヴィオラダガンバ〉ファミ・アルカイ
[場]ロンドン ナショナルギャラリー
6/16(火)、17(水)19時30分『ウンイドス』
[出]〈b〉ヘスス・カルモナ舞踊団
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/18(木)19時30分『クレアビーバ』
[出]〈b〉ラファエラ・カラスコ
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/19(金)19時30分、20(土)15時と19時30分『ガラ・フラメンカ』
[出]〈b〉エバ・ジェルバブエナ、マヌエル・リニャン、ファルー、フアン・トマス・デ・ラ・モリア
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/20(土)
[出]〈c〉エステル・メリノ
[場]ロンドン リリアン・ベイリス・スタジオ
6/20(土)
[出]〈c〉エル・ペレーテ
[場]ロンドン リリアン・ベイリス・スタジオ
6/24(水)『カレンタミエント』
[出]〈b〉ロシオ・モリーナ
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/25(木)19時『トリブート・ア・サビーカス』
[出]〈g〉ヘラルド・ヌニェス、アルバロ・マルティネテ、アントニオ・レイ、〈b〉オルガ・ペリセ
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/26(金)19時30分、27(土)15時と19時30分『ティエラ・ベンディタ』
[出]〈b〉アンダルシア舞踊団
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/27(土)
[出]カリファト3/4
[場]ロンドン ジャズカフェ
6/28(日)19時30分『マグニフィカ』
[出]〈b〉マリア・モレーノ
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
6/29(月)19時30分『ラジュエラ』
[出]〈b〉マルコ・フローレス
[場]ロンドン サッドラーウエルズ劇場
◇マンチェスター
6/13(土)20時、14(日)15時『バイレ・ソノーロ』
[出]〈b〉オルガ・ペリセ
6/30(火)19時30分『ティエラ・ベンディタ』
[出]〈b〉アンダルシア舞踊団
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【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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