(lunes, 3 de julio 2023)
20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、前回も取り上げたフェスティバル「フラメンコ・マドリード2023」から、エル・トロンボによるワークショップについてお伝えします。
文・写真/東 敬子
Texto y fotos por Keiko Higashi
エル・トロンボ『ウン・パシート・アル・ピエ・デ・ラ・レトラ』
フェスティバル「フラメンコ・マドリード2023」
エスパシオ・アビエルト「キンタ・デ・ロス・モリーノス」、マドリード(スペイン)
2023年5月14日
El Trombo, “Un pasito al pie de la letra”
Festival Flamenco Madrid 2023
Espacio Abierto Quinta de los Molinos, Madrid. 14 mayo 2023
大抵の人が大人になってから外国の文化としてフラメンコに触れるという日本人としては、その本質というか「フラメンコって結局なんなん?」という部分が、たとえ上達しようとも、いつまでも理解できない部分として心に残る事だと思います。それを「ああ、そういう事か」と目を開かせてくれたのが、今回行われたエル・トロンボによる子供たちのためのワークショップでした。
第7回「フラメンコ・マドリード」フェスティバルが、5月14日に子供たちが出演したフンダシオン・アララによる『アルボル・デル・フラメンコ』公演で開幕したのは前回の投稿でレポートした通りですが、同日に別の会場で、このワークショップが朝・夕の2開催で行われました。
私が参加したのは夕方の回で、10人程度の子供たちとそのお父さんやお母さん、そして私という少人数でしたが、とってもアットホームな雰囲気の中で楽しむことができました。
1971年セビージャのトリアーナ地区に生まれ、そのアルテをラス・トレス・ミル地区で育んだエル・トロンボことホセ・スアレスは、日本ではお馴染みのバイラオールでファンだという方も多いかと思います。その一挙一動は、まさにフラメンコ。自分の生き方や考えを表現するためにフラメンコをあくまで手段として使う踊り手がとても多い現代にあって、彼はフラメンコとはなんぞやを追求することに人生を捧げる、今では数少なくなった生粋のフラメンコと言っても過言ではないでしょう。
踊り手としての公演活動のほか、彼が現在提唱している「フエラ・デ・セリエ」プロジェクトでは、難しい環境に生きる子供たちの育成や援助を目的としてフラメンコを教えています。今回のワークショップ「ウン・パシート・アル・ピエ・デ・ラ・レトラ」も、その一環として行われました。
会場となったマドリードのエスパシオ・アビエルト「キンタ・デ・ロス・モリーノス」は、大きな公園の一角に設けられた子供たちのための施設で、週末ともなると様々な催しに参加しようと家族連れで賑わいます。建物内にはイベント会場のほか、子供が遊べる遊戯スペースやカフェテリアもあり、幼少の頃から肩肘はらずにアートに触れることができて非常に良い場所だなと思いました。
子供たちと一緒に会場に入り、トロンボは入り口で私の姿を見たからなのか「昨日日本から帰ってきたばかりだ」と、まずは日本のエピソード・トークで大人たちの空気をほぐします。そして子供たちに向けて、テーブルに並べられた色々な小道具を使い、丁寧にフラメンコを紐解いて行きました。
まずは、「コンパス」から。彼は言います。フラメンコのリズムは身体の中のリズム、つまりは鼓動を表現しているのだ、と。そうやって胸を手で「タンタン、タンタン」と叩き、みんながそれに続きます。
タンゴの歌詞を子供の一人に読ませると、その子はただ書いてある文字を読むのではなく、自然な言葉のリズムで読みました。そこでトロンボはすかさず、それが「歌」だよ、と褒めてくれるのです。私は、ああ確かに、と目から鱗が落ちるようでした。
親子全員を2つのグループに分けて、左のグループが最初のフレーズを読んだら次のフレーズは右のグループというように、そしてメロディーも少しずつ付けながら、気がつけばタンゴをみんなで歌っていました。
じゃあ、ちょっと動いてみようと、前に進んだり左右に動いたりしているうちに、気がつけばタンゴを踊っていました。ただ振付を追うだけでは、どんなに上手く踊っても「タンゴって何」には辿り着けない。タンゴを楽しむその気持ちも、味も匂いも分からない。しかしトロンボの「指導」で、それがまざまざと見えてきます。私は隣にいた知らないお父さん(笑)と、とっても楽しく踊らせてもらいました。
他にも、「ハレオって何?」を説明するときには、彼は子供たちに典型的なハレオを言わせたりしません。誰かを励ましたり何か言いたいときに、自分なら何て言う?と尋ね、それを紙に書かせます。そしてみんながそれを読むと、トロンボは「こんな感じかな?」と言って、その「声援」に合わせて一振りしてくれるのです。すると子供たちの目は輝き、お父さんやお母さんからは「オレ!」の声が自然と上がりました。
最後はジャガイモを使って、ブレリアのコンパスを分かりやすく説明してくれました。大きいお芋の時は指先でテーブルを強く弾く、でも小さいお芋では優しく弾く…と言うように。そうやって小難しいリズムも難なくクリア。
本当に、子供だけでなく、日本でもフラメンコ練習生なら大人でもぜひ体験してほしいワークショップでした。
【筆者プロフィール】
東 敬子 (ひがし けいこ)
フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.com(https://spanishwhiskers.com/?page_id=326)を主宰。
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