(martes, 16 de enero 2024)
2023年7月31日(月)~8月15日(火)
Showレストラン「ガルロチ」(東京・新宿)
写真/近藤佳奈
Fotos por Kana Kondo
文/金子功子
Texto por Noriko Kaneko
GW以来の開催となった今夏のガルロチでのスペイン人グループ公演は、日本のフラメンコ愛好家から熱い人気を集めるダンサー、マリア・モレーノとエル・ペロンによるステージが行われた。
マリアは実際に会うと、小柄でチャーミングな女性だ。しかし舞台に上がると、愛らしさの中に鋭さを秘め、ダイナミックでスピード感ある踊りで観客を釘付けにする。
一方、ペロンはその佇まいからしてパワフルでワイルド。そして踊り出すと優れた身体能力を発揮して、跳んだり蹴ったりと感じたままをストレートに表現する踊りが魅力だ。
取材日の演目はBプログラム。第1部のプレゼンテーション(オープニング)のテーマは“jugar al ritmo”(リズムで遊ぶ)。踊り手二人と歌い手二人で、フラメンコのリズムに興じながらステージを展開していく。
ほんのり灯るライトの下で、リズム遊びは静かに始まる。まずはソレアポルブレリアから、マリアの足の連打からミゲルの歌へつながれ、次はマヌエルの歌にペロンが踊りで応えて、と歌と踊りのキャッチボールが行われる。そのリズムはシギリージャへと変化し、そしてタンゴへと変わっていく。その変化する過程はあまりにも自然で、意表を突かれながらも「そう来たか」となんだかニヤリとしてしまう。
舞台中央にカホンが置かれると、そこにマリアが座り足を打ち鳴らし出す。そしてカホンや自らの身体を叩き、鳴らせる全てをパーカッションにしてリズムを奏でていく。互いに感覚を研ぎ澄まし、音とリズムで空気を支配し、濃密な時間が流れていく。楽しそうなリズム遊びに、すっかり引き込まれてしまった。
ホセのギターソロはグラナイーナ。味わい深く豊かな音色で、メロディアスな旋律を軽やかに奏でていく。その指さばきは鮮やかでいて滑らかで、高音の粒がきらめくように響き渡る。
ペロンのソロはタンゴ。ゴージャスなデザインのジャケットを着た背中が、とても絵になる。全身で曲を感じ取り楽しみながら踊る姿に、観客も熱中する。その空気をさらに盛り上げるように、両手を広げて観客をあおるような仕草も。跳んだりひねったりと身体使いが深く、その独創的な踊りが多くのファンを魅了するのも納得できる。
マリアのソレアは、静寂と激情のコントラスト。黒のドレスを身にまとい、ただ静かにレトラを聴きながらその世界に身を委ねる。そしてゆっくりと目覚めていくように、少しずつ歌に反応して踊り出し、内に秘めた感情がだんだんとその姿を表していく。流れるように奏でられていく一連のエスコビージャは、正確で安定していてまさに芸術的。そして曲の終盤へ向けて激しさを増していく踊りは、その肉体を通して客席のひとりひとりに向けて自身の思いを伝えるかのようだ。
休憩をはさんで後半の第2部は、全員によるクアドロ形式で行われるステージ。舞台の下手側にはテーブルが置かれ、それを囲むようにマリア、ミゲル、ペロンが座り、ヌディージョ(拳でリズムを叩くこと)でリズムを刻む。
まずはペロンが、ブレリア・アル・ゴルペを踊る。鮮やかな赤のスーツに身を包み、それぞれの歌い手と一対一で次々と踊りを披露していく。
歌い手二人によるカンテソロはファンダンゴ。深い嘆きを聴かせ歌声の成熟さを増したミゲルと、高く張りのある声と繊細な表現力が持ち味のマヌエル、双方の魅力をたっぷり聴かせてくれた。
マリアは黒地に白の水玉模様のノースリーブのコリンの衣装で、ピンクのマントンを翻しアレグリアスを生き生きと踊る。動きのキレも良くスピード感もあり、その若さの中に踊り手としての貫禄も表れてきた。
メンバーがそれぞれに高い技術と素晴らしい表現力を持ち、互いに敬意と親愛を示し最高のパフォーマンスを楽しませてくれた今回のグループ。彼らが舞台で見せてくれた数々の名場面が、今も脳裏に焼き付いている。
またいつの日か、同じメンバーでの再演が実現することを楽しみに待ちたい。
【出演】
マリア・モレーノ(踊り)
フアン・アマジャ“エル・ペロン”(踊り)
ミゲル・ラビ(カンテ)
マヌエル・デ・ヒネス(カンテ)
ホセ・ルイス・メディナ(ギター)
【プログラムA】
[1部]
・プレゼンテーション/ブレリアス・アル・ゴルペ
・カンテソロ/コリードス
・セギディージャ(エル・ペロン)
・バタデコーラでのカンティーニャ(マリア・モレーノ)
・フィン・デ・フィエスタ
[2部]
・全員によるクアドロ
【プログラムB】
[1部]
・プレゼンテーション/フガール・アル・リトモ
・ギターソロ
・タンゴ(エル・ペロン)
・ソレア(マリア・モレーノ)
[2部]
・全員によるクアドロ
【プログラムC】
[1部]・即興による演目
[2部]・全員によるクアドロ
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