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«新連載»「新・フラメンコのあした」 vol.1

(lunes, 6 de marzo 2023)


20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、昨年暮れに上演されたスペイン国立バレエ団の劇場公演についてご紹介します。


文/東敬子

Texto por Keiko Higashi


写真/プロモーション宣材

Foto por promoción


スペイン国立バレエ団『エル・ロコ』

サルスエラ劇場、マドリード(スペイン)

2022年12月18日


“El loco”, Ballet Nacional de España,

Teatro de la Zarzuela, Madrid,

18 diciembre 2022.

Director: Rubén Olmo

 フラメンコ作品が時を経て再演されるのは中々ない事なのですが、2022年末よりスペイン国立バレエが公演する『エル・ロコ』(2004) は、ほぼ20年の時を経て再演を果たした秀作の一つです。


 同舞踊団でもソリストとして活躍した舞踊家・振付家のハビエル・ラトーレ(1963ー)が振付を務めたこの作品は、実在した舞踊家フェリス・フェルナンデス(1893ー1941)を題材に、彼の苦悩に満ちた人生を独自の視点で描き、初演当時も大きな話題を呼んだ意欲作でした。


 20世紀初頭当時の「時代考証」を忠実に守りながらも、つまりは、古典的・伝統的なフラメンコを表現しながらも、観終わったとき観客に「これは現代のフラメンコ舞踊だ」と感じさせるその手腕は、さすが「鬼才」と称されるだけの事はある。ハビエル・ラトーレは、もっと評価されても良いアーティストであると、今更ながら感じさせてくれます。


 フラメンコ界は、リーマンショックやコロナウイルスなどの影響で、10年以上経済的縮小を強いられていますが、2000年代は海外でもフラメンコブームで、かなり盛り上がっていたんですよね。この作品も色んな部分で、当時の勢いが感じられます。


 抑えた色味のアバンギャルドなデザインの衣装や、凝った舞台美術なんか、やっぱりお金かかってるなあと感じるし、この作品は特に、フラメンコの演奏の他に、オーケストラの生演奏の部分もあるので、音楽も豪華。また、物語構成の中で内面の葛藤を表現するなど、本当に当時の「流行り」と言うか、「これぞ2000年代の作品」という感じで、当時の世界観を詰め込んだ作品の最高峰と言った感じでしょうか。


 この作品を観終わって、今にない20年前のそれを新鮮に感じる部分、そしてもう古いなと思う部分、両方がありました。しかし、作品作りの丁寧さは現代でも見習ってほしい、それは強く感じます。それには十分な時間、すなわち十分な予算が必要なわけですが。ただ一つだけ、初演当初に観た時と、再び観た今も、同じ印象が残った部分がありました。それはこの作品の物語構成でした。


 フラメンコの踊り手だったフェリスは、その才能を買われ当時第一線だったディアギレフとマシン率いるバレエ・リュスに引き抜かれ、スペインからイギリスに渡るわけですが、馴染めず葛藤を繰り返し、最後には狂気の世界に埋没してしまうと言うストーリー。


 舞台はまず精神病棟で苦しみうごめく「晩年の」フェリスの場面から始まります。そして過去にフラッシュバックし、彼の栄光と転落の過程がつづられ、最後にまた精神病棟でのフェリスが描かれて幕を閉じます。


 まるで映画のようなこの構成は、当時、新しい試みではありました。しかし、最初の精神病棟の場面は、必要なかったのではと、私は今も昔も同じ印象に着地しました。これが最初にあるせいで、フェリスがどれだけ素晴らしい踊り手だったのかと言う部分が駆け足になって実感できない。観客が素晴らしい未来をフェリスと一緒に期待出来なければ、その後に来る悲劇も薄味に感じてしまいますよね。


 精神病院の部分がオープニングに来ると、その不気味な雰囲気に「何だろう」と引き込まれる、そういう効果はあるでしょう。でも、舞踊には言葉がありませんから、視覚で感情を揺さぶるには、もっとストレートなやり方の方が合うのではと思います。


 例えば、クラシックバレエの『ジゼル』。一幕目では明るい幸せいっぱいのジゼルが描かれ、二幕目では彼の裏切りにショックを受け死んでしまったジゼルが亡霊として出てくる。何が起こったのかすぐ分かるし、この対比が観るものの目には面白い訳です。だから感情移入も出来る。


 とはいえ、色々な意味で、『エル・ロコ』の再演は、フラメンコの未来を見る上で、とても意義あることだったと思います。スペイン国立バレエには、これからもどんどん秀作の再演に力を入れて欲しいと願っています。


【筆者プロフィール】

東 敬子(ひがし けいこ)

フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com を主宰。


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