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内田好美フラメンコソロ公演『孤独生』Vol.2/10

〜対価 Valor 〜


(sábado, 14 de septiembre 2024)

 

【東京公演】

2024年3月10日(日)

四谷シアターウィング


写真/大森有起

Fotos por Yuki Omori

(*写真はすべて名古屋公演のもの)

文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko

 

A_2403孤独生2

 フラメンコダンサー内田好美のソロ公演シリーズ『孤独生』は、彼女がひとりのフラメンコ表現者として何を伝え残していけるのかを試してみたいという思いで2022年から始まり、その先10年間を見据えて自身の軌跡を表現していくという意欲的な作品だ。

 今回はその第2作目で、テーマは「対価」。何かを得るために失ったもの、そして何かを失った代わりに得たもの。それら全てがその人の人生を築き上げ、その人生の価値となるということを、作品を通して表現するという。


 東京公演の会場となった四谷シアターウィングは、席数60と小ぢんまりしたミニシアターのような空間だ。初演の名古屋公演が行われた千種文化小劇場と比べるとかなりコンパクトだが、その分舞台と客席の距離感も近くなり、上演される作品の世界がより濃密に感じられた。


 舞台は、あるひとりの女性の人生を軸に進行していく。戦時下を生きる、音楽と踊りが好きな彼女。「戦争で疲れた人々を癒すのは音楽」と語り、指にはめたチンチネス(フィンガー・シンバル)を鳴らしながらタンゴを踊る。

 暗く重苦しい時代を生きる彼女にとって大切だったものは、恋人への愛だった。その愛情を、大輪の薔薇の映像と、森川の幻想的なピアノ演奏、川島の慈愛に満ちたカンテソロで表現する。

C_2403孤独生2

 やがて戦争は終わったが、全てが失われてしまった。何か物体が割れる音が場内に響く。街は破壊され、その喪失感や失意を表すソレア。瀧本の歌と徳永のギターが観客の心を揺さぶる。そして内田は「愛を信じて」という自作の歌をギター伴奏のみで披露する。


D_2403孤独生2

 幸せだったころを回想する場面では、赤の羽衣のようなショールとバタデコーラでアレグリアスを踊り、華やかな舞いと確かな足技で生きる喜びを全身で表現。

 戦争により廃墟となった荒野の映像がスクリーンに映し出されると、内田は床を這い、足を引きずりながら、深い悲しみを踊る。

 穏やかな平和まで程遠い激動の時代。その不穏な空気をバイオリン、ギター、パーカッション、川島のカンテで表現するカーニャ。

 クライマックスは黒の衣装をまとった内田が、瀧本のカンテで渾身のシギリージャを披露。女性にとっての対価とは何か。その答えを考えながら、舞台の中の彼女の人生にしばし思いを馳せた。

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 芝居の要素も取り入れながら、独創性が高い作品となった今回の舞台。演じながら踊るというのも、簡単そうに見えても実は難しいのではないだろうか。だからなかなか器用だと思う。

 作品のテーマを決めてから、自分の踊りや台詞、音楽に加えて演出や照明、映像、構成に至るまで全てをプランニングするには相当の労力がかかったことだろう。内田の底力はなかなかのものだ。

 斬新で自由なアイデアがたくさん盛り込まれ、フラメンコの枠に縛られずエンターテイメント的な要素も多く取り入れられていた。客席にはフラメンコ関係者が多かったが、フラメンコを見たことが無い人でもひとつの舞踊作品として十分楽しめる内容だったと思う。もちろんフラメンコの魅力も伝わったことだろう。


 10年にわたるシリーズ公演の、今回はまだ2作目。これから年を重ね時間を経て、内田や共演者たちがどのように変化し進化していくのか、期待して追ってみたいと思う。


B_2403孤独生2

【プログラム】

1.プロローグ

2.宴

3.愛

4.崩落

5.静寂

6.兆し

7.回想

8.鎮魂

9.激動

10.対価

11.エピローグ


【出演】

内田好美(踊り/構成・演出・振付)

瀧本正信(カンテ)

川島桂子(カンテ)

徳永健太郎(ギター)

容昌(パーカッション)

森川拓哉(バイオリン・ピアノ)


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