top of page

フラメンコ公演『TSUNA 〜鬼の腕〜』

  • norique
  • 7月2日
  • 読了時間: 4分

(miércoles, 2 de julio 2025)

 

[日時]2025年4月16日(水)

[会場]渋谷区文化総合センター大和田6階 伝承ホール


写真/佐藤尚久

Fotos por Naohisa Sato

文/金子功子

Texto por Noriko Kaneko


A_2504公家TSUNA

毎回独自の視点でテーマを選び舞台作品を創作するフラメンコ舞踊家、公家千彰の劇場公演が行われた。

今作のテーマは、平安時代中期の武将、源頼光の四天王の筆頭として活躍した武将、渡辺綱(わたなべのつな)。その華々しい鬼退治ぶりは『御伽草子』などでも語り継がれているという。公家にとっても縁があるこの人物が今年、2025年に没後千年という節目の年を迎えるにあたり、その鬼退治の物語を作品の主軸にしたと言う。


作品はストーリーの展開に沿って5章で編成される。

渡辺綱(公家)と幼馴染であった茨木童子(奥濱)は、金色の瞳を持っていたことから周囲に虐げられ、その果てに鬼へと変わり果ててしまう。

その後、鬼退治を命じられた綱は仲間と共に、酒吞童子(エル・プラテアオ)をはじめ次々に鬼たちを討ち取るが、茨木童子は腕を切り落としたものの、とどめを刺すことができなかった。

切り落とした鬼の腕は持ち帰りその力を封印したが、綱の母の姿に化けた茨木童子によって奪い返されてしまう。腕を取り返し本来の力を取り戻した鬼に翻弄された綱は、挙句の果て大切な仲間を刃にかけてしまう。

孤独になった綱は意を決し、最後の鬼退治へと向かう。そして目的を果たし、鬼たちは黄泉の国へ旅立ち、邪悪な魂も浄化されるという願いを込めて舞台は幕を閉じた。


B_2504公家TSUNA_2
(写真)鬼の腕を見張っていたのだが…

今作の見どころはやはり、主役の公家と奥濱との二人の場面だ。幼馴染という間柄だったのに討つ者討たれる者という関係性に変わり、仲睦まじい時代から対決の場面まで、それぞれの葛藤や苦しみを渾身の踊りや迫真の演技で表現。また二人ともパリージョの名手でもあり、その腕前も素晴らしかった。

部下の役として出演した小谷野と山下も、公家と共に鬼退治のメンバーとして多くの場面で躍動感のある表現豊かな踊りを披露した。


ミュージシャンたちは演奏だけでなく、鬼役として配役も行われた。鬼退治の場面でひとりずつ討ち取られていく演出はなかなかユニークだった。

津軽三味線の二人は作品の鍵となる場面で深みのある音色を響かせ、物語の世界観を見事に演出した。


また歴史的史実がベースになっていることから、語り役として自身もフラメンコやパリージョに親しむ活動写真弁士の山崎バニラを起用。物語の時代背景や状況設定を理解するのに大きな助けとなった。


最後の鬼退治の場面では、観客にも加勢してもらうためにカスタネットを持参するよう告知があり、会場のあちこちからパリージョが鳴り響いていた。観客が参加する面白い演出だったが、やるのであればもう少し人数が多かった方が、もっと迫力が出て盛り上がったのではないかと思う。


渡辺綱の物語を通して、千年という時を経ても変わらない人間の本質や、戦いの無い世の中を願う思いなどをこの作品に込めたと公家は言う。

ひとつの物語や題材をどのようにフラメンコで表現するか、その構成や演出は舞踊家の腕の見せ所だろうし、その創作過程は産みの苦しみを伴うものの、まさに作品作りの醍醐味だろう。

日本の歴史や文化といった固有の題材をフラメンコで表現するとき、そこで発揮されるユニークなアイデアや独創性にはあっと驚かされることも多い。一見フラメンコと結びつかないような題材から思いがけない傑作が誕生する可能性は、十分にある。


【プログラム】

第一章 砕かれた魂 ~Alma rota~

・越天楽

・Polo

・Zambra


第二章 "大江山の鬼退治" 毒を盛る ~Veneno~

・Bulerías de “Pepe Maya”

・Amma immi

・津軽甚句

・Tangos

・祇園小唄

・Tango de Triana


第三章  一条戻橋 ~En el puente~

・Martinete

 

第四章 鬼の腕 ~Mano de Demonio~

・Tanguillo

・六段~小山貢隼オリジナルソロ

・Siguiriyas


第五章 最後の鬼退治 ~Al final~

・Taranta ~ Soleá por Bulerías

・Finale


【出演】

(踊り)公家千彰 奥濱春彦 小谷野宏司 山下美希 

(ギター)ぺぺ・マジャ"マローテ" カルロス・パルド

(カンテ)ミゲル・デ・バダホス エル・プラテアオ

(津軽三味線)小山貢隼 小山隼乃

(フルート)Mashiro

(語り)山崎バニラ


=====

bottom of page