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リレー連載:私とフラメンコ -新人公演を通して- 4

  • norique
  • 6月7日
  • 読了時間: 5分

更新日:6月11日

第4回 脇川 愛

【バイレ・ソロ部門 奨励賞】

 

(sábado, 7 de junio 2025)

 

あなたにとってフラメンコとは何ですか――。

仕事として関わっている人、趣味として楽しんでいる人、自身の生きがいとして無くてはならない人など、その向き合い方は人それぞれ。

そうしたフラメンコへの思いを、昨年の日本フラメンコ協会主催「第33回フラメンコ・ルネサンス21『新人公演』」の入賞者の方々にエッセイとして綴っていただき、リレー連載という形式でご紹介します。

フラメンコとの出会い、新人公演を通して得たものや感じたこと、自身にとってのフラメンコへの思いなどを語っていただきました。

第4回目は、バイレ・ソロ部門で奨励賞を受賞した脇川愛さんです。

 

編集/金子功子

Edición por Noriko Kaneko

 

A_2024脇川愛

[撮影]川島浩之 

[写真提供]一般社団法人日本フラメンコ協会


私がフラメンコを始めたのは、5歳の時でした。きっかけは、ディズニーキャラクターのミニーマウスが履いている「赤いヒールの靴」と「水玉のドレス」に憧れたからという子供らしい理由でした。


カルチャースクールのキッズクラスに通い始めた頃は、フラメンコよりも、そこで出会う同年代の友達と遊ぶことの方が楽しみでしたが、幼い頃から打楽器が好きだった私にとって、足で床を踏み鳴らしてリズムを刻むフラメンコは、すぐに夢中になれる魅力的なものでもありました。


ただただ楽しくて続けていましたが、気がつけば20年という月日が流れ、初めてコンクールに挑戦しました。コンクールではなかなか良い結果が残せず、ここ数年間は自分の踊りに迷いを感じ、「このままフラメンコを続けていいのだろうか」「人に感動を与える踊りとは何だろうか」「フラメンコとは...」と自問自答を繰り返す毎日でした。


そんな中、周りの多くの方からの温かい励ましや、的確なアドバイスが私の心の支えとなりました。スペインに短期留学に行った時には、唄い手と踊り手の家にホームステイをして踊り以外の事も学ぶことができました。


自分の踊りと真剣に向き合い、過去の映像を見返したり、尊敬するスペイン人の踊りを見て研究したりと、試行錯誤を重ねました。


そして、私のフラメンコ人生で大きな節目となった3度目の新人公演への挑戦を決めました。長年大切に磨いてきたパリージョ(カスタネット)を使ったシギリージャを多くの人に観ていただき、その表現を評価していただきたいという強い思いがあったからです。


本番までのリハーサルでは苦戦しましたが、「必ず受賞する」という強い覚悟を胸に、毎日自分の踊りと向き合う中で、ただ振りをなぞるだけでは、本当に伝えたい感情は観客には届かないということに気づきました。そこで、シギリージャという曲に、私自身の解釈による独自のストーリーを考え、一つ一つの表現に意味を持たせ丁寧に踊ることで、より自然で感情豊かな表現を目指しました。


本番前のリハーサルでは、ようやく自分の理想とする踊りに近づけたという手応えを感じることができ、自信を持って本番に臨むことができました。


ゲネプロでは、想定外のハプニングもあり動揺してしまいましたが、本番の舞台では、程よい緊張感の中で集中力を高め、その時感じたままを表現し最後まで踊りきった時は、言葉では言い表せないほどの喜びと、自分の中にある全部を出し切り、やり遂げたという大きな達成感でいっぱいでした。


審査基準が変わった初年度の受賞は、私にとって特別な意味を持つものでした。様々な覚悟を持ってこの舞台に挑んだこと、そして最後まで諦めずに積み重ねてきた努力は、決して裏切らないのだと、改めて強く実感しました。


この舞台や私を支えてくださいました全ての皆様に心から感謝申し上げます。本当にありがとうございました。また、この経験を通して、私はパリージョという楽器の持つ魅力をより感じ、さらに極めて磨いていこうと思いました。


将来的には、踊り手としてだけでなく、パリージョ奏者としても活動していきたいと考えています。そして、多くの方々にパリージョの魅力を知っていただくために、パリージョクラスの開講も視野に入れています。私にとってフラメンコは、単なる踊りではありません。それは、言葉や文化を超えて、人と人とが心を通わせることのできる、大切なコミュニケーションの手段であり、私の日常生活に欠かせない、かけがえのない存在です。


これからも、フラメンコの伝統文化を大切にしながら、新しいことにも積極的に挑戦し、自身の表現の幅を広げ、フラメンコの魅力を少しでも多くの人に伝えていきたいと思っています。


赤い靴への憧れから始まった私のフラメンコの道は、これからも続いていきます。


 

【プロフィール】

脇川 愛(Ai Wakikawa)/5歳からフラメンコを始める。2018年日本フラメンコ協会 第27回新人公演バイレ・ソロ部門準奨励賞受賞、2024年第33回新人公演バイレ・ソロ部門奨励賞受賞。2025年現代舞踊協会 河上鈴子スペイン舞踊新人群舞賞とオーディエンス賞受賞。映像作品、劇場、タブラオ等で活動。近年はパリージョでの音楽活動も行っている。


【新人公演とは】

一般社団法人日本フラメンコ協会(ANIF)が主催する、日本フラメンコ界の発展向上のため、次代を担うフラメンコ・アーティストの発掘および育成の場として、1991年から毎年夏に開催されている舞台公演。

プロフェッショナルへの登龍門として社会的に認知される一方、「新人公演は優劣順位をつけるためのものではなく、新人へのエールを送るために存在する」という当初からの理念に基づき、すべての出演者が主役であるとの考えから順位付けは行われません。

バイレソロ、バイレ群舞、ギター、カンテの各部門に分かれ、若干名の出場者に奨励賞、またはその他の賞が与えられます。

(*一部、ANIF公式サイトより引用)


〈参照URL〉


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