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内田好美フラメンコソロ公演『孤独生』Vol.4/10 〜徨〜

  • 6月11日
  • 読了時間: 5分

(jueves, 11 de junio 2026)


2025年11月8日(土)「黒の世界」 /9日(日)「白の世界」

名古屋東文化小劇場(愛知)


写真/大森有起

Fotos por Yuki Omori

文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko



A_1108_内田好美_孤独生4_2アレグリアス

 

2022年から始まった、名古屋を拠点として舞踊活動を行うフラメンコダンサー内田好美のソロ公演『孤独生』の第4作目が上演された。

今作のテーマは「徨」。あまり日常で見かける漢字ではないが、「彷徨う(さまよう)」という言葉に使われる。そしてスペイン語での表記「Vagar」もまた「放浪する、さまよう」という意味を持ち、彷徨う自分と共に歩んできた自身の「影」との関わりを表現した作品だ。

今回は初めて2日間の上演となり、初日は「黒の世界」、二日目は「白の世界」とアプローチを変え、作品全体のコンセプトはそのままに別々の作品に仕立てられた。


初日、舞台中央の床には、奥へと続く一本道のように白のパネルが敷かれている。舞台の端には、開いたままの茶色のトランク。そこに赤のコルドベス帽を被った内田が現われる。緑ラメのジャケット、サイケ柄のタイツ、その出立ちはピエロのよう。挨拶がわりに軽やかなソロ・デ・ピエを聴かせ、陽気なガロティンを踊る。そこにタンバリンを手にした容昌と「魔女の宅急便」のキキの姿のような川島が加わり、まるで子供の頃に親しんだ「おもちゃのチャチャチャ」の世界だ。

楽しい時間が終わる頃、内田はタンバリンやマラカス、アヒル型の笛、そして赤の帽子をトランクに詰めて立ち去っていく。


人は皆、表に見える姿だけがすべてではない。陽気で楽しそうに見えるその影では、白と黒の二つの世界が広がる。


舞台の奥には砂漠の映像が映し出され、そこに踊る女性のシルエットが重なる。

内田は日本語によるオリジナル楽曲を歌い、台詞も交えてその想いを伝える。そして赤のバタ・デ・コーラで踊るソレアでは、白の床パネルに映る影が自身の相棒として共存しているかのようだ。

舞台中央には白と黒の長尺の幕が吊るされていて、戯れて踊ったり片方を引きはがしたりと演出に大いに活用される。



音楽では、ソレアやグアヒーラ、シギリージャ、アレグリアスといったフラメンコの定番曲に加えて、ファリャの「火祭りの踊り」をマントンで舞い、「G線上のアリア」を美しいバイオリンの伴奏とハミングで奏でるなど、有名曲も取り入れ作品世界をより多彩に表現する。共演の川島、徳永、森川、容昌による高い技術と表現豊かな歌唱や演奏が、作品の芸術性をより深いものにする。


e_1108_内田好美_孤独生4_2グアヒーラ

白のアバニコを使いどこか哀愁を帯びたグアヒーラを舞うシーンでは、踊る内田の影が奥の白い幕に映ると、まるで影自身にも意志があるのではないかと錯覚を覚えた。

終盤は森川のバイオリンソロで世界観を切り替えて、細い杖を手に黒の衣装に替えて踊る内田のアレグリアス。最後は音楽の雰囲気も変わり、床に黒幕を広げ黒の世界に一変する。


二日目は初日と同じ曲目やモチーフを演じながらも、曲順や演出、プログラム構成、衣装の組み合わせなどにも変化を加え、「白の世界」という異なったアプローチの作品に仕立てられていた。

そして最後の曲となる「黒と白と」では、音楽は初日と同じアレグリアスだが、衣装はスカートの前面を黒にデザインした白のドレス。踊りながら舞台の黒の布と白の布を寄せて束ね、その姿からは二つの世界を彷徨い続ける自身を丸ごと受け入れ、前向きに生きようとする希望を込めたメッセージが伝わってきた。


2日間とも同じ作品を披露するのではなく、それを構成するモチーフを組み変えて別々の作品に仕立てるというのは、両日観に来た観客も十分楽しめるユニークで自由な発想だ。表現の方法に正解というものは無く、試行錯誤を重ねて生まれたものを表現して、それが観る者にどう伝わり届いたかということにこそ、意味があるのだろう。


Di_1108_内田好美_孤独生4_2アレグリアス

この作品は名古屋市民芸術祭2025で舞踊部門において「アンサンブル創造賞」という特別賞を受賞した。

選定理由については「ハイレベルな演奏と踊りの息がぴたりと合い、一体感のあるステージが観客を魅了した。セリフや歌などの要素を取り入れたドラマ性のある独創的な構成は、フラメンコの伝統的なスタイルに新たな方向性を示すものであった。テーマ設定にはさらなる発展の余地が感じられたものの、確かな技量をもって演奏との見事なアンサンブルを創り上げており、さらなる飛躍が期待できる舞台だった」と高く評価された。


そして今年開催される第5作目は、12月19・20日に名古屋の千種文化小劇場で上演されることが決まったという。第1作目からずっと同じメンバーで共に作品を創り上げ、回を重ねるごとに作品の魅力は深まり、表現のアイデアはさらに豊かに自由に広がっているようだ。

近隣の人だけでなく、遠方からでも足を運んで鑑賞を楽しむ価値は十二分にあるだろう。



[出演]

バイレ・演出・構成・振付 内田好美

カンテ 川島桂子

ギター 徳永健太郎

バイオリン 森川拓哉

パーカッション 容昌


[プログラム]

1日目「黒の世界」

1 プロローグ(Prólogo)

2 ~徨~(Vagar)

3 血の鎖(Cadena Sanguínea)

4 自分と影(Yo y  La sombra)

5 変態(Pervertido)

6 儀式(Un rito)

7 我、自我を持って己を凌駕する(La sombra con ego, me supera)

8 黒の私(Negro Yo)

9 エピローグ(Epílogo)


2日目「白の世界」

1 プロローグ(Prólogo)

2 儀式(Un rito)

3 我、自我を持って己を凌駕する(La sombra con ego, me supera)

4 血の鎖(Cadena Sanguínea)

5 ~徨~(Vagar)

6 変態(Pervertido)

7 黒と白と(Negro Yo, Blanco Yo)

8 エピローグ(Epílogo)

 

*「名古屋市民芸術祭2025」に関する情報はこちら


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