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新・フラメンコのあした vol.20

(lunes, 7 de octubre 2024)

 

20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、この春マドリードで上演されたメルセデス・ルイスの劇場公演についてのリポートです。

 

メルセデス・ルイス

『ロマンセロ・デル・バイレ・フラメンコ』

カナル劇場、赤の間、マドリード、スペイン

2024年4月27日

 

Mercedes Ruiz,

"Romancero del baile flamenco”

Teatros del Canal - sala roja, Madrid.

27 de abril 2024

 

文:東 敬子

画像:宣伝素材 

 

Texto: Keiko Higashi

Fotos: Promoción


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 現代のフラメンコには色んなスタイルがあります。伝統的なものもあれば、他ジャンルを取り入れた斬新なものもあります。もちろん、どれも興味深いし、色んな発見で楽しませてくれます。しかしあまりにバラエティに富んでいると、練習生にとっては時に、厄介な場合もありますね。

 

 練習生が習得しようと日々頑張っているのは大抵、基本形、いわゆる伝統的なスタイルでしょう。しかし、スペイン人アーティストの来日公演を観に行っても、アーティスティックすぎて自分が練習しているものとはかけ離れている気がする人も多いはず。曲種にしても、一つ一つ別れていれば分かりやすいけれど、ずっと何十分も途切れがなく、色々な曲種が繋がっていると、もう分からなくなってしまう。タブラオはまだしも、劇場で上演される作品にはそれが顕著に現れますね。そういう理由で、超モダンなイスラエル・ガルバンやロシオ・モリーナを敬遠する人は沢山います。

 

 でもそれでプロのアーティストの公演を観ないというのは残念すぎる。良い作品を見ることは、練習生にとっては特に、必要なことですよね。ですから、目標やお手本にできる自分好みのアーティストを探すのはとても大事なことだと思います。そこでもし、あなたがバイレの練習生で、伝統的なバイレを目指しているのなら、私のおすすめはメルセデス・ルイスです。

 

 1980年、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラに生まれ育った彼女は、マヌエル・モラオのカンパニーで7歳よりステージに立ち、同郷のアントニオ・エル・ピパほか、エバ・ジェルバブエナやアドリアン・ガリアらのカンパニーで研修を積んだのち、2002年、22歳の時にソリストとして自身のカンパニーを旗揚げ。若手のホープとして頭角を表します。今では、高いテクニックと共に、伝統的なスタイルを継承して数々の賞に輝いた、現代バイレの代表の一人と称されています。

 

 そして今回の作品『ロマンセロ・デル・バイレ・フラメンコ』は、バイレ練習生必見の一作と言えるでしょう。セビジャーナスに始まり、ファンダンゴ、セギリージャ、カンティーニャスなど、まさに誰しもがスタジオで習っているであろう曲種の数々が勢揃い。


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 彼女のバイレはとにかく上手い。そして上品なんですよね。マントンやバタ・デ・コーラなどの扱いも美しいし、振付も、伝統的でありながらも自分の個性を打ち出したもの。他より抜きん出た光る「何か」がある人です。正統派のフラメンコ舞踊はこれだという、安心感と満足感がありますね。

 

 練習生だったら、観ていて、曲種の動きの流れや雰囲気がよく理解でき、かつ、彼女の振付の難しさもよく伝わるでしょう。つまりは、自分がやっていることとリンクできる踊りなんですね。今の自分には難しいけど、いつかこんな風に踊れたら良いなと憧れを抱かせる、ワンランク上のお手本にしたい踊りなのです。衣装もエレガントで、これも真似したいポイントの一つです。

 

 メルセデス・ルイスも40代に突入しましたが、以前にもまして、今回は心身共に非常に充実している印象でした。バイラオール、ホセ・マルドナドとのパレハもしっくりきました。彼も正統派で、キレのある清々しい踊りで観客を沸かせました。ギターにはサンティアゴ・ララ、カンテにダビス・ラゴス、そしてパルマにロス・メジスと、ヘレスの音楽陣も冴えていました。やっぱりヘレスの味は沁みますね。

 

 ヘレスと言えば皆さんは、地元の人たちが土着のノリのブレリアを陽気に踊る姿を想像されるでしょう。日本では、そういう素人の人たちのフィエスタのノリがヘレスの真骨頂というような風潮もありますね。もちろん、それは素晴らしい文化ですが、カンテはもとより、バイレやギターでも、プロとして現代フラメンコを代表するヘレス出身アーティストは沢山います。彼らのことも、もっと知ってもらえれば良いなと思います。

 

 

【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com を主宰。

 

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