(viernes, 1 de septiembre 2023)
2023年3月5日(日)
Showレストラン「ガルロチ」(東京・新宿)
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
写真/大森有起
Foto por Yuki Omori
劇場公演でもタブラオライブでも日本各地から引く手あまたで長年にわたり日本のフラメンコ界を支え続けているフラメンコ歌手、川島桂子のソロリサイタルが開催された。タイトルは『PARA MORIR Ⅱ』、9年前の2014年に開催したソロ公演と同名を冠した。
過去最高ではないかと思えるほどの超満席の店内。これだけ大勢の観客が集まっているのは、コロナ以降久しぶりではないだろうか。
プロのアーティストらをはじめ業界関係者や練習生らも多く、彼女の人脈の広さが伺えた。客席はそこかしこが知り合い同士ばかりのようで、大いに賑わっていた。できるだけ多くのお客様に楽しんでいただきたい―――、そんな思いが表れているようだった。
1部がスタート。髪をアップに結い上げ、黒のドレスに長いストールを羽織った川島が舞台に現れる。バイオリンの前奏から始まるトナ。ギターとパルマの伴奏に支えられ、深みのある歌声が響き渡る。いつもはステージでスポットライトを浴びる踊り手らを伴唱者として支えているが、今日は自分が主役だ。優れた技術と安定感を持つ素晴らしいアーティストらが、今は川島を支えている。
1曲終わるごとにMCが入るのも、彼女の人柄が感じられる。この日はちょうど川島が還暦を迎える誕生日で、このライブは感謝祭であり、また生前葬でもあるのだという。これまで歌い手としてキャリアと年齢を重ねてきて、その間に内面のモードも少しずつ変わってきたと打ち明ける。そこで今回の公演では、次世代を担うことになる現在活躍中の若手ギタリストである徳永にギターをお願いしたと話す。そしてグラナイーナを披露すると、卓越したテクニックと繊細でいて鮮やかな音色のギターと艶のある豊かな歌声とのハーモニーが会場を包み込んだ。
タンゴ・デ・グラナダでは、「これから歌う曲はきっとみんな知っている曲だと思うので、感謝祭だからよかったら一緒に歌ってください」と呼び掛けた。演奏が盛り上がると川島も立ち上がって踊り、客席からもあちこちで歌声が聴こえてきた。
また、ステージを進行していく中でのひらめきで、プログラムの曲順を入れ替えたりも。そんな柔軟さも、川島のキャリアで磨かれたセンスの為せる技なのかもしれない。
アバンドラオでは三枝と有田のパルマという贅沢な構成で壮大な情景を歌い上げ、自身のお気に入りという昭和歌謡のスペイン版のようなスペイン歌謡曲は、森川によるピアノアレンジで披露した。
そして曲順変更により1部のラストの曲となったのが、久保田とヴォダルツがパリージョを奏でて踊る華やかな舞踊曲。最後を美しいバイレで締めたいとひらめいた、という期待通りの華やかな締めくくりとなった。
休憩を挟んでの第2部は、フラメンコ界の巨匠と名高いエンリケ坂井との二人きりのステージ。カンテのギター伴奏、ではない。カンテとフラメンコギターの協演だ。
鮮やかな真紅のドレス姿の川島が舞台に上がると、会場から見惚れるような歓声が上がった。
カンテを志した当初からお世話になっているというエンリケとの共演に、MCでの川島の表情は終始にこやかであった。「どうしても歌いたい曲」だという名人パコ・トロンホのファンダンゴ・デ・ウエルバや正統派のソレアなど、味わい深い5曲を歌い上げた。
エンリケのギターの音色には、匂いが感じられる。フラメンコの古き良き時代への憧れを思い出させてくれるような、その時代の空気や質感まで伝わってくるような至福のステージに、観客はすっかり引き込まれ酔いしれていた。
川島は、自身がほぼ独学で歩んできたカンタオーラとしての道のりを「迷走してきた」と表現する。でも、その自分なりに目指すものを模索してきた道程こそが、彼女の存在をウニカ(unica、唯一の)なものに成らしめたのではないだろうか。
たくさんのファンに愛され、そして大きな愛を注いで歌い続けてきた日本屈指のカンタオーラ。この先ぜひ第3弾を企画して、再び私たちにその温かく素晴らしい歌声を聴かせてほしい。
【出演】
川島桂子
特別ゲスト:エンリケ坂井
ギター:徳永健太郎
パルマ:有田圭輔、三枝雄輔
バイオリン&ピアノ:森川拓哉
バイレ:久保田晴菜、ヴォダルツ・クララ
【プログラム】
[第1部]
1. Tona
2. Granaina
3. Tangos
4. Abandolaos
5. Maldigo Tus Ojos Verdes
6. Un Clavel
[第2部]
1. ブレリア・ポル・ソレア
2. ティエント
3. セラーナ
4. ファンダンゴ・デ・ウエルバ
5. ソレア
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