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石井智子スペイン舞踊団公演『星の王子さま -孤高の薔薇-』

(domingo, 27 de agosto 2023)


2023年1月28日(土)・29日(日)

銀座 博品館劇場(東京)


文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko

写真/川島浩之

Foto por Hiroyuki Kawashima

石井智子スペイン舞踊団公演 「星の王子さま -孤高の薔薇-」

 東京を拠点に舞踊活動を展開する石井智子スペイン舞踊団による劇場公演が、東京・銀座の博品館劇場で2日間3公演上演された。

 今回の原作となったのは、世界中で親しまれているサン=テグジュペリの不朽の名作「星の王子さま Le Petit Prince」。その物語をフラメンコと現代ダンスという異なる舞踊表現により、双方の魅力や可能性を巧みに組み合わせた演出で舞踊作品に仕立てた。

 音楽面では、楽器にフラメンコギターの他にバイオリンやアコーディオンも取り入れ、パーカッションでは朱雀が得意とするタングドラムをはじめジャンベなど10種類以上の様々な楽器を使い、豊かな音色で物語の世界観や登場人物の心情を彩った。歌についても、川島が物語に沿ったスペイン語の歌詞を20個以上作詞したり、井上も選曲の提案や日本語での作詞を手掛けるなど、細やかな表現にもこだわりを見せた。


 舞台は幻想的なタングドラムのメロディーで幕を開ける。プロローグは、4人のダンサーによる動物を連想させるような象徴的なポーズでワンシーンを飾り、そして今作の主役である薔薇役の石井が舞台中央に登場する。赤のバタ・デ・コーラをまとう姿はまさしく薔薇のよう。パリージョ(カスタネット)を奏でながら、慈愛に満ちた表情で優しく大らかに舞う。

 今作での薔薇の存在について、石井はプログラムのあいさつ文で「(薔薇は)夫・恋人・子・大切な人への愛情を湛えた女性の象徴として登場し、最後は薔薇と王子さまが再会するという、原作にはないハッピーエンドで幕を閉じ、皆様にはぜひ温かい気持ちでお帰りになっていただきたい」と語っている。


 砂漠に不時着した飛行士が王子さまと出会う場面。飛行士役には現代ダンスで活躍する木原を起用し、ソロのダンスシーンでは柔らかい身体を生かした伸びやかな踊りで作品の世界観を表現する。そして王子さま役の岩崎はギターの演奏に乗せてブレリアを踊り、フラメンコらしい音楽でドラマティックな場面を演出した。

 岩崎は公演当時19歳と、今後が楽しみなダンサーだ。王子さまのソロの場面では若々しく力強いソレアポルブレリアを披露。さらに現代ダンスも学んでいるということで、師でもある飛行士役の木原との共演シーンでも息の合った踊りを見せた。今回は劇場作品のため役の衣装での踊りだったが、いつかぜひタブラオなどで踊る姿を観てみたいと思う。


 薔薇として王子さまを見守り慈しむ石井は、様々な場面でその心情を表現した。薔薇が王子さまの星に生まれて大きく成長するまでの場面では、ピンクのバタ・デ・コーラの衣装でファンダンゴの曲を優美に舞う。そこに岩崎がカホンや足を打ち鳴らして、親子共演としても薔薇と王子さまとしても心温まる共演シーンとなった。また、たった一人で星に残された薔薇が悲しみに耐える場面では、ソレアの音楽とともに渾身の踊りで深い孤独を表現した。


 星を旅立った王子さまが6つの小惑星を訪ねる場面では、行く先々で出会う王様やうぬぼれ屋、呑んべえに実業家、街灯の点灯夫、地理学者といった変わった大人たちを、ガロティンやマルティネーテ、ティエントなど様々なフラメンコの曲種で演出。衣装にもその役柄の個性がよく表れ、多彩なバリエーションが楽しめた。


 物語のカギを握るヘビの役は、石井と同じく小松原庸子スペイン舞踊団出身の南風野が好演。少しずつ王子さまに忍び寄り、不穏な展開を暗示する。柔らかい腕でマントンを翻しながら妖艶に舞い、鋭い目つきと妖しげな雰囲気で存在感を示した。

 王子さまと友達になり大切なことを教えるキツネ役には、現代ダンスの細川を起用。しなやかな身のこなしでキツネらしい軽快な舞踊を表現した。


 惑星や砂漠といった象徴的なシーンは現代ダンスによる群舞で巧みに演出し、バオバブの木のシーンでは不気味で底知れないエネルギーを表現。フラメンコによる群舞ではアレグリアスの曲をアバニコで華やかに踊り、咲き誇る薔薇たちを表現した。


 薔薇が王子さまと再会を果たす最後のシーン。石井はパリージョを奏でながら赤のバタ・デ・コーラ姿でグアヒーラを舞い、再会の喜びを表現する。岩崎もカホンで共演し互いに大切な存在であることを確かめ合い、幸せな空気に包まれながら幕を閉じた。

 

 主宰の石井が子供の頃から愛読していた物語を舞台化するという、長年温め続けてきた構想が晴れて結実した今回の公演。当初は昨年の上演を予定していたとのことだが、苦渋の決断による延期を経ての今回の上演は喜びもひとしおだったことと思う。共演者やスタッフの思いもひとつになり、鑑賞していてやさしく温かい気持ちが伝わってくる素晴らしい作品であった。



【出演】

石井智子(フラメンコ)/薔薇

南風野香(フラメンコ)/ヘビ

木原浩太(現代ダンス)/飛行士

細川麻実子(現代ダンス)/キツネ

岩崎蒼生(フラメンコ)/王子さま


石井智子スペイン舞踊団(松本美緒、小木曽衣里子、清水真由美、福田慶子、樋口万希子、角谷のどか)

加藤みや子ダンススペースカンパニー(細川麻実子、田路紅瑠美、江藤裕里亜、上村有紀、杉山佳乃子、鈴木梨音)


ギター:鈴木淳弘

カンテ:川島桂子、井上泉

アコーディオン:Miyack

バイオリン:依田彩

パーカッション:朱雀はるな


石井智子(振付・構成・演出)

加藤みや子(現代ダンス振付・監修)


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