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スペインNews 11月号・2024

(miércoles, 6 de noviembre 2024)

 

文・写真/志風恭子

Texto y fotos por Kyoko Shikaze

 

 10月末のスペイン、バレンシアでの水害のニュースは日本でも大きく報道されたようですね。未曾有の災害に見舞われたバレンシア近郊の町々、そして被害に遭われた方々に心からお見舞い申し上げます。

バレンシアはスペイン東部、バルセロナから南へ下ったところ、アンダルシアからだと東の端、アルメリアから北へ上がり、ムルシア州の先にあります。フラメンコとはあまり縁がないように思えますが、舞踊家のハビエル・ラトーレはこの町の出身ですし、ここ数年の観光ブームもあってか、タブラオもいくつかあるようです。なお、この大雨の影響はバレンシアだけではなく、アンダルシアにも被害をもたらしました。フラメンコのメッカ、ヘレスでも大雨でポルベラ通りが川のようになって子供が流されているところや、ラルガ通りに入るところにある噴水の縁のところまで水が溢れ、ゴミ箱が流されていく様子のビデオがニュースなどで見られました。ヘレスのフェスティバルでお馴染みのビジャマルタ劇場近辺もかなり水が上がってきたようです。ヘレス郊外も大変だったようですし、マラガやウエルバでも被害があり、マラガ近郊では亡くなった方もありました。これ以上被害が大きくなりませんように。

 

《INDEX》

 

【ファティギージョ賞】

 10月5日、イスラエル・ガルバン『カルメン』で日時閉幕したセビージャのビエナル。前回から批評家やジャーナリストらが選出するヒラルディージョ賞が取りやめになったことを受け、ポッドキャスト番組ファティギータス(https://www.youtube.com/@Fatiguitas/)を運営するジャーナリストのサラ・アルギホとアレ・メディーナが、毎日のように顔をあわせる仲間に声をかけ、ジャーナリストや専門家で賞を贈ろうということになり、10月9日、有志がアラメーダに集い、来ることができない人はメール投票の上、話し合いを行い、受賞者を決定。20日その授賞式がペーニャ、トーレ・マカレーナで行われました。公的な賞でも、賞金が出る賞でもないのにも関わらず、当日仕事のあった人をのぞき、ほぼ全ての受賞者が出席しました。

 なお、受賞者は以下の通り。

 

カンテ/マリア・テレモート

バイレ/『ムエルタ・デ・アモール』群舞

ギターソロ/ペドロ・シエラ

カンテ伴唱/セグンド・ファルコン

ギター伴奏/ヘスス・ゲレロ

楽器/ハビエル・ラバダン

最優秀作品/『ムエルタ・デ・アモール』

コンパス/エル・オルーコ

新人賞/ダビ・デ・アラアル

舞台賞/『カプリチョス』

マエストリア/アウロラ・バルガス

魔法の瞬間/『ロス・エヘス・デ・ミ・カレータ』イネス・バカンとペドロ・リカルド・ミーニョ

味わい賞/エミリオ・カラカフェ

出会い賞/ラ・カイータ、ラ・トレメンディータ

カバーレス賞/マヌエル・デ・トマサ

名誉賞/マヌエラ・カラスコ


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©︎ Fatiguitas

 

 実は私も投票したのですが、基本多数決ということもあり、自分が推している人が必ずしも受賞とはなりませんでした。それでもほぼ納得のメンバーが受賞したと思います。個人的には新人賞のダビ・デ・アラアルや味わい賞のカラカフェ、出会い賞のトレメンディータとカイータなどがうれしかったです。

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Archivo Fotográfico de La Bienal de Flamenco / ©Laura León

 

 

【第15回セビージャ・ギター祭】

 10月22日から11月17日まで、セビージャで恒例、ギター祭が開催。今年は、メイン会場であるエスパシオ・トゥリーナでの公演が、ほぼ全部、前半クラシック、後半フラメンコとなっていたのが面白い試みでした。


 初日10月31日は、このフェスティバルの主催者であるフランシスコ・ベルニエルの、アンダルシア・ギター・カルテットが前半、後半は中国人ギタリスト、カン・ワン。翌日11月1日は、前半がバロックギターのアニバル・ソリアーノ、後半がラモン・アマドールといった具合です。

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 普段はほとんどきく機会がない、他ジャンルのギターをお互いに知る機会になれば、という試みのようですが、これが良かったです。初日はファリャに始まり、現代音楽、舞踊音楽という展開でしたが、美しい音はもちろん、どうやって合わせているのだろうという間合いも不思議な現代音楽や、クアルテットがそれぞれに音を紡いでいく様子に魅了されましたし、翌日のバロックギターはフラメンコギターの祖とも言われるそうで、今のギターよりも小ぶりです。この日は17世紀の作曲家、ガスパール・サンスの曲を演奏。17世紀になってギターが民衆の間にも普及し始め、ポピュラーソングなどからの曲も多いそうで、ラスゲアードをしたりなど、リズム的にも曲調的にも、フラメンコを思わせるような曲があり、思いがけなく楽しく聴くことができました。

 もちろん、フラメンコも満喫。カン・ワンははじめて生で聞きましたが、舞踊や歌伴奏の経験があまりないのかな、という印象。ソレア、グラナイーナ、タンゴ、タラント、などを演奏。ソロだからコンパスの伸び縮みがより強調されているのかもですが、キープすべきものもあるのでは、という気がしました。が、曲と曲の間に長めのおしゃべりをし、各曲を友人らに捧げるなどしていることもあるのか、聴衆の心をしっかり掴んでいたようです。

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 2日目のラモン・アマドールはレバンテからのタンゴといったように異なる曲種をつなげて演奏していくスタイル。舞踊伴奏のベテランなので、その影響もあるのかな。ビセンテ・アミーゴぽいところがいっぱいあったので好きなのだろうな、と。意外でしたが、ビセンテぽいフレーズでも自分があるのでただの真似にならないところもさすが。ちょっと歌ったのがまたうまくて感心。ただ、カホンとの共演はいただけませんでした。このフェスティバルはマイクなしなので、ギターの音はカホンにどうしても負けてしまうのです。パーカッションが必要なら、パルマか机を叩く、くらいじゃないと押されてしまいますね。

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©︎ Kyoko Shikaze

 

 3日目、11月2日はアルフレド・ラゴスのソロと、ダビ・ラゴスとの共演で前半後半というものでしたが、これが良かった! アルフレドは今円熟期ですね、本当に素晴らしい。音を抜いていくような感じとか、新しい感覚もいいし、特にシギリージャは絶品。途中、サリーダの声のような音まで出てくる。一体どうなっているん?本当に素晴らしい。ダビの伴奏でもマリアーナの時、後半、タンゴになった最後に再びマリアーナのメロディ持ってきたりするのも小憎らしい。そして音が違う。マイクがないからこそ直接伝わってくる音の厚み、一個一個の音の確実な響き。弟ダビも声量がある歌い手なのだけど、マイクがなくてもバランスがいい。ポロ、マリアナとあまり歌われない曲の後にヘレスらしいブレリア・パラ・エスクチャル、カンティーニャ、ブレリアいう曲目のチョイスもいい。

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©︎ Kyoko Shikaze


 なお、ダビは11月小島章司公演で、12月は中田佳代子公演でアルフレドと来日します。日本でこの二人の凄さを感じることができるチャンスですよ。

 

 

【追悼/ホアキナ・アマジャ】

 10月22日、ホアキナ・アマジャがセビージャ郊外の病院で亡くなりました。

 レメディオス・アマジャの末妹で、すぐ上の姉たち、マルタ、カルメンと、ラス・ペリグロというコーラスグループとして、ディエゴ・カラスコのライブやCDなどで80年代後半から活躍。もともとはマヌエル・モリーナの命名ですが、ディエゴと一緒に、カルロス・サウラ監督の映画『フラメンコ』の、マノロ・サンルーカルのアレグリアスの場面にも出演しています(マノロのオリジナルが収録された『タウロマヒア』ではマドリードの歌い手たちで録音しているので映画でのみの出演)。

 また、2000 年には『サルサ・フラメンカ』というCDも録音していますし、ミゲル・ポベーダらの公演にも参加したこともあるそうです。

 

サルサ・フラメンカのプロモーションビデオ

 

 まだ50代になったばかりだったのではないでしょうか。私は渡西まもなく知り合って、90年代前半頃までは行きつけのバルなどでよく顔を合わせていました。まだ50そこそこのはず。あまりにも早い。ご冥福をお祈りします。

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生まれたばかりのアネ・カラスコをだいた姉レメディオスと 1990年©︎ Kyoko Shikaze


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ベルナルダ・デ・ウトレーラと。ウトレーラのカラコラで 1989年©︎ Kyoko Shikaze

 

 

【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。

 

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