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新・フラメンコのあした vol.3

(lunes, 1 de mayo 2023)


インタビュー・文/東 敬子

Entrevista y Texto por Keiko Higashi


Fotos y Vídeo por Keiko Higashi


20年以上にわたりスペインで活動するジャーナリスト東敬子が、今気になるスペインフラメンコのあれこれを毎月お届けします。今月は、このたびニューアルバムを発表したギタリスト、ヘロニモ・マジャへのインタビューをお届けします。


ヘロニモ・マジャ インタビュー

アルバム『プレサ・イ・ソレラ』(2023)


Entrevista con Jerónimo Maya

“Pureza y Solera” (2023)


 例えば、知る人ぞ知る隠れた名店のような。

 伝統の味を守りつつも、誰も経験し得なかった”驚き”を常に提供してくれるその店は、初めての客を一瞬にして馴染みに変え、馴染みの客に初めての感動を蘇らせる。

 あるいは、「あの店のギムレットを飲みたい」と、日常の騒音にまみれたふとした瞬間に恋焦がれるような。


 フラメンコ・ギターにおいてそんな存在は、ヘロニモ・マジャしか思い当たらない。


 1977年マドリードのヒターノ一家に生まれた彼は、親族を遡ればフラメンコ・ギターを確立させた偉大なラモン・モントージャに行き当たる。父フェリペ・マジャ、弟レオ・デ・アウロラは共にギタリスト。大叔父にカンタオールのエル・ジュンケがいる。名実ともにフラメンコ界のサラブレッドであり、幼い頃よりその才能を開花させた天才だった。


 1981年14歳のとき、ニューヨークで開催された巨匠サビーカスへのオマージュ公演に、今は亡きギターの神様パコ・デ・ルシア、カンテの革命児エンリケ・モレンテと共に招待された。それを機に彼の認知度はさらに広がり、自身のグループを率いて公演活動を開始。それから30数年の時を経て、未だヘロニモは留まることを知らず、進化し続けている。


 ではなぜ、「知る人ぞ知る」なのか。20歳を過ぎた頃、彼は決断を迫られた。スターダムを闊歩するために、流行路線の曲作りに甘んじるか。それとも、自身の音を追求することに人生の線路を敷くか。そして、彼が選んだのは後者であり、それは一筋縄では行かない道のりだった。自分の道を信じることは孤独なことだ。


 表面ばかり見る人に、彼は見えない。見ようとする人には、その輝きが当然のように見える。だからこそ「知る人ぞ知る」天才であり、だからこそ、その音は孤高の荒地に咲く一輪の花のように、猛々しく、可憐で、痛々しく、美しい。


 ニューアルバム『プレサ・イ・ソレラ』は、彼のこれまでの集大成と言ってもいいだろう。デビュー作『ヘロニモ』(2004)から約20年。25歳の彼の煌びやかで若々しい音は、今作ではグッと落ち着きを帯び、大人の魅力で魅せる。


「これが、今の僕の新しい感じ方なんだ」


 そう語る彼の表情には、満足の色が伺える。


「このアルバムは全部一発撮りで録音したんだよ。だから録音にはあんまり日数はかからなかった。7~8日ぐらいかな。僕は現代にあってこそ、ライブ演奏での力強さと可能性を押し出すべきだと思ってるんだ」


 全てが完璧になるように、ひとフレーズずつ録音し、テクノロジーを駆使しての切ったり貼ったりの編集作業は、フラメンコも例に漏れない。しかし、その為にフラメンコ特有のエネルギーが無くなってしまうと嘆く人は多い。


「このアルバムには、ライブ演奏が持つ新鮮な感覚を入れたかったんだ。あの魔法のような瞬間をね」


 今回の録音を実現するに当たっては、周りのスタッフの後押しが大きかったという。


「僕のプロデューサーたちは音楽を良くわかっているし、僕の音楽を好いていてくれる。だからとても丁寧に作業をしてくれた。アルバムの曲はYouTubeの動画(flamencoguitarsforsale)でも見れるので、ぜひ、それも楽しんでほしいな」

 今回のアルバムにはオープニングのブレリアに始まり、アレグリアス、ソレア、ファンダンゴ・デ・ウエルバ、セギリージャ、タンゴ、タランタ等、全9曲が収録されている。特徴的なのは、その多くに彼の家族の名前が付けられていることだ。セギリージャ『マラ』は妻に、ファンダンゴ・デ・ウエルバ『ラ・ルス・デ・アウロラ』は母に、と言うように。


「家族の名前をタイトルに入れるというのは、プロデューサーのアイデアだったけど、これらの曲は、僕の一番深いところで生まれたものだ。だから(彼らの名前をタイトルにつけることは)素敵なことだったと思うよ。僕にとって一番大切なものは家族だから」


 近年、自身のギターモデルも発売され、コンサートでもそれを第二ギターに使用していると言う。これは彼が子供の頃、フェリス・デ・ウトレラにプレゼントされたエステソのギターの復刻版と言えるもので、同じくコンデ・エルマノス一家のフェリペ・イホによって制作されている。値段が高いのではと、下世話な質問をすると、彼は「質が良いからね」と笑った。


 現在行っている公演には、日本でも人気の高いバイラオーラ、カリメ・アマジャも参加している。彼らが繰り出すフラメンコの魔法に期待が高まる。


 ヘロニモ・マジャのこれからは、いつまでも光り続けるだろう。ぜひ一度はその音に触れてみてほしい。その光を、その目で耳で体験してほしい。その瞬間から彼のギターはあなたの永遠の友になるだろうから。



(このインタビューを映像でご覧になりたい方はこちら )


(CD“Pureza y Solera”Jerónimo Maya およびギターのヘロニモ・モデルのご購入はこちら )



【筆者プロフィール】

東 敬子 (ひがし けいこ)

フラメンコ及びスペインカルチャーのジャーナリストとして、1999年よりマドリード(スペイン)に在住し執筆活動を続ける。スペインに特化したサイト thespanishwhiskers.comを主宰。


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