(原案:安珍と清姫)
(domingo, 5 de mayo 2024)
2023年11月3日(金祝)
セシオン杉並(東京都)
(公益財団法人スペイン舞踊振興MARUWA財団令和2年度助成事業)
写真/武重到
Fotos por Itaru Takeshige
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
これまで数々の劇場公演を手掛けてきたフラメンコダンサー、田村陽子の『舞踊生活活動25周年記念公演』としての創作フラメンコ公演が上演された。本来は2020年に上演予定だったが、世界的パンデミックを受け延期を余儀なくされ、状況が落ち着きスペインから出演アーティストらを招聘できるようになり、待ちに待った開催となった。
作品の原案は、紀州道成寺にまつわる有名な安珍清姫伝説。かねてより舞台化を目指して作品をあたため続け、10年に及ぶ構想期間を経て作り上げた渾身の一作だ。
舞台は休憩を挟んでの全2幕。冒頭のプロローグでは、何かに追われているように息を切らして走りながら一人の男が登場。このような状況に至った経緯を振り返るような形で、物語が展開していく。
とある村祭りで出会った男と女。一目会った時から恋に落ち、二人は再会を約束するが、男には妻がいて女との約束を裏切ってしまう。女は怒り狂い、逃げる男を追いかけ河を渡るうちに、その強い情念の末に蛇の姿へと変身する。口からは炎を吐き出し、それは次第に大きくなり蛇になった女とともに男をさらに追い詰めていく、というストーリーだ。
主演の田村が一人二役を好演。舞台前半では恋する女性の幸せな様子を、バイオリンの甘美な音色とともに踊り、喜びや愛らしさを表現。そして男の裏切りに怒り狂い蛇へと変身してからは、男を追い詰めていく女の情念や狂気を徹底して演じ切った。怨念の業火でついに男を焼き尽くした後、遺された灰と靴を見て笑い声をあげる場面では、その死を悲しむどころか復讐を遂げたことを喜ぶほどの、人間の業のような情念がよく表れていて強烈な印象を残した。
裏切った男役のヘスス・オルテガは、一見優しく紳士的だがその一方で女性に弱い面も見せる。美しい女の魅力に惹かれるものの、結局は安らぎを与えてくれる妻のもとへ戻ったことで、蛇になった女から追われる羽目に。逃げた末に身を隠した洞窟で踊るソロのタラントは、確かな踊りの中にも不安そうに怯えた様子や後悔の念が滲む。
炎役のクリスティアン・ペレスは、奇抜なメイクや衣装もさることながら、その表情やしぐさ、踊りで抽象的な存在である「炎」をうまく表現した。炎の化身とはまさにこんな感じか、あるいは炎の妖精と呼んでも良いかもしれない。蛇に変身した女と共に裏切り者である男を追い詰めていく様子は、何をしでかすか分からないような危うさも伴い、躍動的でドラマティックで目が離せなかった。
群舞による演出も、バリエーションに富んだ構成で素晴らしかった。はじめの村祭りの場面での賑わいや、女が蛇に姿を変える河の流れや渦を表現したり、また男を業火に包む炎になったりと、緩急つけたフォーメーションやそれぞれのテーマに沿った統一感のある衣装によりうまく演出されていた。
ソロの舞踊手たちの技術の確かさや表現豊かな踊りは、期待通り十分見応えがあった。そして群舞による多彩で柔軟な表現は、踊りは言葉以上に雄弁に、様々なことを表現できるという舞踊表現の可能性や面白さも私たちに教えてくれた。劇場公演の作品作りはもちろん簡単にできるようなものではないが、様々な創意工夫が詰まった見応えのあるフラメンコ作品を、これからも楽しみにしたいものである。
【出演】
田村陽子(女/蛇)
ヘスス・オルテガ(男)
クリスティアン・ペレス(炎)
浅見純子(妻)
正木清香
ヴォダルツ・クララ
久保田晴菜
脇川愛
松田知也(小島章司舞踊団所属)
中原潤
ロサリオ・アマドール(歌)
パコ・エル・プラテアオ(歌)
ラモン・アマドール(ギター)
平松加奈(バイオリン)
海沼正利(パーカッション)
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