公家千彰フラメンコ公演
(domingo, 4 de febrero 2024)
2023年8月22日(火)
スクエア荏原ひらつかホール(東京・品川)
写真/大森有起
Fotos por Yuki Omori
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
「私は何故踊るのか?混迷を極める現代の日本……これは、失われた魂の"炎"を探す旅なのです」
フラメンコ舞踊家、公家千彰の創作フラメンコ公演が上演された。今作品のテーマについて、公家はプログラムの冒頭でこのように記している。
舞台は2部制で構成され、前半では約半世紀前の活気が溢れていたスペインの祭りの情景と、戦争で全てが奪われ魂の炎が消えてしまった暗黒の時代を表現。後半では、苦難や悲しみを乗り越え再起へと向かうたくましさと、そこから新たに始まる未来への希望へと展開していく。
今作の共演には、現代舞踊の第一人者と名高い石井漠の曾孫である石井武を招聘。日本の土着文化や現代芸術を融合させた舞台作品などで、国内外で高い評価を得る現代舞踊家だ。
第1部の後半、戦争で全てが失われた後のシーンで、赤の細帯を締めた白衣姿で白の扇子を巧みに使い、シギリージャの曲を公家と二人で祈りを捧げるように舞い神聖な場面を表現。公家の力強いフラメンコの足技に対し石井も裸足でリズムを刻み、フラメンコと現代舞踊で振付は違いつつも呼吸がシンクロする踊りで、互いの高い舞踊技術で観客を魅了した。他にも群舞のシーンや情景演出などの場面でも、その舞踊スタイルを生かして良いアクセントを添えた。
群舞には、実力ある中堅・若手のフラメンコダンサーらを起用。ファンダンゴやサンブラ、グァヒーラなどバリエーションに富んだ数々の曲種で息の合った群舞を披露し、各人の踊りも個性が光っていた。また、衣装デザインも色彩が鮮やかなものが多く、祭りの場面ではリボン付きのパリージョを採用するなど演出の工夫も楽しめた。
ミュージシャンらが主役の場面も、どれも見応えがあった。第2部冒頭では、暗幕も無いむき出しの舞台の真ん中に置かれた作業台で、パコとミゲルが二人きりで鍛冶を打ちながらマルティネーテを歌うシーン。素晴らしい歌唱はもちろんだが、二人でトンカチを振るいながらの掛け合いが何とも楽しい。
この場面の裏話について、公家は町工場を営む実家から、二部頭のトンカチや金敷を借りたという。そして「赤ちゃんの頃からトンカチの音を聴いて育ったので、とても好きな音が舞台に響き渡り感無量でした」と打ち明ける。
またギターとフルートの二重奏によるグラナイーナや、戦争の不穏な空気を表現するバイオリンのソロ、祭りのブレリアをカホンで共に盛り上げる場面なども印象的だった。
主演の公家は、踊る喜びがそのまま伝わってくるような堂々としたソロを披露。
<黒の時代>を象徴するシギリージャでは、渾身の踊りとともに定評がある見事なパリージョの音色を聴かせ、タラントでは黒のパンツスーツに白のブラウスというマニッシュなスタイルで、チンチネス(フィンガー・シンバル)を巧みに鳴らしながら小谷野と鈴木と共に凛々しい踊りを魅せた。
そして終盤では白と緑のバタ・デ・コーラを身にまとい、未来への希望を込めてアレグリアスを舞う。途中からは靴を脱ぎ出し、それを両手にはめて手でサパテアードを打つなど遊び心を取り入れた演出も。素足で生き生きと踊るその表情は、充実感に溢れていた。
公演後のSNSで公家は、これまでフラメンコへの敬愛と日本人としての誇りという2つが混在することで悩み葛藤することがあったと打ち明け、今回の舞台ではそれが繋がったと感じられた、と話す。そして、それは出演者やスタッフの熱意、観客の気持ちがあったからこそで、あの舞台はみんなからのご褒美のようで、私の命が輝いた瞬間だった、と振り返る。
ひとりの舞踊家として伝えたいこと、表現したいことをできる限り盛り込み、創意工夫を凝らした演出で共演者らと共に素晴らしい形にして披露した今回の公演。公家の心の中で燃え続けるフラメンコへの真っ直ぐな情熱が、ストレートに伝わってくるような作品だった。それはきっと、様々な困難や不条理で疲れ切った現代社会を生きる人々へのエールとして、観客の心に届いたことだろう。
【プログラム】
第1章 <祭り>
・グラナイーナ
・ファンダンゴス・デ・ウエルバ
・ブレリア
・ファンダンゴス・デ・アルバイシン
第2章
<黒の時代>
・シギリージャ
<導き~彷徨える魂の川>
・ナナ
<青い焔>
・対話
Ⅰ.想い
Ⅱ.おらしょ
Ⅲ.アンダルシアの子守唄
Ⅳ.シギリージャ・デ・ハポン
第3章 <再建>
・マルティネーテ
・タラント
・サンブラ
第4章
<夜明け>
・グァヒーラとタンゴス
<素足の旅>
・アレグリアス
<饗宴>
・セビジャーナス
・タンギージョ・デ・カディス
【出演】
公家千彰(フラメンコ舞踊)
石井武(現代舞踊)
ペペ・マジャ“マローテ”(ギター)
カルロス・パルド(ギター)
ミゲル・デ・バダホス(カンテ)
エル・プラテアオ(カンテ)
小谷野宏司(フラメンコ舞踊)
鈴木時丹(フラメンコ舞踊)
川松冬花(フラメンコ舞踊)
田中菜穂子(フラメンコ舞踊)
森川拓哉(バイオリン)
Mashiro(フルート)
飴谷圭介(カホン)
平原響花 田邊千加子 蒲真理子 藤村詩 藤村明子(アンサンブル)
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