(lunes, 7 de agosto 2023)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月もフェスティバル「フラメンコ・マドリード2023」から、若手フラメンコダンサーの舞台作品についてお伝えします。
文/東 敬子
Texto por Keiko Higashi
写真/ 宣材写真、東 敬子
Fotos / material promocional , por Keiko Higashi
フリオ・ルイス『トカール・ア・ウン・オンブレ』
フェスティバル「マドリード・フラメンコ 2023」
セントロ・クルトゥラル・デ・ラ・ビジャ、フェルナン・ゴメス劇場、マドリード(スペイン)
2023年5月27日
Julio Ruiz “Tocar a un Hombre”
Festival Madrid Flamenco
Fernán Gómez. Centro Cultural de la Villa, 27 mayo 2023 Madrid.
『トカール・ア・ウン・オンブレ』というタイトル、グーグル翻訳では「男(オンブレ)に触れる」と、あからさま。けれど私は、「人間(オンブレ)に触れる』と訳したい。もしくは「愛に触れる」と。
30歳となったフリオ・ルイスが、出会いの中で「愛」というものに初めて触れる(気づく)、それによって起こる、心の波動が上下する様を、私たちはこの作品の中で自分のことのように追体験するのです。
ともあれシノプシスには、意味深なタイトルですが非常に分かりやすいビジュアルの画像が付いていて、しかも18歳指定と注意書きもあり、まあこの時点で、私はなんとなく予想がつきました。「ああ、多分、裸が出てくるな」と。
そう、コンテンポラリーダンスよろしく、モダンなフラメンコでは時々、作中で踊り手さんが裸になったりするんですよね(汗)。スペイン国立バレエ団の作品にもあったし、ラファエル・アマルゴ作品や、ロシオ・モリナ作品でもありました。慣れっこになっている私ではありますが、今回は小スペースでステージと客席がすごく近かったことと、私の席は最前列中央だったこともあり、目の前で見る「おしり」には流石に目のやりどころがありませんでした(笑)。
2023年5月マラガのフェスティバルで初演された今回の作品。10分前に会場に入ると、ステージにはすでに主役フリオと、この作品のパートナーを務める、コンテンポラリーダンサーで現在28歳のハビエル・デ・ラ・アスンシオンがいて、スペースの端と端に分かれて、それぞれの想いに耽っていました。
開演時間になると、彼らはおもむろにお互いの存在に気づき、最初は目配せを交わし、少しずつ距離を縮め、握手をし、笑い合い、その瞬間にふと触れた肩にお互いが驚き、戸惑い、やがて挨拶のハグが、気持ちを確かめる抱擁に変わり、そしてハビエルがその衣服を一枚ずつ脱いでいくと、フリオはステージ上に置いてあったフラメンコブーツを履き、ハビエルの裸の背中を、胸を、お腹を叩いてコンパスを取りながら、激しいサパテアードを繰り出すのです。
彼は語り出します。「大体、いつもこんなだよな」。街に出かけ、楽しい時を過ごし、でもその後には何があるだろう。いつも同じことの繰り返し…。そんな想いに囚われた彼は、多分いつもの様に、短かったハビエルとの仲を清算しようとします。でも、ハビエルはめげません。「僕ほど君を愛している者はいないよ」。彼はこの言葉を、これでもか!とフリオに繰り返します。
フリオは葛藤します。彼のサパテアードが再び炸裂します。本気になることへの恐れでしょうか。それとも束縛されることへの? けれどハビエルはめげません。ここは見習いたいところです。楽器を演奏したり、ラブソングを歌ったり。そしてフリオは遂にその熱意にほだされ、連れ戻され、二人のパワーバランスは逆転します。最後は二人で、TikTok動画風のセビジャーナスを踊ったりして、フリオの自由奔放だった独身生活は幕を下ろすのです。
コンテンポラリーダンサーとのコラボに、セリフがあったりと、フラメンコ舞踊作品と言い切るには、もう少しフリオのフラメンコを増やしてほしかったと言うのが、私の率直かつ一番言いたいことですが、フラメンコと言わず、ダンス作品、パフォーマンスとして観た場合は、とても面白かったなと思います。
まずはバイラオールとしてのフリオの才能。それが素晴らしい。上手いし、存在感もある。近年の若手では特出していると思いました。そして作品も、くだくだ回りくどくない。非常にストレートで、言いたいことが踊りの表現からダイレクトに伝わるし、だからこそ見る者が共感できる。
私はダンスをセリフで補うのは基本的に好きじゃないし、観客が会場に入ってくる時にはすでにステージが始まっている演出は、エバ・ジェルバブエナをはじめ色んな人がやったし、恋人の体を叩いてリズムを取ったりするコミカルで冒険的なノリや、「音楽」を最小限にした演出も、やはりロシオ・モリナ風ですよね。
ただ、こういった人達の作品を見て育った世代だから、そこに影響されたり、それを目指したりするのは仕方がないことだと思うし、それにも増して、疑う余地のないその才能に、私は期待して止みません。次の作品ではぜひ、もっと彼のフラメンコを見せてほしいと願うばかりです。
ちなみに、彼らのTikTok風セビジャーナスはこちら。みんなもやってみてね!
【筆者プロフィール】
東 敬子 (ひがし けいこ) フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。
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