(jueves, 4 de mayo 2023)
2022年10月22日(土)~23日(日)
東京文化会館大ホール
[主催] MIYAZAWA&Co.、サンライズプロモーション東京、CIC
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
写真/大森有起
Foto por Yuki Omori
アントニオ・ガデス舞踊団の代表的な作品のひとつであり、日本でも高い人気を誇る『カルメン』が昨年10月に上演された。6年ぶりとなる今回の来日公演は2日間全3公演で行われ、かつて一世を風靡したガデス人気は今も健在で、場内は大勢の観客で賑わっていた。
『カルメン』の舞台初演は1983年。この舞台版は、ガデスが映画監督カルロス・サウラと共同で映画版と並行して制作したもので、映画の公開と同じ時期に初演を迎えた。以降、世界各国でのべ2,000回以上も上演され、スペイン舞踊の最高峰であり、ガデスの最高傑作と称される作品となった。
音楽面では、すでに世界的に人気の高いビゼー作曲による同名のオペラで有名なハバネラや闘牛士の歌などの楽曲に加えて、グアヒーラやブレリア、タンゴ、マルティネーテといったフラメンコの曲種を織り交ぜて構成される。物語としては、「舞台『カルメン』を上演する劇団」を演じるという劇中劇の形式で脚本が書かれ、舞踊団員らによるレッスン風景から舞台が始まり、オペラ作品のストーリー展開とともに原作であるプロスペル・メリメの小説の要素を主軸とし、登場人物らが各場面を踊り演じ、物語は展開していく。
その中でやはり際立つのは、主役カルメンの存在感だ。印象的な赤いドレス姿で登場し、自信たっぷりに踊り皆の注目を集める。周りの男たちに色目を向け、男が寄ってきてはあしらう様は噂通りの悪女っぷり。タバコ工場での女工との対立シーンは挑発的で緊迫感があり、また自分の虜にしたドン・ホセと愛を交わす場面では、ハバネラの音楽の中ホセに近づいては離れ、妖しく美しく舞いながらまた近づいてと、自由奔放な愛に生きる姿を表現した。
それとは対照的に、女工を殺め捕らえたカルメンを逃がした罪で牢獄へ入れられてしまうドン・ホセ。囚われの身を象徴するように3枚の鏡に囲まれ、哀愁に満ちたギターの旋律を踊る姿は端正でありながら痛ましさが滲む。また、男たちとの賭博の場面からカルメンの夫との決闘に至るシーン、カルメンを争い闘牛士と対峙する場面などでは、踊りやステップのキレ味はもちろん、演出の展開もスピード感があり見応えがあった。
群舞についても、舞踊団のレッスン風景やフィエスタの場面、また闘牛場で花形闘牛士の登場に沸くシーンなど、音楽面や構成、フォーメーションなど巧みに計算された演出。フラメンコ通はもちろん、初めて観る人や様々なジャンルの舞台芸術が好きな人にも楽しめる内容になっていた。
休憩無しの約1時間半強の舞台は、夢中で見入るうちにあっという間であった。高い舞踊技術と磨き抜かれた表現力が凝縮された、完成度の高い舞台芸術を生で鑑賞できるというのは、とても幸せなことだ。新型ウイルスの脅威もようやく収束に向かいつつあり、海外アーティストらによる来日公演も少しずつ増えてきている。コロナ禍以前と比べると、日本への招聘公演は戦争や為替の影響も加わりより大変になったと聞くが、素晴らしい芸術は観る者に大きな感動と活力を与えてくれる。
日本のみならず世界中のファンから愛され続ける、ガデスの『カルメン』。次回は何年後になるか分からないが、再びこの作品が日本の観客を魅了する機会を楽しみにしている。
【キャスト&スタッフ】
カルメン エスメラルダ・マンサーナス
ドン・ホセ アルバロ・マドリード
闘牛士 ハイロ・ロドリゲス/ミゲル・ララ(Wキャスト)
夫 ミゲル・アンヘル・ロハス
歌 アセル・ヒメネス/エンリケ・ベルムデス“ピクラベ”/イサベル・ソト/イスラエル・パス
ギター バシリオ・ガルシア/ディエゴ・フランコ
芸術監督 ステラ・アラウソ
台本・振付・演出 アントニオ・ガデス/カルロス・サウラ
【アントニオ・ガデス舞踊団】
2004年にアントニオ・ガデスが自身の振付作品の維持管理や普及を目的として設立したアントニオ・ガデス財団が、その数か月後ガデスが亡くなった後に結成したのが、現在の新生アントニオ・ガデス舞踊団である。長年ガデスの相手役を務めていたステラ・アラウソを芸術監督に迎え、世界各地でガデス作品を上演するだけでなく、スペイン舞踊普及のための活動としての教育プログラムやガラ公演への参加など、意欲的な活動を続けている。
(※公演プログラムより一部引用)
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