(lunes, 2 de octubre 2023)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は8月にマドリードで開催されたファルキートの劇場公演についてお伝えします。
文/東 敬子
Texto por Keiko Higashi
写真/宣材写真、東 敬子
Fotos: material promocional / por Keiko Higashi
ファルキート
『コン=シエルト・フラメンコ』
ラ・ラティーナ劇場、マドリード(スペイン)
2023年8月26日
Farruquito “Con-Cierto Flamenco”
Teatro La Latina, Madrid, 26 Agosto 2023
ステージに現れた時の緊張感、目をみはるスター性、そして躍動感あふれるヒターノの味に満ちた動きの全てが、いつも通りでした。でも実は今回のステージで、ファルキートは怪我をしていたのです。
リハーサルで負傷してしまったであろう右手(多分、指を痛めたのかと思います)は、客席から気づきにくいように肌色のバンデッジが巻かれ、痛々しい。今回は自身の息子エル・モレーノの本格的デビューという大事な公演でしたから、お父さんとしては、ちょっと頑張りすぎたのかも知れませんね。加えて、8月23日から9月3日までの2週間の長丁場。しかし公演期間中は満員御礼の連続で、見事最後まで乗り切ったのでした。
ファルキートの長男フアンが観客の前で初めて踊ったのは、父と同じくニューヨークのステージで5歳のとき。現在11歳の彼は今、2001年に亡くなったファルキートの父、自身の祖父であるカンタオール「エル・モレーノ」の芸名を継承し、プロとしての茨の道を歩き始めました。
今回の作品は、踊り手は父と息子の二人だけ。もちろん振付はありますが、音楽とともに即興的なノリが随所にあり、舞踊作品というよりは、まさにロックなどのコンサートのようなライブ感がありました。最近の舞踊作品は、踊り手が持つ「心のドラマ」をテーマに作り込む作品が多く、何が言いたいのか理解するのに手間取る場合が多いのですが、彼のように、ストレートに「フラメンコってこういうものだよ」と訴えてくれる踊り手は、もはや希少とも言えるでしょう。そして満員の会場を見れば、観客が何を求めているかは言わずもがな。現代アーティストは、こういった作品を見て、今一度自分の方向性を見直すべきではないかな、と思ったりします。
ファルキートはステージに現れるや、一瞬で観客の心を掴みます。ただそこにいるだけで、ググーッと引き込まれる。もっと若い頃の、研ぎ澄まされた蒼い緊張感は、大人のゆとりと、そこはかとない色気となって、会場の空気を大きく動かします。今年41歳となった彼ですが、その俊敏な動きに陰りは見えません。
そして息子モレーノが登場すると、思わず「かわいい」と笑みが漏れる。
まだ幼さが残るその容姿とは裏腹に、動きはすでに一人前のフラメンコ。自身の意思が、その手足を自由自在に操る様は、才能としか言いようがありません。父と二人で踊る姿は、家族の信頼に包まれながらも、一人でやり遂げるという強さが見られます。ファルキートが10代の頃は、踊りの中にシリアスな印象がありました。比べてモレーノは、もっと明るい印象。その辺は、ファルキートの末の弟、カルペータの10代の頃と重なります。
モレーノのソロのアレグリアスは、まだ若干不安定なところがあり、バックにいたお父さんは、思わず歌い出して応援。微笑ましいと思うと同時に、ヒターノのフラメンコの成り立ちを垣間見た気がしました。
ギターのジェライ・コルテス、カンテのイスマエル・デ・ラ・ロサ“ボラ”、マリ・ビザラガなど、聞き応えのある音楽陣もいつもの通りですが、今回はカンタオーラ、モンセ・コルテスとの共演が目を引きました。彼女のファンは多く、私もその一人。最近は彼女のリサイタルがあまりないので、ぜひまたやってほしいなと思います。
今回は、テーブルを叩いてリズムを取ったりカホンを叩いたりと、やたらと叩く場面が多く、手を怪我しているファルキートにとっては大変だったと思いますが、最後はエレクトリック・ギターも演奏し、そこにホアンのドラムが加わるなど、驚きの一言。フィン・デ・フィエスタでは、ファルキートの娘二人も登場し、ブレリアを披露。親子共演を最後まで楽しませてくれたステージでした。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (ひがし けいこ)/フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。
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