(miércoles, 3 de julio 2024)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze
6月になると南スペインは夏!という感じですが、スペインでは日本以上に夏至や冬至にこだわっていて、もう夏だよね、という気温でも「まだ夏じゃない」って言うの、なぜなんでしょう。真夏の南スペインは日中はとにかく暑いので午前中か、午後遅くにしか動けないという感じなのですが、今年の6月前半は割と過ごしやすい日が多かったような気がします。スペインでは5月10日まで上着をしまうな、という諺があるのですが、その通りでした。と思ったら、北部の方が南部より気温が高い日があったり(そんな日に限って私は北部に出張だった)、日本と違って夏は基本、雨が降らないセビージャでも雨が降ったりもして、なんか変な感じです。とは言っても後半は温度もぐんぐん上がってきて最高気温は40度近くになることも。今年の夏も暑いのかな。
【アンダルシア・フラメンコ】
5月に引き続き、セビージャのセントラル劇場ではアンダルシア・フラメンコと題した公演シリーズが開催されました。
6月4日はオルガ・ペリセ『ラ・マテリア』。これは彼女のギター三部作の、『ラ・レオナ』に続く2作目ということで、マテリア、材料、すなわちギターの材料である木をテーマにした作品。伴奏はギターとパーカッション、エレキベースで、歌はいません。ゲストでカナリア出身のコンテンポラリーダンサー、ダニエル・アブレウが出演。彼がもう、とにかく素晴らしかったのです。コンテンポラリーダンサーがフラメンコ作品に出演することは何も珍しいことではなく、コンテンポラリーの振付家がフラメンコやスペイン舞踊の作品を手掛けることも少なくはありません。でも、ここまですごいダンサーがこんな風に、主役とがっぷり組み合って作ったものはあったかなあ。フラメンコ曲もコンテンポラリー的に?音楽をそのまま動きにするように踊ったのも良かったし、オルガと組んで踊るところも、バランスも動きも全く不自然さがなく、美しい。オルガは多分、コンテンポラリーもちゃんと学んでいるか、造詣が深いのだと思う。
そういえば、ロシオ・モリーナもギター三部作ってやっていましたよね。誰かがギター三部作っていう課題を出したのかなあ、とか思いたくなります。歌を踊るフラメンコ舞踊から、歌を取り去ったらどうなるか、という実験? 偶然の一致? 昔、国立のゲストとして二人で踊っていたこともあるし、二人とも小柄だし、オルガとロシオ、重なる部分が色々あるような? それぞれ面白いアプローチで、フラメンコ舞踊の最先端だと思います。
6日にはハエン県出身の若手カンタオーラ、アンヘレス・トレダーノのリサイタル。1995年ハエン県ビジャヌエバ・デ・ラ・レイナ生まれ。私は彼女がビデオでのコンクールに参加していたのを観て知ったのだけど、こんなに上手な子がどこに隠れていたのか、とすごく驚いたことを覚えている。あれからもう何年たったのだろう。一昨年のビエナルでマリア・モレーノ公演で歌っていたり、今年のヘレスではアルフォンソ・ロサとパトリシア・ゲレーロの公演でサンドラ・カラスコの代役を見事に務めていた。舞踊伴唱で活躍しているんだな、と思っていたら、いつの間にかシングルを発表し、それがロック系?インディーズっぽい層に人気らしい。
この日もいつものフラメンコ公演とはちょっと違う、パンクっぽい格好の若い人たちとかが沢山いて、ちょっとびっくり。白いTシャツにふわっと広がったミニスカートという、地下アイドルみたいな格好で登場した彼女。大ヒットを飛ばしたロサリアの影響もあるのかな、という面もないではないけど(後で見たビデオクリップとか、特にそんな感じ)、フラメンコの理解と解像度がずっと上。エフェクターで歌ったかと思うと、ギター伴奏で、シギリージャ、カンテ・デ・レバンテからのタンゴ、ファンダンゴはセビジャーナスで終わったり、伝統的な型をなぞるのを良しとしないのかな。でもそれぞれの歌自体はちゃんとしてる。そこら辺のバランスが面白い。
でもこの日の白眉はギター伴奏なしで、子供の頃から一緒にペーニャで歌ってきたという女性二人と一緒に歌ったポリフォニーなアレグリアス。メインのメロディーを順繰りに歌い、他の二人が伴奏のように歌ったり別のレトラであわせて行ったり自由自在。でもアレグリアス。いやあ、面白いです。
また観たい、と思わせるアルティスタでありました。
【フエベス・フラメンコ】
日は前後してしまいますが、5月30日、セビージャのカハソル劇場で開催されたアルフォンソ・ロサの公演も、これまた素晴らしかったです。3年前に初演した作品『フラメンコ。エスパシオ・クリアティーボ』で新境地を見せ、力でぐんぐん押していくタイプの踊り手だと思っていたのがいつの間にか、間合いをとりながら、絶妙な呼吸で超絶技を繰り出す名手へと変貌を見せたアルフォンソ。この日も歌を踊り、その動きと形の美しさ、超絶技な回転、高速サパテアードを、最高の間合いとバランスで見せてくれた。あらゆるカンテを完璧な音程で歌うサンドラと、私は多分お初の男性歌手アントニオ・ルケ“カニート”のバランスも良く、ギターのフランシスコ・ビヌエサも、全てがいい、完璧な舞踊リサイタルだったと思います。
なお、カハソル財団によるフラメンコ公演シリーズ、フエベス・フラメンコスは今年で25周年。もともとエル・モンテという地方銀行の主催だったものが、銀行の合併でカハソルとなったというと、ああ、と思う、昔セビージャに住んでいた人もいるかもですね。元ビエナル監督マヌエル・エレーラが長年プログラムを組んでいたのですが、彼が亡くなって今は歌手マヌエル・ロンボが監督を務めているそうです。今年もマリア・テレモートに始まり、6月27日のパストーラ・ガルバンで一旦夏休みを挟んで、9月12日にエセキエル・ベニテス、10月12日にギターのホセ・デル・トマテ、24日に踊り手のエル・チョロ、11月にも7日にアントニオ・レジェスと公演予定だそうです。
【ハエンのギターコンクール】
6月21日、ハエン県ハエン市のペーニャ・フラメンカ・デ・ハエンで第18回青少年フラメンコギターコンクールの決勝が行われました。優勝は、主に歌伴奏で各地のフェスティバルなどで活躍するマヌエル・エレーラ・イーホ、準優勝は、現在グラナダ大学でフラメンコの研究と分析のマスターコースを受講中の鈴木宏宜、3位はホセ・アンヘル・ブトレル・モラでした。
鈴木は1994年横浜市出身。10歳からクラシックギターを学び、高校でフラメンコギターに転向。卒業後はセビージャのクリスティーナ・へーレン財団フラメンコ芸術学校で学び、助手も務めた後、コルドバ高等音楽院フラメンコギター科に学び2023年卒業。これまでに、ウベダのフェスティバルにソリストとして出演するなどしています。日本人フラメンコギタリストのスペインでのギターのコンクール入賞は、徳永兄弟以来ではないかと思います。おめでとうございます。これからの活躍にも期待しています。
【訃報/クーロ・フェルナンデス】
6月14日、歌い手クーロ・フェルナンデスが亡くなった。スペインの記事にcausa naturalとあったので自然な理由、老衰なのだろう。
1941年セビージャはトリアーナ、ファビエ通り生まれのヒターノ。マティルデ・コラルやマヌエラ・バルガス、ファルーコからカルメン・レデスマ、フアナ・アマジャとセビージャの踊り手たちに愛された舞踊伴唱の名手。80年代には妻ペパ、子どもたち、ギターのパコ、歌のエスペランサ、踊りのホセとファミリア・フェルナンデスとして活躍。日本へも1984年には妻の妹コンチャ・バルガスを加えたグループで新宿エル・フラメンコに出演するなど、何度もやってきている。
2002年には生家跡に記念のプレートが設置されました。数年後外壁と共に崩れ落ちてしまいましたが。
2014年にはセビージャの国際会議場ホールでプロ生活50周年のオマージュ公演が開催され、
2017年にはウトレーラのフェスティバル、タコン・フラメンコも彼に捧げられました。
豊富な知識と経験で多くの踊り手たちを支え、教え導いてきたクーロ父ちゃん.御冥福をお祈りします。
【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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