(sábado, 15 de junio 2024)
2019年のマドリード初演以来、世界各地で上演され大人気を博しているマヌエル・リニャンの劇場作品「VIVA!」。昨年9月に中国・上海で行われたその公演の模様を、東京を拠点に活動するフラメンコダンサーの山本秀子さんにリポートしていただきました。
文・写真/山本秀子
Texto y fotos por Hideko Yamamoto
2020年のFestiva de Jerez期間中にビジャマルタ劇場で見たManuel Liñanの"VIVA!"。トランスジェンダーの男性舞踊手全員が綺麗に化粧をし、女装をして踊るこの作品は、女性以上に女性らしく妖艶な瞬間があるかと思えば、男性らしい強さ、テクニックを見せてくれる瞬間、笑い有り、感動有りで、気付けば込み上げる興奮で自分が出来得る限りの拍手を彼らに送っていました。終演後、鳴り止まない拍手に満場のスタンディングオベーションがその作品の素晴らしさを物語っていました。
その後、世界各地で上演され続けている"VIVA!"。あの感動にもう一度浸りたく、日本で上演されるのを今か今かと待っていましたが、残念ながらその願いは叶わず。代わりに東京から飛行機で3時間程の上海で上演が決定した事を上海の友人から聞き、迷わず上海行きを決めました。
かつて私が7年住んだ中国。当時も中国でフラメンコを教えたりしながら全国各地でショーをしたりしていましたが、まだまだフラメンコ人口が本当に本当に少なく、あの頃から考えたら"VIVA!"のアジア初演が中国になるとは思いもよらなかったのに、時代の変化を感じずにはいられません。
中国政府による厳しいパンデミック対策もあり、約4年間スペインに行くことも、スペインからアーティストを呼ぶことも出来なかった中国フラメンコ界にとっては、待ちに待ったビッグイベント。上海以外の都市からはフラメンコ教室の皆で上海ツアーを組んだり、SNS上でも分かりやすい程に皆の興奮や期待が伝わってきました。
上海で2公演、蘇州で1公演。上海から蘇州までは高速鉄道で30分程の距離。私の友人である中国にいるフラメンカたちは3公演とも見に行く人が多数いました。
上海の公演会場に到着すると期待と興奮の熱気が肌で感じられるくらいで、ホワイエではフラッシュモブがあったり、フラメンコ衣装を着て写真撮影をしたり、舞台でも公演が始まる前に上海のフラメンコダンサーとその生徒さんたちが前座的なショーを繰り広げたりと、まさにお祭り状態。
そしていよいよ公演が始まると、素敵なポーズや動きがあれば黄色い歓声があがり、ブエルタなどをする度に、すごい拍手と歓声で会場が大盛り上がり。さすが喜怒哀楽を素直に表す中国人。皆の反応が本当に素直で分かりやすく、スペインで見た時の何倍もの歓声と拍手のおかげか、演じてる舞踊手たちからも笑みが溢れ、時に皆の黄色い歓声が凄すぎて、舞台上では、演者たちのそれはそれは嬉しそうな顔と笑顔がこぼれ、テンションが上がっているのもあり、すごいパワーと全力投球の踊りで、より会場が湧き上がる。そして、それに対してさらに歓声が上がるという相乗効果で、こんな盛り上がってるフラメンコの舞台見たことない!というくらい盛り上がっていました。
私が中国にいた時よりも何倍もフラメンコ界が大きくなっているとはいえ、まだまだ人口に対しては少ない中国のフラメンコ人口。観客の大多数がおそらくフラメンコに関係ない人だということもあり、あがる歓声が「Oleeee!」といったハレオではなく、「キャーーー!!」という叫び声で、アイドルのコンサートに行っているかのような錯覚を覚える程でした。終演後は鳴り止まない拍手と叫び声で、マヌエルが土下座をして皆に感謝と喜びを伝える程。そんなシーンを目にして、フラメンコに対する知識の無い人でも、素晴らしい公演は国を問わず心を掴み、「Ole!」と「キャー!」という反応の違いはあれど、思わず何かを言わずにはいられない瞬間も同じなのだと改めて感じさせられました。
チケットの売れ行きはというと、劇場は1,200席、上海の初日は9.5割以上の売れ行き、2日目は完売、3日目の蘇州公演も完売だったそうです。
フラメンコ大国であるはずの日本には招聘が叶わず、上海でアジア初演となった背景には劇場の協力的なバックアップがあったそうで、今まで注目されていなかったフラメンコという分野に劇場側が注力するようになったとのこと。と言うことは、これはまだ始まりに過ぎず、今後益々上海や中国の大都市でスペイン人アーティストによる公演が増えることでしょう。
本当に何度でも観たい"VIVA!"。日本公演のために働きかけてくださっている方々もいるので、今後に期待。日本でも上演が叶うよう切に願っております。
【筆者プロフィール】
山本秀子(Hideko Yamamoto)
フラメンコダンサー。Benito GarciaのBGスタジオで講師を勤めながら、タブラオや公演などで精力的に活動中。父は中国人、母は日本と中国のハーフ。7年住んだ北京ではJavier Meilan率いる舞踊団に所属し、中国全土でフラメンコショーや教授活動も行っていた。
>>>>>